急接近の夏休み
高校に入って顔を合わせることが増えた二人だが、さすがに夏休みに入ると顔を見る回数もグッと減り、
柊斗が麻琴の顔を見たのは、体育祭の練習で麻琴が学校に来た二回だけ。
そうして、あっという間に夏休みも後半戦へ突入していた。
部活を終えた柊斗が家に向かっていると、電話をしている麻琴が前を歩いていた。
(ラッキー 久しぶりに顔見れた)
家が隣といっても、タイミングが合わないと滅多に会うことはない。
久しぶりに見れて嬉しいなと思いながら、気付かれないように自転車を降りる。
距離を保ちながら歩いていると、電話をしている声が聞こえてきた。
「―…うん。 車…ありがと… お兄ちゃん… ―さんと出かけるの… はい。
それじゃあ、明日9時… よろしくお願いします。 …またね」
所々聞こえなかったが、嬉しそうな表情で電話を切り、軽い足取りでアパートの階段を駆け上がる麻琴の姿を見て、これは…と思った柊斗は、朝陽に電話した。
「俺明日部活休むから」
―「…何だったんだ今の… まあ、いっか」
用件だけ言って切られた電話を特に気にしない朝陽。
「おかえり~」「柊斗おつかれ~」
遊びに来ていた颯汰と湊に返事もせず、部屋へ上がる。
「…今、すごい顔してなかったか?」
二人が心配するなか、柊斗は頭を冷やすためとりあえずシャワーを浴びることに。
冷たいシャワーのおかげで、冷静さが戻ってきた。
さっき聞こえた麻琴の電話の言葉を落ち着いて思い出す。
(敬語だったけど、時々タメ口だったな…
ということは、年上だけど親しいとか、同じ年だけど、まだ関係性が薄いか。
なんか、颯汰さんのことも言ってたな。親戚?
車で出かけるっぽかったよな… 大人数? 待てよ、もしも二人とかだったら? それが、男だったら…)
「柊斗?大丈夫か?」「何かあった?」
気にしている二人に、さっきの麻琴の電話のことを話した。
柊斗の話を聞きながら、颯汰と湊も考える。
「よし、俺たちで尾行しよう!」
―
翌朝8時30分。颯汰は湊と約束があると行って家を出た。
(こんな朝早くから珍しい… でも、よかった~
これで、お兄ちゃんに邪魔されない)
藍葉家の二階からアパートを見張る三人。
9時前になり、一台の車がアパートの前に停まった。
(なんか見覚えが…)
その時、麻琴がアパートから出てきて、三人は急いで玄関へ向かう。
「玲華さん!」
(((玲華?)))
「麻琴ちゃん!久しぶり~」
二人の会話が聞こえて、三人がバタバタと外へ出て行く。
「げっ…」
玄関から出てきた三人を見て眉をひそめる玲華。
「玲華!何で」
(何で三人が!? てか、こうなるから、お兄ちゃんに黙ってたのに…)
麻琴の約束していた相手は、柊斗の四つ上の姉、玲華。
大学2年生で、一人暮らしをしている。
クールな顔立ちながらも柔らかさを感じる目元に、人目を惹く美しさ。黒髪のロングヘアはゆるく巻かれている。
颯汰は玲華のことが好きで、中学生の時から告白し続け、麻琴と玲華が電話をしていると入ってきたり、一緒に遊ぶと聞くと付いてきたり…
(約束してたの玲華か…)
麻琴は玲華に憧れていて、玲華も麻琴のことを妹のように可愛がっている。
柊斗は相手が姉であったことに安心したが、同時に申し訳ないと思った…
(出かけるの楽しみにしてたのに、俺が二人に言ったから…)
騒ぐ三人に、湊が一つ案を出した。
「それなら、五人でどっか行かない?」
―
「二人とも高校はどう? 麻琴ちゃんは彼氏できたんじゃない?」
「いないですよ。 学校は楽しいです」
「そう。 もしかしたら、どっかの超ヘタレ君から想われてて、麻琴ちゃんに言えないだけかもよ~」
ミラー越しに柊斗を見ながら言う玲華。
(…それは、俺に言ってるよな)
「あはは~ もしそうなら、ありがたいですね」
(((え?)))
「それって、告られたら付き合うのか!?」
後ろの座席から颯汰が身を乗り出して助手席の麻琴に聞く。
「いや、それは分かんないけど、確実に意識はすると思う」
「だよね~ ヘタレ君に頑張って欲しいね~」
「ま、そんな人いないと思います」
真ん中に座る颯汰は柊斗の頭をポンポンと叩き、運転席の後ろに座る湊も腕を伸ばし肩を叩く。
(言いたいことは分かるけど…)
玲華の運転で五人で来たのは、遊園地。
「はい、着いたよ~」
「「「「ありがとう」」」ございます」
五人で遊ぶのは初めて。
玲華を先頭に、ジェットコースター、コーヒーカップ、空中ブランコなどなど次々アトラクションへ
「さて、そろそろここ行きますか!」
そう言って玲華がパンフレットで指したのはお化け屋敷。
「三つ制覇しよ!」
お化け屋敷はレベル別、三種類あった。
(……うっ ここだけは……)
お化け…というより驚かされるのが苦手な麻琴。
「無理無理!」って言いながら入って、怯えながらゆっくり進み、キャーキャーと怖がって出てくる。
…そんな可愛いことできない。
というか、まず入らないけど。
もし、無理矢理入れられたとしたら全力で走る。驚かされる前に走る。ゆっくり進んだら相手の思うつぼ。
ましてや、驚いて「キャー」なんて絶対言えない。
「う゛っ」って可愛くない声を出すか、声が出せず手が出るか…だと思う。
…入ったことないけど。
玲華がお化け屋敷に向かうと言った瞬間、さっきまで楽しそうにしていた麻琴が固まり、頭を抱えていた。
(そういえば、ホラーとかドッキリ系苦手だったな)
―「俺パス」
「なんだ柊斗、もしかして怖…(あ、そっか)」
颯汰は頭を抱える麻琴を見て、柊斗の言った意味が分かった。
「麻琴、ホラー無理だから行けないだろ。 柊斗と二人で待っとくか?」
「そっか!麻琴ちゃん、ホラーとか驚く系苦手だったね。 ごめんね。はしゃぎ過ぎちゃった。」
「いえ、私のことは気にせず楽しんできてください。 柊斗はホントにいいの?」
「興味ないから」
「そういうことなら、麻琴ちゃんは柊斗に任せて、俺らは行こうか。」
三人がお化け屋敷に行ったあと…
(どうしよう…柊斗と二人でどうやって待とう…)
(せっかく二人になれたんだ。一緒にいて、つまらないとは思われたくない… 何か… そういえば…)
「もし、高いところ大丈夫だったら、あれは?」
柊斗が指さしたのは観覧車。
(前にHaruがブログで乗ったって言ってたけど、どうだ…?)
「観覧車… そういえばHaruも乗ったって言ってた… 乗りたい!」
(よかったぁ…)「じゃあ」
そう言って歩き出す。
「観覧車に乗るのなんて小学生以来かも… 思ったより揺れるね。ちょっと怖いかも…
でも、Haruと同じ経験をしていると思えば…」
怖さを紛らわすためなのか、ブツブツと独り言を言う麻琴。
両手は観覧車の手すり部分をぎゅーっと力いっぱい握っている。
「…大丈夫?」
「ちょっと怖いけど大丈夫。だんだん慣れるはず…」
苦笑いの麻琴に、柊斗は自分の情けなさを感じていた。
(漫画の男だったら、こういうとき隣に行ったり、手を握って「大丈夫だよ」とか優しく言うんだろうな…
てか、あいつら付き合ってない段階でもそういうことするけど、女子はそれでもいいのか?
いや、女側も相手の男に気持ちがあるからいいのか… 俺は… せめて…)
「あ!Haruだ。 流してくれたの?ありがと!」
せめて少しでも気分が紛れるようにと、麻琴の好きなHaruの曲を流す。
(よかった。 少しは役だったかな…)
(柊斗優しいな。おかげでちょっと緊張解けてきたかも。
にしても、こんなに自分が怖がりだったとは… 本当は写真撮りたいのに、手離せないし…)
「ねぇ柊斗、お願いがあるんだけど…」
「ん?」
「私のスマホで写真撮ってくれない?
撮りたいんだけど、まだ手が離せそうになくて…」
(恥ずかしい… でも、お願いできるのは柊斗しかいないし…
あぁ…面倒くさいって思われたかな)
恥ずかしそうに笑いながら言う麻琴の衝撃に、柊斗は耐えていた。
(うっ……… 可愛すぎる… 心臓が… 大丈夫か?麻琴に気付かれてないよな?)
心の中で何度も深呼吸をして、落ち着かせる。
「いいよ。どこら辺?」
(麻琴からのお願いだったら何枚でも撮るし)
(よかったぁ… 何か震えてたけど大丈夫かな?)
「ありがと。あのメリーゴーランドとか、あと…」
(これ以上柊斗に手間をかけさせないように、早く手を離さないと)
観覧車もてっぺんに近づく頃には麻琴も慣れてきて、自分で写真を撮り始めていた。
片手は変わらず手すりを握っているが…
「もうすぐ一番上だ!」
ワクワクと嬉しそうに上を行くゴンドラを覗き込んでいる。
時々歌いながら、窓の外を笑顔で見る麻琴。
(だいぶ緊張なくなったみたいだな。 Haruパワーか?)
「おっ、一番上になった」
そう言って楽しそうに写真を撮る麻琴は、いつも以上にキラキラして見えた。
まるで夢なんじゃないかと思う、制限つきだけど魔法のような時間、二人だけの小さな世界。
「あと半分だね…」
外を見ながら呟く横顔は、少し残念そうだった。
ガコン
てっぺんを少し越えたあたりで観覧車が止まった。
「あれ?止まった?」
「もしかしたら、乗り降りで何かあって止まってるだけかも。すぐ動くよ」
「そっか…」
急に止まって不安になったのか、緩んでいた手すりを掴む手に、また力が入る。
一分ほどすると、無事動き出した。
「もう終わりかぁ…」
「…」
正直、向かいに座る麻琴ばっか見て、外の景色は見てなかった。
―「柊斗、ありがと」
―
お化け屋敷に行っていた三人と合流する。
「お待たせ~ 二人で大丈夫だった?」
「柊斗が観覧車に誘ってくれて、とっても楽しかったです! 写真もたくさん撮ってくれて」
麻琴の言葉に三人は驚いていた。
「そうだったの~ よかったね~」よしよしと麻琴の頭を撫でる玲華。
(へぇ~ 柊斗、頑張ったんだ)
「柊斗も楽しかった?」(聞かなくても分かるけど)
湊が柊斗の肩に手を回し聞くと、いつもは嫌がるのに、少し微笑んで「ああ」と頷く。
その目は、じっと麻琴を見ていた。
…
「なるほど。お前が昨日部活休んだのはそういうことね」
「ん」
昨日のことを話す柊斗の顔と声から、どれだけ嬉しかったかが伝わる。
「ま、いい思い出ができてよかったな」
(それにしても、まじでいい感じに進展してくじゃん。
柊斗も頑張ってるし、麻琴はどう思ってるのかな…)




