ドキドキ学校祭
一年に一回の大行事。待ちに待った学校祭一日目。
殺風景な教室が、喫茶店にお化け屋敷にシアタールームにと大変身。廊下まで飾り付けされ、みんなも色んな格好をしていて、まさにお祭り状態。
みんなの笑い声と話し声も普段の三倍以上に賑やかで、いつもと全く違う雰囲気にソワソワ、ワクワクが止まらない。
私のクラスは脱出ゲーム。教室には迷路がどーんと設置され、BGMには有名な探偵アニメのテーマソングが流れている。
「それじゃあ、担当の時間に遅れないように」
「「はーい」」
最初の担当メンバー以外、一斉に教室を飛び出しそれぞれお目当ての場所へ向かう。
「さて、どこから回ろうか―って、一組しかないよね!」
私は返事をする隙も与えられず、椿さんに手を引かれて人で賑わう廊下をどんどん進んでいった。
「すごっ。もう並んでる」
柊斗のクラスは喫茶店。とはいっても飲み物だけの提供だけど。
それでも、他のクラスとは段違いで教室の前には列が出来ていた。ちなみに並んでいるほとんどが女子。
その並んでいる人たちの会話から柊斗の名前が聞こえてきて、やっぱりか~となった。
「私たちもそうだけど、みんな目当ては一緒みたいね」
「イケメン近くで見られるとかマジありがたい」「一緒に写真撮ってくれるかな?」「彼女いるらしいけど、写真くらいこういう時はいけんじゃない?」
(写真か……私も撮りたいな~)
「安心して。二人のツーショットは私が撮ってあげるから」
心を読まれたのか、知らないうちに声に出していたのかは分からないけど、椿さんはスマホを振りながらニコッと笑った。
列を見たときは時間がかかるかなと思っていたけど、飲み物だけの提供だし、滞在時間も決まっているので回転が早く、意外にも早く私たちの順番が近づいてきた。
「どうしよ。何か変に緊張してきた。どんな顔して入ればいい?」
「笑っとけばいいんじゃない? ほら、せっかく可愛くしてもらったんだから、ちゃんと見えるように前向いて」
「うん」
今年も天音ちゃんにヘアアレンジしてもらった。
二つに分けた髪を編み込んで誕生日にもらったヘアピンを付け、下はゆるく巻いてもらった。いつもと全然違う雰囲気の可愛いヘアスタイル。髪を巻くのは初めてだからすごく新鮮で、自分でも見る度にテンションが上がる。
今年も魔法をかけてくれた天音ちゃんに感謝だ。
(柊斗、どんな反応するかな……)
「次の二名様どうぞ」
ガラッと扉が開き、少しドキドキしながら私は椿さんと一緒に教室に入った。
「いらっしゃいま…せ……」
(………え?マジで? 可愛すぎない? その可愛さは危ないんだけど)
普段やらない二つ結びだし、ストレートな麻琴の髪がゆるく巻かれている。いつもと違う雰囲気にかなりグッときた。可愛すぎて呼吸止まった。
「来ちゃいました。エプロン似合ってるね。かっこいい」
まだ衝撃が落ち着いていないのに、はにかみながらそんなこと言われて膝から崩れ落ちるところだった。
「…ありがと。麻琴もか―」
「じゃあ、案内しま~す」
タイミング悪く割り込んで麻琴たちを案内しようとした男子に、かなりイラッとしたけど、ギリギリ押さえて俺が二人を案内すると言った。
ずっと入り口から動かなかった俺がそんなことを言ったから驚いていたけど、麻琴の顔を見て察したようで、ポンと俺の肩を叩くと、あとから入った人を案内し始めた。
二人を席に案内して注文を受け、頼まれたアイスティーを持って行くと、麻琴は「ありがと」とニコッと笑った。
(可愛すぎる。ずっと居てくれないかな)
「あの……一緒に写真撮ってもらえませんか?」
振り向くと女子二人がスマホを握りしめて立っていた。上履きの色からして一年。
さっきまではクラスメイトに説得されて、俺ともう一人男子を入れる条件で渋々撮ってたけど、麻琴の前で他の女子とってのは……
俺の気持ちを察しているのか、クラスメイトも何も言わなくて、少し気まずい空気になった時…
「じゃあ、せっかくなので、二人のあとに私たちもお願いしていいですか?」
麻琴が控えめに言うと、正面に座っていた友だちが「そこは私とでしょ」とつっこんだ。友だちの言う通りだと思う。
でもこれで麻琴とは撮って他の人とは撮らないってのも麻琴が反感買うし……っていうか、この二人のためにそうやって言ったんだろうな…。
「……わかった」
少し複雑だけど、仕方ない。
一年の女子二人とはもう一人男子を呼んで写真を撮り、他にも撮りたいと言った何人かも同じようにサッと撮った。
「それでは、お願いします……」
恥ずかしそうに麻琴が近づいて来ると、隣に立っていた男子が空気を読んでスッと離れていく。
いつものように拳一つ分空けて隣に立つ麻琴に、俺の方から近づいてくっつくと、目を見開いた驚いた顔で俺の顔を見上げてきた。
「え?あ、近…え?」
恥ずかしそうにパニクってるのが可愛すぎて思わず笑みが溢れる。
カシャ。
「来てくれてありがと。俺も麻琴のクラス行くから。午後は一緒に回ろう」
「うん。待ってるね」
「あ、あと……」
「ん?」と軽く首を傾げるその顔に、グッと顔を近づける。
「今日も可愛い」
麻琴にだけ聞こえるように囁くと、耳を勢いよくバッと押さえて顔を真っ赤にした。
「あ…ありがとう…ございます」
声を軽く震わせて言った麻琴は、友だちの手を取るとあっという間に遠ざかる。
(どれだけ恥ずかしかったり照れていてもちゃんとお礼は言うんだよな……マジで可愛い)
みんなが自由に行動している開放的なこの状況に当てられて、俺もいつもより大胆になれている…というか浮かれてるかも。
耳元で囁いた柊斗の声が、感覚と一緒に離れない。久しぶりに心臓がバクバクと大きな音をたてている。
(不意打ちであんな、か…可愛いって……)
あんな風に近寄られたのも初めてだし、耳元で囁かれるなんて……キャパオーバーだ……
学校祭はまだまだこれからなのに、ベッドに倒れ込んでしばらく休みたい。
「…と。…ことってば……麻琴!」
「はい!……あ」
グッと後ろに引かれて我に返り、ここまで引っ張ってしまった椿さんに謝ると「まあ、あんなことされたら、そうなるのも仕方ないけどね」と言われて、余計に顔が熱くなった。
◇
交代の時間になったので教室に行くと10人ほど並んでいた。
私たちのクラスは、迷路を進みながら5つのクイズを解いていく脱出ゲーム。
椿さんは受付、私は最後の問題を出す係で、正解した人をゴールに案内する。
「やっほー」「来たよ~」
迷路の壁からひょこっと顔を出したのは天音ちゃんとももちゃん。
「二人とも来てくれてありがとー。てか、浴衣めっちゃ可愛いね!」
「髪やった時はジャージだったもんね。藍葉くんのところ行った?いつもと違う麻琴ちゃん見て、何か言ってくれた?」
目をキラキラさせる二人に、「可愛いって言ってもらったよ」と言うと「よかったね」「やった甲斐があるわ~」とニコニコ。
どういう風にかは恥ずかしくてさすがに言えなかったけど、思い出しちゃって顔がポッと熱くなった。
◇
「あと5分で終了でーす」
あと5分で交代の時間。柊斗は行くからって言ってくれたけど、あれだけ柊斗目当ての女子たちが並んでいたらなかなか抜けられないだろうし、仕方ないか…午後も回れなかったらどうしよ……
ヒントを出したりゴールへ案内しながら、何となくぼんやりした気持ちでいると、急に拍手と歓声が聞こえてきた。
しかも、その拍手と歓声がだんだん近づいて来ているというか……
私もそうだけど、クイズに挑戦していた人たちも何が起こったのか気になってキョロキョロしている。
その時、スッと一人入ってきて、この騒ぎが何だったのか納得した。なぜなら、私の目の前でも同じように拍手と歓声が上がったから。
「藍葉先輩だ!」「ヤバっ!こんな至近距離で見るの初めて!」「背高っ!本当にモデルみたい」
グッと顔を見上げている女子たちには一切興味を示さず、柊斗は私に近づいて来た。
「間に合ってよかった」
「あ、うん。来てくれてありがと…」
来られないかなと思っていたのに来てくれて、安心したように笑うから驚きと嬉しさと恥ずかしさが混ざって、思ったように声が出なかった。
それにしても、最初の歓声が聞こえて、1分くらいしか経ってないと思う。それで4つ答えて迷路を進んだってなると…
「どんなペース!? 迷路突き破った? え?クイズやった?顔パスしてない?」
「いや、普通に答えたよ。迷ったりもしなかったからスムーズに来れた」
柊斗の冷静に答える声に、心の中で喋っていたつもりだったけど声に出していたことに気付き恥ずかしくなった…。普通に女子たちにも笑われたし。
「それはホント、すごい…です。じゃあ、最後の問題を……ちょっと難しいけど、柊斗ならすぐ分かるかも」
問題の文が書かれた紙を見せると、柊斗はサーッと読んで口の端を少し上げた。
「もう分かった?答えていいよ!これで正解したら柊斗が最速ゴールかも」
私だけじゃなく、今は考えるの止まっちゃってるけど、さっきから考えている人たちも柊斗に期待の眼差しを向ける。
「……これって、答えたらすぐ出ないといけない?」
「ん?まあ、みんな答えたらすぐ出てくけど……」
少しだけ下がった眉を見て、さすがの私でも柊斗の言いたいことが分かった。
「あ、ううん。別にすぐ出て行かないといけないって訳でもないよ!少し話してから出る人もいるし」
そう言うと、眉がいつもの位置に戻り口元に小さくカーブを描いた。
◇
無事全員脱出させて柊斗と最初に向かったのは、ゆづと朝陽くんのクラス。
妖怪のコスプレ大会で、投票もあるから絶対に二人で来てねと言われていた。
「麻琴、柊斗くんいらっしゃ~い」「ちゃんと二人で来たな」
「もしかして、ゆづは口裂け女で朝陽くんは…天狗?」
「正解! 私キレイ?」
マスクを取ってにいーっと笑うと、口裂けメイクを施した口が大きくカーブを描いていた。
「うわっ…リアル……」
まじまじとゆづの顔を見ていると「すごいでしょ!麻琴の口も裂いてあげようか?」と笑いながら私の頬を引っ張ってきた。
「遠慮しておきまふ」
「そう?じゃあ、中にどうぞ」
「ちょっと待って。本当に驚かさないんだよね?」
コスプレ大会って聞いていたけど、外観がどう見てもお化け屋敷にしか見えない。一応、妖怪屋敷とは書いているけど。
「そんなんじゃないって~。ただのコスプレ大会! 中は暗いけど脅かすことはしないから。セットとか結構こだわったんだよ。
あ、ちなみにカップルは手を繋いで入るのがルールだから。はい、繋いで~」
「え!? 何そのルール。必要?」
「必要、必要。こうやってルールにすることで奥手カップルたちに手を繋がせるというアシストをしてるわけよ。別に二人だけに言ってるわけじゃないからね。ほら早く」
ニヤけ顔で言ってくるあたりが、かなり怪しい。嘘っぽい。
二人を疑いの目で見ていると、ずっと黙っていた柊斗がスッと私の手を取って「入ろ」と微笑んだ。
「…はい」
私たちを見て満足したゆづと朝陽くんは入り口のカーテンを開けた。
「「ようこそ妖怪屋敷へ」」
黒いカーテンをくぐると、暗い中青い光に照らされた井戸が真ん中にあり、赤い光に照らされた障子やお墓の前で妖怪たちの撮影会が行われていた。
「ちなみに、私の撮影ポイントはあっち」
ゆづが指さしたのは今はのっぺらぼうがいる電柱。まあ、口裂け女だしね。やっぱ電柱か。
「俺はあそこ」
朝陽くんが指さしたのは、今はカッパがいる森っぽいところ。
「マジですごい!! このセットのクオリティでお化け屋敷だったら絶対に入ってないわ! 早速写真撮ろ!あ、写真撮るとき手は…」
「仕方ない。写真撮るときだけ離してもいいよ」
柊斗とそっと手を離し、ゆづと朝陽くんそれぞれとペアの写真、ゆづと私、四人でも撮ったりして楽しんだ。
「投票してくれてありがとね。じゃあ最後に、カップルは井戸に入って写真撮らないといけないってルールがあるから。はい、二人入って…」
「いや、絶対嘘でしょ。普通に出てく人たちいたよ!」
「あ~それは残念。その人たちには誰も教えてあげなかったんだね。二人は私たちがいてラッキーだったね。ほら、今なら人そんないないから、ちゃちゃっと撮ろ。あ、手は繋いだままね」
一歩も引く気配がない二人にこれ以上抵抗しても注目を集めるだけだと観念して、おとなしく井戸の中に入った。
「じゃあ、撮るよ~はいチー」
その瞬間、突然照明が消えて真っ暗に。自分でも分かるくらい体がビクッとなった。
「へ?なに?」
「大丈夫、大丈夫。誰かが間違えてコンセント抜いちゃったみたい」
「はぁ~…なんだ…ビックリした~」
安堵しているとパッと照明が点いて、目の前に――




