心配で
翌日、少しでも緊張を和らげようとHaruの曲を聴きながら待ち合わせ場所で立っていると、男女問わず、すれ違う人を振り向かせながらマリちゃんが現れた。
(すっごいな……。そりゃあ、こんな美少女歩いてたら見るよね~。私も振り向く自信ある。
柊斗と歩いてる時も、よくこの光景見るな~。そういえば、こういう人たちって、自分が振り向くこととかあんのかな?)
「……お待たせ」
愛想とかないけど、元がいいからどんな顔でも可愛い。
白フリルのオフショルダーのトップスと、デニムのショートパンツからはスラッと細くて長い足が伸びていて、私がスカウトマンとかだったら、確実に声をかけている。
「いえいえ…。じゃあ、入ろうか」
色んな意味で緊張しながら喫茶店の扉を開けた。
―結月Side
昨日二人が約束しているのを聞いて気になって来てみたら、案の定柊斗くんもいた。
私たちを見ると、すごくイヤそうな顔。そもそも、帽子を深く被ったところで、そのイケメンオーラは消せてない。
現に、すれ違う人たちも「顔見えないけど、絶対イケメンだよ」とか言ってるし。
ターゲット二人がお店に入ったので、私たちもあとを追う。
運良く隣の席に座れて、これまた幸いにも仕切りがある。二人に、頭が出ないように低姿勢でいることと、話し声が聞こえても大丈夫なように、名前は言わないよう注意して、隣の会話に耳を澄ませる。
「なんの話するんだろ…」
「別れろとかだったらどうする?」
「(…人のことだからって面白がりやがって)」
「―…えーっと…まだ三日しか経ってないけど、学校はどう? マリちゃん可愛いから、みんな話しかけてくるでしょ。部活とか…仲よくなった人とか……」
この沈黙に耐えられなくなっただろう麻琴が先に話すと、一拍置いてマリちゃんの声が聞こえてきた。
「昨日、レオンが一緒にお昼食べようって言ったときは断ったのに、どうして私は断らなかったの?」
一昨日までの自信に満ち溢れていた様子とは違う。探ってるというか、伺っているというか、そんな感じの控えめな声。
(てっきり柊斗くんの話すると思ったのに…)
「ん~…話してみたかったし、聞きたいこともあったから。でも正直、可愛くて断れなかったってのもあるんだけど。私、美人に弱いから。
いや、レオンくんも顔は整ってるけど、私が断っても一緒に食べる人なんて山ほどいたでしょ?それに…いくら他の人がいても柊斗が嫌がるかな~と思ったから…(ってのもあるけど、ぶっちゃけあの感じ苦手なんだよね~…)」
「「だってよ~」」
小声で正面に座っている柊斗くんに言うと、朝陽と声が揃った。
「(こいつらウザい)」
私たちと、たぶんレオンくんにも苛ついてるんだろうな~って顔をしている柊斗くんは、気持ちを落ち着かせたいのか、アイスコーヒーを一口飲む。
「はぁ~…なんかな~……。変わってるって言われない? 初めて会った日も私の胸見て「でかっ」って言ってたし、私の方が柊斗と似合うって言っても怒らなかったし…ていうか、(なんかいいこと言っちゃって…)…」
「ん?」
「……それに私のこと可愛いって言うし。普通、自分の彼氏のこと好きって言ってる女子褒める?……なんなの?」
「変わってるって言われたことないし、褒めるもなにも可愛いし大っきいのも事実を言ってるだけだから。
一昨日のも、色々とグサッとは来たけど、私も言いたいことは言ったし。それに…悪いことばかりではなかったというか……」
(放課後のこと思い出してるのかな?)
急に声が小さくなったけど照れたように笑う麻琴の顔が浮かんだ。
柊斗くんも思い出しているのか、帽子を下げて、私たちから顔を見えないようにしている。
「何があったんでしょうね~?」
朝陽がニヤけ顔で顔を覗き込むと、顔を潰された。うん。さっきから調子乗ってるから、一回やられた方がいい。うるさし。
「何ニヤニヤしてんの…?」
「えっ?あー、いや~…。それに、色々言われてきたのに比べれば、マリちゃんに言われたことなんて全然。だよねって感じだし。あんな風に言われて、いちいち怒ってたら疲れるよ~。うん。今は本当にみんな優しくて…」
その瞬間、さっきまで笑って聞いていた私も朝陽もスッと表情が変わった。
柊斗くんは帽子をより深く被り、俯いている。
「…何言われてきたの?」
「んーっとね…、柊斗へのお願いを断ったら、「性格悪い」「独り占めしたいんでしょ」とか。柊斗のこと何も知らないって言ったら、「役に立たない」「何のために隣に住んでんの」とか。今考えてもアレは意味分かんない。
あと、私のお兄ちゃんと湊さん仲がいいんだけど、湊さんから声かけられたときは、周りから睨まれて、「地味なくせに」「絶対勘違いしてるよ」とか言われたでしょ~。するわけないじゃん。声かけただけで勘違いされたら、湊さんも迷惑だよね?
まあ、どれもその時に言われるだけで、嫌がらせはなかったからまだいいんだけど。
てか、一人の言うこと聞いて、他の人断ったりしたら絶対面倒なことになるじゃんね?いちいち聞いてられないし、聞いたところで私にメリットないもん。
告白してダメだったら私のせいって言われたこともあったよ。「私が協力しないから」「悪口吹き込んだでしょ」とかね。
…そもそも喋ってなかったから、そういうこと言ったり、お願いも無理な話なんだけどね」
麻琴は笑って話しているけど、それを聞いている柊斗くんは自責の念に襲われているのか、俯いて頭をグッと押さえている。
朝陽から聞いたけど、麻琴がそういうことを言われているのは、やっぱり知ってたみたい。
でも変に助けたり、庇うようなことをしたら逆効果になるんじゃないかって。たしかにそうだったかも。
(まあ、麻琴も柊斗くんに何もして欲しくないって言ってたしな~。自分でも、「言い返したら余計に言われるから」ってスルーしてたし)
「ああ~…俺も似たようなことあった、あった。まあ、俺はケチってしか言われてないけど…女同士は怖いな」
(そういえば、朝陽が言われてるのも何回か見たな…)
それに、麻琴が聞いてくれないからって、私に言ってくる子も何人かいた。親友の私からお願いしたら聞くんじゃないかって……もちろん、私も願い下げ。
ホントあの時は、この世に男は柊斗くんしかいないの?って思った。
「見た目的にも、お願いしたら聞いてくれそうと思われてたんだよね~。それで、断ったら逆ギレされて…。
一回、私が代わりに言い返そうとしたら、言う前に『ありがとう』って止められてさ。『よかったの?』って聞いたら、『ああやって図々しく人に頼んで逆ギレしてくる人は、人から何か言われるの嫌いだし、被害者ぶるのも上手だから』って。
まあ、私を巻き込みたくないってのもあったみたいだけど。だから……
もどかしかったけど、私たちは何もしなくてよかったんだよ。私たちが何か言われたら、自分のせいだって思いそうじゃん?あの子の性格からして」
「……」
私たちがそんな話をしていると、隣からマリちゃんの少し驚いたような声が聞こえてきた。
「家隣なのに仲良くなかったの? 湊くんとお兄さんは仲いいんでしょ?」
「うん。二人はね。でも私たちは、漫画みたいにいつも一緒に学校行って帰って~もないし、遊ぶこともなかったから、話す機会もなかったってわけ。まあ、私も避けちゃってたんだけど…」
明るく言ってるけど、どこが寂しげな声。柊斗くんは麻琴が話をする度にどんどん沈んで行く。
(うん。まあ、事実だし仕方ないよね)
「だから、今普通に話してるのも不思議なんだよね~。まあ、一番不思議なのは付き合ってるってことだけど!」
顔は見えないけど、ニコッと笑う麻琴の顔が浮かぶ。
私もだけど朝陽も、そして柊斗くんも、麻琴の声につられて顔が緩んだ。
「それよりさ。小さい時、柊斗と一緒に遊んだりしてた?どんなことした? 女の子と遊ぶ柊斗って想像できなくて聞いてみたかったんだよね~」
「―…みんなもいたけど、小さい時はかくれんぼとか色々…あとはトランプで遊んだり―」
マリちゃんが麻琴の話を聞いてどう思ったのかは分かんないけど、柊斗くんとの思い出をぽつりぽつり話し出した。それをおそらく笑顔で聞きながら、「いいな~」「それで?」「他には?」と麻琴が相づちを入れると、徐々に話し方が変わってきた。
その声を聞いていた私たちは、すっかり気が緩んだ。
「なんか、心配する必要なかったな」
「だね。 まあ、昨日会ってみるって言った時点で大丈夫だと思ってたけど。いくら可愛くても、気が合わなさそうだったり、嫌だと思ったら何かと理由付けて断ってるし、会ったとしても早く帰りたくて、あんな風に自分から話題広げないと思う。てか、もう普通に話してるよね二人とも」
笑い声も混ざって、友だち同士の会話のように楽しげな声が隣から聞こえる。
「ねぇ……、従兄弟なのに好きっておかしいと思う?」
「思わないよ。あんなかっこいい従兄弟だったらそうなるって! 変って言ってくる人がいたら、私の従兄弟柊斗ですけど。って言えば、みんな納得するよ~。 そうだ。聞きたかったんだけど、柊斗のどこが好きなの?」
「クールでかっこいいところ。それに、いつも素っ気ない柊斗に特別扱いされたら、お姫様になった気分になれそうじゃん? そっちは?」
「え? あー…えっと―」
「来た来た来た!」
緩んでいたところに、背筋がシャキッとなる話題が出てきた。
「ほら、しっかり聞いとけよ!かっこいい従兄弟くん」
待ち望んでいた展開に私と朝陽は大興奮。隣の声を聞き逃さないよう耳に手を当てて体を寄せる。
「(うるさっ! バレたらどうするんだよ……)」
顔は私たちを呆れたように見てたけど、柊斗くんも同じように隣の声に集中している。
「一番は優しいところかな。一緒に歩くとき合わせてくれるし、どんな話でもちゃんと聞いて返事もしてくれて、私の言ったこと尊重してくれるし、気にかけてくれるし…。それに、私の好きなものも知ってくれて―」
「ちょっと待って。それ本当に柊斗の話?」
「ん? そうに決まってんじゃん。 ここで他の人の話してたらおかしいでしょ」
「…いや、まあ、そうなんだけど…… ただ、あまりにも私の知ってる柊斗と違うから……」
「そうなの?」
吹き出しそうになったのを必死で押さえる。
「ヤバいヤバい! 面白すぎる! 俺らはずっと見てきてるからアレだけど、麻琴と一緒にいるの見たことなかったらそうなるよな」
「だよね~。こういう顔とかも知らなさそう」
肩が小刻みに動いているせいか、二人して震えた声しか出ない。
「(ずっとうるさいな…)」
柊斗くんに睨まれて、私たちが必死に笑いを押し殺していると、上から声が聞こえた。
「ゆづ? 朝陽くんと……柊斗も…何してんの?」
その声にビクッと柊斗くんの体が反応して、ゆっくりと顔を上げると、仕切りの上から麻琴がじとーっとした目で覗いているのを見て、今までになく焦った顔をしていた。
(これは、まずいかも……?)




