タイトル未定2026/10/08 22:10
あの時、勇気を出してよかった。よく頑張った。
でも………
「麻琴、嫌ではなかったんだよね?」
(うんうん)
「もう一回したいんだけどダメ?」
(ん゙ー……)
ダメじゃない。ダメじゃないけど……
固まっていると、顔を覆っている手に何か柔らかいものが。
「キッ!!」
ビックリして手を開けると、悪戯に笑う柊斗の顔が隙間から見えて、そのまま強引に顔を出された。
(嫌じゃないけど、これ以上は勘弁してぇ……)
◇
家に着くと、柊斗の家にマリちゃんたち家族の車があった。
もうみんな集合してるかも。でもその前に…
「柊斗にクリスマスプレゼントあるんだけど、家にあるから取ってくるね」
「誕生日も貰ったのにいいの?」
「それはそれ。これはこれ。ちょっと待ってて――ってか、先に家に入ってていいよ。みんな集まってるみたいだし」
「いや。待っとく。だから……ん」
今までは「じゃあね」って言って私が家の前で手を振って別れる流れだったけど、私の心の準備のためのハグが加わった。
初めてやった時は緊張で、手はどこに?顔は上?下?横?とか色々考えて、ギュッてしたらすぐ離れてたけど、少しずつ慣れて、ギューッくらいはできるように。
(すぐ戻るけど……)
これを取り入れてから分かったことがひとつある。
柊斗はハグが好きらしい。表情が大きく変わるわけじゃないけど、嬉しそうに見える。
だから、もっと早くやっておけばよかったなと思った。まだ恥ずかしさは抜けないけど、私も嬉しいし。
「……じゃあ、取ってきます」
家に向かう麻琴の後ろ姿を見ながら、溜まっていた色んな感情を出すようにため息が出た。
正直、無事家まで着けて安心した。幸せ過ぎて、帰るまでに事故るんじゃないかと思ったから。
麻琴と一緒にいると、人生最高の日がどんどん更新される。
「メリークリスマス」
「ありがと」
麻琴がくれた紙袋にはマグカップと、中にも何か入っているように見える。
「カップと、中に私が作ったクッキー入ってます。ワンパターンなんだけどね。でも、このカップはいい色じゃない?」
「うん。ありがと。どっちも嬉しいよ。
ところで、それは?」
麻琴の手には、もうひとつ紙袋が。
「ああ! これは、チョコチップ入りのクッキー。一応、差し入れってことで。柊斗のには入れてないからね」
(……みんなにもあるのか…)
まあそれでも、俺だけ特別分けられてるし、カップも貰ったし。
(家入ったらすぐ洗って、すぐ使おう)
「麻琴ちゃーん!やっと来たー」
「うっ! って、あれ? 玲華さん今日は来ないんじゃ…。お兄ちゃんと二人で出かけるって…」
柊斗と一緒にリビングに入ると、突然抱きつかれてビックリ。
「うん。そうなんだけど、颯汰が予約忘れてて、他のお店探したけどさすがにどこもいっぱいで。
まあ、私的にはみんなの過ごすのも楽しいからいいんだけど!」
私に抱きついたまま明るく言う玲華さんに対して、部屋の隅でブツブツ呟きながらいじけているお兄ちゃん。
人様の家でなにやってんだか……。
「二人ともお帰り。デートは楽しかった?」
さっきまでお兄ちゃんを慰めていた湊さんが、いつの間にか柊斗に肩を組んで聞いていた。
“デート”という言葉に反応して、脳内でここに来るまでの事が再生されると、ある場面でボッと体温が上昇。
「その様子だと、聞くだけ野暮か」
みんなに生温かい視線とニヤけ顔を向けられて、顔が噴火しそうだった。
◇
「じゃあ、全員揃ったところで、メリークリスマス!かんぱ~い!」
みんなから慰められて、すっかり元気になったお兄ちゃんのかけ声で、みんな乾杯。
親チームはカーンとグラスのぶつかるパーティーらしい音が響き、こどもチームはプラスチックのコップでコツン。
だったけど、柊斗だけ私があげたマグカップを早速使ってくれた。
わいわい話しながら食事をして、ケーキまで食べてまったりしてきた頃。
お父さんたちは酔い冷ましで外の風に当たりに、お母さんたちはテーブルで話に花を咲かせまくっていた。
「そうだ! 麻琴さんに見せたいものがあるんですよ~。 俺が作ったんですけど…」
レオンくんに手招きされて行くと、葉っぱ?枝?のブーケみたいなものがぶら下がっていた。
「可愛いけど、これなに?」
「これはヤドリギっていって、この下を通ると不死の力を得られるんですよ~。アメリカにいた時に教えてもらったんです。
それともう一つ。ヤドリギの木の下でキスすると、永遠に結ばれるんですよ」
「へぇ~…」
もう少し近くで見てみようと一歩踏み出したとき、玲華さんが私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
それと同時に、後ろから引っ張られてポスンと柊斗の腕の中に収まる。
何が起きているのか分からなくて振り向くと、湊さんとマリちゃんが手を伸ばしたまま固まっていた。
お兄ちゃんは私と一緒で、何事?と口を開けている。
「あ~残念。みんな知ってたか~」
「レオン、さすがにやり過ぎ…」
「マリの次はレオン? 麻琴ちゃんにちょっかい出さないでくれる?怒るよ?」
「危なかったぁ~…って、この兄妹全然分かってない感じなんだけど…」
「え!?マジで何!?」
みんなが何か言ってるのが微かに聞こえるけど、今それどころじゃない!
耳のすぐ後ろにある柊斗の心臓がドクドクしているのが聞こえる。たぶん、私と同じくらいの速度。
「間に合ってよかったぁ……。お前、マジいい加減にしろよ」
ホッとしたような言い方からの低い声に、背中がゾクッとした。
「ぇ? あの…ちょっと待って……。もしかして私、なんか危なかった系?」
「あのね、ヤドリギの下にいる女性はキスを断ったらダメなの」
「………………ひゃい!?」
それはマジな話?
聞いたこともない恐ろしいルールに疑ったけど、みんなの反応から、マリちゃんの言ったことが嘘ではないと分かった。
「ん~…あわよくばキスできるかもと思ったけど、やっぱ無理だったか。まあ、どんな反応するか見たかっただけなんだけどね。
それに麻琴さんなら、ルール言ってもここはアメリカじゃないって断りそうだけど」
(もしみんなが止めてくれなかったら………。あっぶな……。
まあでも、レオンくんの予想通りだったかも。それか殴るか。私が殴っても、みんな許してくれそうだし。
でも、待ってよ。ということは……)
人生で一番焦った。ヘラヘラ笑うレオンに、血管がブチ切れる寸前。
何回関わるなって言っても聞かないし、やることがエスカレートしてる。
俺だけじゃなく、みんながレオンに色々言う中、麻琴が俺の腕を掴んで一歩前へ。
「?」
何も言わない、動かない麻琴を見ていると、湊が俺の足を突き上を指さした。
(あ。そっか今……)
意味が分かって心臓が急かしてくるけど、さすがに家族の前でってのは……。
そう躊躇っていると、麻琴が俺の腕からスッと抜け出した。
「……な~んて!ごめん。なんか調子乗っちゃった!
これ、下通ってもいいことあるんだっけ? 二人でもいいのかな?」
恥ずかしさを誤魔化す笑顔と明るい声に、自分が情けなくなった。
(麻琴が勇気出してくれてるんだから、やるしかないだろ)
覚悟を決めて麻琴と向かい合う形になると、部屋の電気が消えた。
ギュッと目をつぶる麻琴に軽く触れるだけのキスをする。それだけでも胸がいっぱいに。
「――麻琴のお蔭で、今までで一番幸せ」
「っ!! ゎ…私も…です……」
暗い中でも、これだけ近いと麻琴の照れている顔がよく見える。
お互い、耳を澄ませないと聞こえないくらいの小さい声だけど、ちゃんと聞こえた。
「ごめ~ん。間違えて消しちゃった~。点けるよ?いい?」
タイミングを計ったかのような棒読みのマリに麻琴が反応すると、背筋を真っ直ぐ伸ばした。
「ありがとうございます! 点けて大丈夫です!」
元気よく麻琴が返事をすると、クリスマスらしくみんなの笑い声が部屋に響いた。
――この家に、この日に生まれてよかったな。
そうじゃなかったら、こんな幸せな日を過ごすこともなかっただろうから。
改めて、たくさんの感謝をした一日だった。




