同じだったんだ
学校祭二日目。昨日よりも廊下が人で埋め尽くされていて、歩くのもやっと。
「麻琴ちゃん!」
やけにざわついているなと思っていたけど、やっぱりそうだった。周りにコスプレしてる人たちがいるけど、そこだけ輝きすぎて、すぐに目が行く。
「玲華さん。湊さんも来てくれたんですね。お兄ちゃんも」
「もちろん! てか、ねぇ~!かわいいんだけど!髪巻いてるの初めて見た」
「へへ~。ありがとうございます」
玲華さんが褒めてくれた今日の髪も、もちろん天音ちゃん作。
くるくる巻いた髪をハーフアップのお団子にして、全体的にふわふわに仕上げてもらった。
クラスの担当の時間まで三人と一緒に回ることに。
「なんかもう懐かしいな~」
「ねえ、麻琴ちゃんは昨日どこ回った?」
「柊斗はカフェで、朝陽はコスプレだっけ? どっから行く?」
一緒にいる人が人だから、かなりの視線を感じるけど、もうこういう視線にも慣れてきた。まあ、私を見てる訳じゃないしね。
「麻琴ちゃんのメイド姿とかも見たかったな~。でもそしたら柊斗が死んでたかも」
「まさか~大袈裟ですよ。私的には玲華さんの見てみたいです。そうだ!大学の学園祭って何やるんですか?」
そんな話をしながらマリちゃんのクラスを出ると、案内を持ったレオンくんが声をかけてきた。
「二人とも来てたんだね。麻琴さんも一緒なんだ~。もしかして、お兄さん?はじめまして。
ねえ、マリのところ行ったなら、こっちにも来てよ。昨日、麻琴さん誘おうと思ったのに逃げられちゃったし」
「別に逃げた訳では…(私は気を利かせて、その場から立ち去っただけです)」
「麻琴ちゃんを困らせるようなことしないでよ。で、レオンのとこは何やってるの?和装だけど」
昨日はドラキュラの格好をしていたのに、今日は浴衣を着ていて、頭には犬?猫?の耳が着いている。
「お化け屋敷だよ。ちなみにこの格好は妖狐。ほら尻尾。昨日はドラキュラだったけどね」
「世界観どうなってんの?」
湊さんの言うとおりだけど、コスプレは本格的。昨日もちゃんと牙ついてたし。
「私たちはいいけど、麻琴ちゃんどうする?」
「……行ってみます…」
「マジで!? 子ども向けのホラーアニメも観れない麻琴が!? いくら高校生の手作りとはいえ入るの!?」
なるべくなら行きたくないけど、いい加減このくらいは行けるようにならないと、昨日みたいな揶揄われ方を一生されそうでイヤだから、挑戦してみようと思った。
それに、悲鳴より笑い声が聞こえるから、初めてにはちょうどいいかも。
「さすがに、いつまでも怖がっている場合ではないなと。それに笑い声聞こえるから大丈夫……だと思う」
◇
「コスプレとか見たかったな~」「店員さん、笑顔で接客しないと~」「写真撮ろ~」
「………(めっちゃウザい)」
知らない人と写真撮るのも疲れるけど、入ってきた瞬間ウザ絡みをしながら写真を撮ってくる三人は余計に疲れる。相手もしたくない。
でも、そんな三人に対する気持ちを相殺してくれるのが…
(やばい。今日も可愛すぎる。大丈夫か?変な奴に声かけられたりしてないよな?)
三人の後ろに立ち、俺と目が合うとニコッと笑う麻琴は昨日とは違う髪型。
この髪型を見ると、初デートを思い出す。あの時ももちろん可愛かったけど、髪が巻かれるとまた違う印象に。
(いつもと違う髪型見られて嬉しいけど、可愛くさせすぎるのも困るな)
「あ、これ三人に買ってもらったお昼ごはん。もしかしたら昨日みたいに買う時間ないかな~と思って」
「ありがと」
「藍葉。お兄さんがお前の代わりやってくれるなら、外で彼女と食べに行っていいよ」
「え~…俺一応客で来てるんだけど……」
という湊の声は、みんなの歓声と拍手にかき消された。
「まあ、二人のためなら仕方ないか……」
「よろしく」「湊さん、ありがとうございます」
ってことで、湊にすぐエプロンを渡して、麻琴と外階段に。
賑やかな雰囲気は感じられるけど、中よりは静かで、なんだか落ち着く。
ここに座るのは、麻琴の友だちの蒼木さんに頼まれて写真を撮られたとき以来。まじ役得で、最高だった。また何かないかな。
「こうやって座ると、椿さんに撮られたの思い出すね。協力してくれてありがとうございました」
「大したことしてないよ(俺がいい思いしただけだし)」
「そういえば、椿さんがまた写真撮りたいなって言ってたんだけど……」
「いいよ」
食べている間、玲華たちとどこを回ったとか、誰に会ったとか楽しそうに話をしている麻琴の顔を見ると、もうここから動けない気がしてきた。というか、動きたくない。
「もう戻りたくない。どうせ知らない人と写真撮ってばっかだし、このまま湊に任せても問題なさそうだし」
「あはは~。たしかに。みんなイケメンだったら誰でもいいのかも。
でも、柊斗と写真撮れた人嬉しそうだったよ。私も昨日嬉しかったし。まあ柊斗は楽しくないかもしれないけど」
「麻琴と撮るのは俺も嬉しいよ」
「くっ……」
(そういうことをサラッと言うのがズルい…)
ただでさえ名残惜しいのに、余計に行きたくなくなる。
とりあえず、熱が集まった顔を見られないように壁に顔を向けた。
「今日の髪型、初めて一緒に出かけた日と一緒だよね」
「え!? そうだっけ? ……あ!そういえばそうだったかも! よく覚えてたね! まあ、ここまで可愛くはできなかったけどね~」
「十分可愛かったよ。あの時写真撮っておけばよかったって、ホント後悔してる」
「……あの…それじゃあ今撮りますか?」
って自分で言ったけど、画面に映った自分の顔が赤すぎて恥ずかしくなった。
ジャージだし、背景なんてコンクリートと雲多めの空だけど、私の目にはジャージがあの時の服に、コンクリートと空が水槽にオーバーラップして見えた。
「……って、そろそろ戻らないと!私も教室行かないといけないし。知り合い来るかな~…――っ!」
勢いよく立ち上がった麻琴の手が顔の前に来たので、その手を掴んでみた。
(うん。やっぱり……)
「かわいい」
自分でも、こういうことをして、こんなこと言うのは柄じゃないなと思ったけど、自然と体が動いていた。
「あ…ありがとうございます……」
◇
「二日マジあっという間」
「ね~。一週間くらいやりたい」
楽しかった学校祭もあっという間に終わり、賑やかだった廊下と教室が、だんだんと元の殺風景な風景に戻っていく。
(ホントに楽しかったなぁ……。嬉しい事もたくさんあったし)
玲華さんたちが迷路に来てくれたあと、昨日は来られなかったゆづと朝陽くん、マリちゃん、うちの親と柊斗の親も来てくれた。
そして…
「え!?」
天音ちゃんと古川くんが一緒に。これはもしかして…
「実は、古川くんと付き合うことになりました」
「おめでとー!嬉しい!」
天音ちゃんのいつものニコニコ笑顔には少し照れが混ざっていて、古川くんも照れくさそうにするとコクンと頷いた。
(やっぱイベントパワーってすごいな~)
クラスの仕事が終わったあと、椿さんにお姉さんたちを紹介してもらって、Haru好きの楓さんと意気投合。いつか一緒にライブとか行けたらいいね。って話をしてラインまで交換した。
柊斗とは最後の二時間回ることができた。
マリちゃんとレオンくんから柊斗とも来てねと言われていたので一年生の教室がある階へ行くと、なぜか藍葉家が集合。私を含め、その場にいる全員が眩しさに目を細めていた。
マリちゃんたちのお父さんとお母さん初めて見たけど、やっぱ美形。でも柊斗のところとは逆というか、お父さんがニコニコ癒やし系で、お母さんがキリッとした美人。見事に二人に引き継がれてるって感じ。
話しかけられた私は緊張しっぱなしだった。
柊斗のお母さんと玲華さんに引っ張られ、フォトスポットが設置されている教室に入ると、そこで柊斗との写真をたくさん撮ってもらった。
特に柊斗のお母さんが張り切っていて、一つにつき10回近くシャッターの音が鳴っていた。
「普段撮らせてくれないけど、麻琴ちゃんといたらこんなに撮らせてくれるなんてね~」
そう言われて、柊斗は複雑そうな顔をしていたけど、私はすごく嬉しかった。まあ、やっぱりちょっと恥ずかしかったけど…。
◇
学校祭が終わると次は後夜祭。少し寂しそうにしていたみんなも、ここに来たらテンション復活。
「…なんで椿さんは後ろにいるの?」
「だって、この方が参考資料撮れるから」
スマホを振りながら私と柊斗を指して微笑むと、早速一枚撮られた。
こうしていると去年のことを思い出す。去年は柊斗とこんな風になるなんて思いもしなかった。
(あの時は本当にドキドキしたな~。まあ、今もドキドキしてるけど、ちょっと違うかも…)
去年と同じ流れで後夜祭が進み、一年生のミスにはマリちゃん、ミスターにはレオンくんが選ばれた。もちろん柊斗は二年連続ミスター。
そして、この発表が終わると――
去年は湊たちに協力してもらって麻琴の隣に立っていたけど、今年は違う。
「最後はみんなで歌うよ~隣の人と肩組んで~」
チラッと麻琴を見ると目が合って、はにかみながら左手を出した。
「今年も手を繋ぎますか?」
「うん…「じゃないだろ!」
手を重ねようとしたら、横から朝陽に首を締められながら引き寄せられた。
「手繋ぐなんていつもと変わんないんだから、腕組むくらいしろよ」
「そうだよ~。なら今年はみんなで腕を組む?」
そう言って、結月が両隣にいる朝陽と相原と腕を組むと、相原は川口と、麻琴の隣に来た蒼木さんも麻琴と腕を組み始めた。
「……いいですか?」
「…うん」
俺の右腕に控えめに掴むように左腕を回した麻琴の顔は、恥ずかしそうに笑っていた。たぶん俺も同じ顔をしていると思う。
手を繋ぐときよりも近くて緊張するけど、それよりもやっぱり嬉しいのほうが大きい。
「なあ、この流れだと、俺とお前も腕組んだ方がいい?」
「やめろ」
「うん。だよな」
曲が流れはじめ、みんなが体を揺らしながら歌い出すと、右袖が軽く引っ張られた。
「柊斗この歌わかる?」
「いや、わかんない」
「よかった。私だけ知らないのかと思った。去年もこの曲だっけ?緊張しすぎて全然覚えてない」
麻琴も緊張していたと聞いて、俺だけじゃなかったんだと嬉しかった。




