不安と安堵
梅雨に入り、今日も朝から雨。
いつもは自転車で行っている三人も、今日はバスで登校することにしたようで…
「おはよ… って、なんで颯汰は麻琴ちゃん掴まえてるの?」
「一緒に行こうって言ってるのに、お前ら待ってる間にしれ~っと先に行こうとしたから」
(この光景、前にも見たような…)
「なるほど… 麻琴ちゃんおはよ」
「おはようございます」
恥ずかしいので、なるべく顔が見えないように傘でかくして挨拶する。
(こんな姿をまた二人に見せるとは… 掴まれたときの腕の抜き方、検索しとこ)
颯汰と湊が話しながら前を歩き、その少し後ろを柊斗が、さらにその後ろを麻琴が歩く。
(ゆづ来てないな…)
いつもは先にバス停に着いている結月がいない。
その時、ピロンと通知音が鳴り確認すると、結月から今日は学校を休むという連絡がきた。
(マジか… ゆっくり休んでね…っと)
結月に返信をし終えるとバスが来た。
雨ということで、いつもより乗る人が多い。
「そういえば、結月ちゃんは?」
「今日は休むんだって」
颯汰と話しながらだったので、湊、颯汰、麻琴、柊斗の順で乗車、そのまま横一列で立つことに。
「そっかー 寂しくない? 一緒に弁当食べる? 教室迎えに行こうか?」
麻琴の頭に手を置き、顔を覗き込むように颯汰が揶揄いながら言う。
柊斗は、すぐ隣に麻琴がいることを嬉しく感じながらも、その奥からの湊と颯汰の視線が気になっていた。
さらに颯汰は、麻琴の顔を覗き込むようにしながらチラチラ見てくる。
(ウザい…)
「一緒に食べる人いるから」
麻琴が颯汰から顔を背けるように右を向くと、そこには柊斗が…
とは言っても、身長差30センチなので目線は柊斗の腕。
キーッ バスが停車すると、少しバランスを崩した麻琴の頭が柊斗の腕に軽く当たった。
「ごめん」
すぐに頭を持ち上げ、柊斗の顔を見上げて謝る。
「…大丈夫」
(まじで少し当たっただけだし。それより、この距離で見上げられるのは…)
恥ずかしさから、顔を逸らすように反対側を向いた。
冷やかしの視線を感じて横目で見ると、案の定ニヤついている湊と颯汰の顔が見えた。
麻琴は頭上での視線のやりとりには気付かず、バスに乗ってから不機嫌そうな柊斗のことが気になっていた。
(やっぱさっきの… 柊斗は女子が苦手って聞いたし…)
スッと颯汰の方に寄る麻琴。
「重いんだけど。 もう少し柊斗の方に行ってくれない?」
「…」
そう言われても、麻琴は動かなかった。
(え…ちょっと遠くなった…? ぶつかったから?それか、本当は最初から俺の隣がイヤだった…?)
麻琴の行動に落ち込む柊斗。
(あぁ… 多分、柊斗が顔逸らしたし、俺らが揶揄ってイライラしてたから麻琴ちゃん勘違いしちゃったかなぁ…)
なぜ麻琴が颯汰の方に寄ったのか理解した湊は、二人に少しだけ申し訳なく思った。
―
いつもより人口密度高めなバスを降りると、解放感を感じた。
…いろんな意味でも。
「あっ、柊斗さっきごめんね。腕大丈夫だった?」
(話しかけられるのイヤかもしれないけど、これだけは確認しとかないと…)
「本当に軽く当たっただけだから大丈夫」
「よかった~ 顔逸らされたから怒ってるかと…」
(いや、怒ってるっていうかシンプルに私が嫌だったのかも)
(あれか!確かに、急に顔そらされたらそう思うよな…)
「違う! あれは… 朝起きたらちょっと寝違えてて、左向くと少し痛かったから…」
(言い訳にしては、ちょっと苦しいか…?)
(……なんだぁ よかった… 寝違えてたのか)
少し焦った様な声で言うので驚いたが、怒ってるわけでも、嫌われているわけでもなかったし、理由を聞いて納得した。
「そっか。 今はもう大丈夫なの?」(左向いてるけど)
(なんとかごまかせたか。 あっ、今)「…いつの間にか治った」
(治るの早っ)「よかったね」
後ろから歩いてくる二人の会話が微笑ましいと思いながら歩く颯汰と湊。
「たまには雨もいいな」
「明日も降るかな」
いつもだったら嫌な雨の日の登校も、二人がいい感じになるならいいかな。
というか、いっそのこと柊斗がバス登校したらいいのに…
―でも、やっぱりこういうのはたまにがいいのかな。
それから雨で何度か一緒にバスで登校したが、特に進展はなく…
気付くと梅雨も明け、ジリジリと暑い日差しが降り注ぐ日々に。
そして、あっという間に夏休み前日になっていた―
―
教室に入ると、あちこちで明日から始まる夏休みについての話が聞こえてくる。
颯汰からの伝言を伝えるため朝陽の席に向かうと、彼もまた友だちと夏休みについて話をしていた。
「朝陽くん、話してるところごめんね。放課後、委員会あるから3年3組の教室に集合してほしいって」
「了解。 他のクラスにも伝えた?」
「結月には言った。1組と2組にはこれから行く予定」
「じゃあ、俺1組行くよ」
話していた友だちに「ちょっと行ってくる」と合図をして席を立つ朝陽。
「ありがとう。」
(朝陽くんと一緒でよかった~ 他のクラスに言いに行くの緊張したからありがたい。
話しやすいし、手伝ってくれるし、いい人だな~)
今回の委員会も四人で一緒に行くことに…
楽しそうに夏休みの話をしながら前を歩く麻琴と結月の後ろを、柊斗と朝陽が歩く。
(夏休みか… 顔見るの減るな…)
そんなことを考えながら、前を歩く麻琴を見ていると…
「そんなに見てたらバレるぞ」
コソッと耳打ちをする朝陽は、シシッといたずらに笑う。
委員会の話は、体育祭で三学年の同じ組でチームになりダンスを披露することと、そのための練習が夏休みにあり、場所とスケジュールを確認して、クラスに伝えてほしいとの事だった。
「とりあえず、仮で作ったスケジュールがあるから、それぞれメモしてください。変更あったらまた知らせるから。写真撮ったり、メモした人から帰っていいからね~ じゃあ、1組から…」
「クラスへの連絡は俺がやるよ。今日、スケジュール表送信して、前日にまた連絡するってことでいいかな?」
「ありがと。それじゃあ、連絡は交互にしない? 二回目の練習の前日は私が連絡回すよ」
(さすがに全部任せるのは申し訳ないし)
委員会についての話とは分かっているが、二人のやりとりを見てモヤモヤ…
朝陽と話しながら微笑む麻琴の顔に胸がざわめく。
(もし、この委員会がきっかけで麻琴が朝陽に惹かれたら… 朝陽はいい奴だし、その可能性がないとは言えない。
でも朝陽は俺の気持ち分かってるから、もしもの事があっても断るかも…でもそうなったら麻琴が悲しむし… いや、それよりも朝陽が惹かれる可能性も…)
ポーカーフェイスを保っているが、二人の様子を見て内心穏やかではない。 むしろ、大荒れ…
「柊斗くん、私たちも二人の真似して交互に連絡回す?」
「………わかった。 じゃあ、今日は俺がやるから」
「よろしくお願いします。」
「じゃ、委員会も終わったし」と、当然のように四人で教室を出る。
(なんか、四人でいるのも普通になってきたなぁ)
(もう委員会の集まりの時は、これが定番化してほしい…)
―
「じゃあ、みんな部活頑張ってね」
(麻琴は帰らないのか?)
生徒玄関まで一緒に来たところで、麻琴がそう言うと、結月は何かを思い出したように急にニコッと笑い
「そっか!麻琴はデート楽しんできてね!」
と手を振る。
(!?!?!?!?!?……デート?)
ドクンとなった心臓がギュッと締め付けられた…
(デート…?)
横から小さく「えっ…」驚く朝陽の声が聞こえる…
「(デートって…)そうだね。楽しんでくる! じゃあね」
手を振り、嬉しそうに階段の方へ向かっていく麻琴。
「いってらっしゃーい」
ニコニコと麻琴に向かって手を振る結月の後ろで、朝陽は驚き、柊斗は固まっていた…
(―……相手は? 周りに男がいる気配はなかったはず… 朝陽も何も言ってなかった。
ということは、違うクラス?先輩? 誰と…… どこに?)
動けない柊斗の隣から朝陽が結月に尋ねる。
「あの~…結月さん? デートって……」
朝陽からの質問に、結月は靴を履き替えながら悪戯な笑顔で答える。
「ん? あ~、同じクラスの相原天音って子と放課後デート」
「「―……?」」
「相原って、あの同じクラスの女子の…」
(…….女子?)
「そっ、最近仲良くなったらしくて、同じキャラが好きで、そのことについて語るんだーって嬉しそうにしてさ~」
結月は二人を見て、フフッと笑いながら楽しそうに言った。
「…あー なるほど…そういえば最近、仲良さそうにしてたな」
朝陽は納得したように呟く。
結月は満足そうに悪戯な笑顔を浮かべながら、
「安心して、デートってのは冗談だから。 じゃあ、二人ともまたね~」
と二人に向かって手を振り歩いて行った。
(……やっぱり苦手だ…)
いつからか、結月から揶揄われているように感じることが増えた。
(………でも、男じゃなくてよかったー…)
安心したけど、結月に揶揄われた恥ずかしさから、前髪をくしゃっと掻き上げ、ため息をつく柊斗。
その様子を見た朝陽が柊斗の肩にポンと手を置いた。




