連絡先
隣で歩いている麻琴を見て、柊斗はホッとした。
(ダメもとで思い切って一緒に帰らないか麻琴に言った時、心臓が口から飛び出すんじゃないかってほど緊張したけど、言ってよかった。)
二人が並んで歩くのなんて、誰も見たことないと思う。
(誘っといて何も話さないってのは…そうだ)
「さっき、何聴いてたの?」
何とか会話をしたくて振り絞った一言…
「Haruの新曲だけど…」
「それって、先週リリースされた?」
「え! 知ってるの?」
パーッと嬉しそうな麻琴の笑顔に、心臓ぎゅんとなり、膝が崩れるのを何とか耐えた柊斗。
(可愛すぎる!? 曲聴いててよかったー!)
麻琴がHaruを好きなことは知っているので、全曲聴いている。新曲ももちろんチェック済み。
他にも、麻琴の好きなもの、興味があるものなどの情報は、共通点が欲しくて、いつか会話のきっかけになればと思い、その都度調べている。
(柊斗、音楽に興味なさそうなのに知ってるんだ… たまたまかな?)
「私Haruが一番好きなんだよね~」
(知ってる)「俺もよく聴いてるよ」
「うそ!ホントに!?」
コクンと頷く柊斗。
(意外。柊斗がHaru聴いてるなんて知らなかった。そんな話聞いたことなかったし。共通点あったんだ。)
(何の曲が好きなんだろう?きっかけは?いつから? 周りで話せる人少ないから色々聞きたいし、話したくなる!でも、ウザいと思われないようにしないと)
「私はデビュー曲の『You and dream』が好きなんだけど、ちなみに柊斗は好きな曲とか…」
「『I know』かな」
(アルバムの曲だ! バラード系が好きなのかな)「癒やされるよね~ 聴くと落ち着く」
「あのさ…」
そこから、あの曲の~、MVの~など、目をキラキラさせHaruの話をしている麻琴の横顔を見て、高鳴る心臓、熱くなっていく顔、緩む頬を抑えながら柊斗は頑張って歩いた。
(本当にHaruが好きなんだな~ 可愛い。幸せすぎる)
麻琴の楽しそうな様子を見ていると、あっという間に家の前に着いた。
(もう終わりか…それにしても、こんなに話をしたの初めてだな…)
(もう着いちゃった… それにしても、柊斗とこんなに話したの初めてかも)
(ほとんど私が話してたけど、柊斗も話してくれたし、歩くのも合わせてくれて嬉しかったな。)
「一緒に帰ってくれてありがとう。楽しかった。
柊斗がHaruを聴いてるとは思わなかったから嬉しくて、私ばっか喋ってたね…
委員会も一緒だし、改めてよろしくね。 じゃあ、また明日…」
手を振り、アパートに向かう麻琴。
(はぁ…せっかく話せたのにな…)
名残惜しく麻琴の後ろ姿を見ていると、何かを思い出したかのように、急に振り返りトコトコと近づいてきた。
(? 何だ?)
「あのさ、ライン交換しない?」
(楽しかったから、つい言っちゃったけど、一回話しただけで調子乗ってるって思われたかな…)
「委員会一緒だから交換しておいたら、何かあったときいいかな…と思ったけど…
(でも考えたら、朝陽くんいるし、お兄ちゃんもいるから別にする必要ないって思うよね…)
ごめん。やっぱ…」
「これでいい?」
柊斗は画面に表示されているコードを見せてきた。
「あ、うん。ありがと…」
(危なっ… いきなりすぎて一瞬固まったけど、そのまま固まってたら「やっぱなし」って言いそうだったよな。)
お互い交換し、今度こそ麻琴はアパートの階段を上がっていった。
スマホの画面に映し出される名前を見る二人。
―なんか不思議…
―名前見るだけで幸せってあるんだな…
翌日昼休み―
「二人は部活決めたの?」
「私はダンス部に入ろうかなって思ってるよ」
「いいね!似合う! ゆづは?」
「私は弓道やってみようかな。こんな機会でしか触れなさそうだし」
「たしかに! いいね。かっこいい」
「麻琴は本当に部活入らないの?」
桃花が聞くと、麻琴は笑いながら
「うん。中学の時、部活の人間関係が面倒くさかったから、いいかな~って。
興味あることもないし。 その代わり歩いて帰るからさ。」
「そうなんだ。 まあ、散歩がてらいいかも。」
柊斗が教室に入ってから、何人かがチラチラとこちらの様子を伺うような視線を送ってくる。
柊斗が来た理由は一つ。
今日は結月と桃花が3組に来たから。
朝陽は、正面に座る整った顔を見ながら、少し声を抑え昨日のことを聞いてみる。
「それで?昨日は一緒に帰れたのかな?」
そう言うと、弁当に箸を伸ばしていた柊斗の手がピタッと止まる。
(まあ、柊斗のことだから少し後ろを歩くか、横を通り過ぎるだけで…)
「―……った」
「? ごめん、聞こえんかった。なんて?」
周りの話し声で聞き取れず聞き返すと、柊斗は照れくさそうに目線を逸らした。
「……一緒に帰って、ラインも交換した」
「は!? えっマジで?」
教室中に響く朝陽の声。教室中が「何だろう…」と朝陽を見る。
「びっくりした~ 矢野くん、どうしたんだろ?」
「さあ?」
桃花と麻琴はすぐに話に戻ったが、結月はしばらく朝陽と柊斗を見ていた。
(何があったんだろう…)
「声がでかい」
「悪い… それで?」
どういう流れで一緒に帰り、ライン交換をしたのか聞き出す。
昨日のことを話す柊斗の顔は、少し和らいでいて、声からも嬉しかったことが伝わってきた。
そして時々麻琴を見る。
(うん、うん。 いいねぇ~)
「そうか~ ホントよかったな!」
柊斗はコクンと頷く。
「…ありがと」
(本当に素直になったな… 嬉しいと人間素直になれるんだな~)
クールな顔からはわかりにくいが、ずっと嬉しそうな親友の表情を見て、これからもできることは協力してあげたいと思った。
(…麻琴関係か!)
二人の様子と、時々麻琴を見る柊斗の視線からピーンと来た結月。
(え?なに? もしかして委員会終わったあと何かあった?)
「麻琴、委員会終わった後って何かあった?」
結月が聞くと、麻琴は昨日のことを話し始めた。
(えぇー! いつの間にそんなことに… というか)
「何で私に言ってくれなかったの?」
「…ごめん、別に言うほどのことでもないかと…」
「藍葉くんと一緒に帰ったなんて知られたら、色々大変そうだもんね」
(そうだった。 言うほどのことではないというか、柊斗くんのことはなるべく話さないようにしてるから、言わなかったんだろうな…
麻琴から柊斗くんの話をする事はないし。)
「でも、好きなアーティストが一緒っていいよね。私も彼氏と趣味が一緒で付き合ったもん」
「ももちゃん彼氏いるの! すごーい!」
それから話題は桃花の彼氏の話へ―
(でも、麻琴から柊斗くんに近づくって… これは、もしかしたら…)
桃花の彼氏の話を楽しそうに聞いている麻琴と、柊斗の顔を見て結月はそんなことを思った。




