ライバル登場
午前中出校日だった麻琴は、学校の掃除と学活が終わると、同じクラスの椿と図書室で課題をして少し話をしてから校舎を出た。
門に向かう前にグラウンドを少し覗くと、女子サッカー部が練習をしていた。
(そっか… 今日の部活は午前中だったか… 教室行く前にグラウンド行けばよかった…)
涼しかったバスを降りると、熱い空気が一気に体を包む。
「あっつ…」
Haruの夏ソングを聴きながら歩き、家まであと100メートルのところで、湊が前から手を振って来た。
「…こんにちは」
「久しぶり~ 学校行ってたの?」
「はい。出校日で…」
湊と少し立ち話をしていると、藍葉家のドアが開いた。
「あ!柊斗!」
麻琴と話していた湊も柊斗の方に振り返ってニコッと微笑む。
(何で湊が麻琴と一緒にいるんだよ…)
麻琴の顔が見られたことは嬉しいが、そこに湊がいることが面白くなく眉をひそめる。
柊斗の言いたいことが何となくわかる湊は、揶揄うような笑いを浮かべて、わざと麻琴を隠すように右にずれた。
「今から出かけんの?」
「―…まあ……」
(マジ苛つく…邪魔。 せっかく四日ぶりに顔見れたのに。あ、ヤバい。麻琴が帰りそう…
でも、話してる間にあいつ来ても面倒だし…いやでも、話したい… そうだ、もし時間あったらって感じで誘えば…)
湊をどかして麻琴と向かい合う。
「―…麻琴、もし時間あ……」
柊斗が話しかけると、三人の前に一台の車が止まり、中から勢いよく人が出てきた。
―
夏休み明け、いつもの四人に朝陽も加わった五人で教室にできた人だかりをじっと見る。
「あの二人が話題の?」
「そ。 アメリカから帰国してきた柊斗のいとこで双子。一年生。
名前は、女の子がマリちゃんで男の子がレオンくん。 ちなみに、レオンくんがお兄ちゃんなんだって」
「話には聞いてたけど、本当に美形だね…」
昼休み、結月の教室に行くと朝陽と一緒にお弁当を食べている柊斗がいた。そこまでは夏休み前と変わらなかったが、教室にマリとレオンが入ってきてから空気が変わった。
マリは親しそうに柊斗に声をかけると、当たり前のように隣に座り、レオンは朝陽が座っていた柊斗の正面に座る。
二人から逃げようとした柊斗だったが、あっという間に他の人にも囲まれてしまい移動できず。
追い出された朝陽は麻琴たちのところに逃げてきた。というのが今の状況。
「もう… なんで席譲っちゃったの!」
「いや…譲ったわけでは… てか、あの顔面恐ろしいぞ! 柊斗で見慣れてると思ったけど、また違うタイプ! なんていうのかな…子犬みたいな? あの顔で「席譲ってください」って言われたら、断れねぇよ…」
「はぁー…」
「でも、あの子たち一年生だよね? それなのにこっち来るって、すごいね… しかも転校初日…」
「ねぇ~ すごいよね~」
「……え?何その人事みたいな感じ… いくらいとことはいえ、あんなくっついて… てか、なんで藍葉くんも… みんなも、麻琴ちゃんいること知ってるのにあんなこと言って……
麻琴ちゃんも何か言いに行きなよ! 嫉妬かしないの?」
「―…しますよ……」
ずっとモヤモヤしていた心が、天音の言葉でズシンと重くなると、机に突っ伏した。気持ちとともに体も重く感じたのもあるが、間から見える柊斗とマリの姿を見たくないというのもある。
(……しないわけない。 でも、どうしていいかわかんないし… あの日は頑張ったけど…)
―
「柊斗~ 久しぶり! 会いたかったよ~」
「げっ…」
「―……あー…っと……?」
車から出てきたマリが柊斗にギュッと抱きついたのを見て動揺した麻琴は、どうしていいか分からず、アパートの階段に向かって走った。
(誰あの子…めっちゃ可愛かったんだけど。 てか、柊斗に抱きついてたよね? しかも、会いたかったって……)
ドクドクする心臓を抑えながら階段を上がったところで、ふと冷静になる。
(ちょっと待ってよ… どこの誰なのか確認もせず逃げるのは…よくないよね。漫画とかドラマでもそうやって避けて、大体が昔の幼なじみとか、親戚のパターン多いし! …この場合、幼なじみっていう線は薄いから、親戚?同じ年くらいに見えたから、従姉妹とか? よし、戻って確かめよう! でもその前に…)
階段からチラッとさっきまで自分がいた場所を覗くと、柊斗と目が合い、反射的にしゃがんでしまった。
(あっ、しまった… これじゃ勘違いされる! 早く行かないと!)
大きく深呼吸した麻琴は階段を一段一段、慎重に降りた。
(えっと……何て声かけよう。 まず、逃げちゃったことを謝って、それから誰なのか聞くか…
でも待ってよ。これ、降りて行ったら誰もいないとかないよね… そしたら、めっちゃ気まずいんですけど…)
ギュッと手を組みながら階段を降りると、目を閉じながら深呼吸をし、スッと顔を上げる。すると目の前に柊斗が。
「うわっ!」
ビックリして半歩下がると、柊斗が麻琴の肩をガシッと掴み、真っ直ぐと顔を見つめた。
「―…っ!」
「嫌な思いさせてごめん! あれは従姉妹で、小さい時からずっとあんな感じでくっついてきて… 俺はやめろって言ってるんだけど聞かなくて… でも、いつもさせてるわけじゃないから! 会う時は極力近寄らないようにしてるし、今日だって来るって聞いたから家出ようと思って… だから……」
(勘違いしないでほしい。 やっと…やっとなのに、こんなことでこじらせるわけには……)
驚いた表情で固まったまま喋らない麻琴が何を考えているのか分からず、不安が募る。
(もしかして、聞き取れなかった? 言い訳しているように聞こえた? …そういえば、麻琴が好きなのは隙のないキャラだよな… ということは……嫌われた……?)
胸がギュッと握りつぶされそうな痛みがして、呼吸もうまく出来ないまま、じっと麻琴を見ていると、口元が微かに動き出した。
「―……やっぱ従姉妹だったんだ。 当たった!」
パッと嬉しそうに笑う麻琴に、柊斗は全身の力が抜けそうになったが、グッと堪える。
「―…当たったって?」
「いや、驚きすぎて思わず逃げちゃったけど、誰なのか確かめないとダメだって思った時に、同じ年くらいに見えたから、もしかしたら従姉妹かなって。 柊斗に抱きつけるくらいだからね~ はぁ~よかった!
話も聞かないで逃げちゃってごめんね。 教えてくれてありがと!」
スッキリしたような、嬉しそうな笑顔を向けられ、肩に置いていた柊斗の手が麻琴を引き寄せようと動いた―
「柊斗!その人誰!?」
その声に、引き寄せようと動いていた腕をピタッと止め、後ろを振り向くと、湊の制止を振り切ったマリが麻琴を指さして聞いてきた。
(……止めとけって言ったのに)
湊を睨むと、レオンに抑えられていて、苦笑いを浮かべながらごめんねと謝っていた。柊斗は心の中でため息をつくと、マリから見えないようにスッと麻琴の前に立つ。
「俺の彼女だよ」
前に立った柊斗の背中を見て、その言動に顔が熱くなる。
(彼女!彼女って言ってくれた~! めっちゃ嬉しい…
それに、もしかしてだけど見えないようにしてくれてる? そういえば前に古川くんのお姉さんに会った時も、こうやって守ってくれたな…… はぁ~さっきから、キュンを多量摂取してるんですけど! 心臓大丈夫かな)
嬉しくてニヤけているのを見られないようにアパート側を向き、トントントントンと指で階段の壁を軽く叩く。
(…え? 苛ついてる?)
柊斗が後ろにいる麻琴を心配していると、マリが声を上げた。
「―…ウソ! なんか地味だし、変なことしてるし… こんな人が柊斗の彼女なはずないじゃん!
絶対私の方が可愛くて、スタイルよくて、胸もあるからお似合いだもん!」
聞いていて呆れてしまった柊斗がため息を吐くと、後ろから「デッカ!」という声が聞こえた。
(……デカ?)
柊斗の後ろからひょこっと顔を出した麻琴は、マリをじーっと見ている。
(さっき一瞬見えた時も、すっごい可愛いなと思ったけど、改めて見てもマジで可愛いなぁ… 柊斗は家族だけじゃなくて、親戚みんな美形な感じ?
しかも、足とウエスト細っ! そして…)
「―…マジで、デッカ! ……あ、ごめんなさい…」
麻琴の発言に柊斗とマリは唖然とし、いつの間にか近くに来ていた湊は笑っていた。
―
(恥ずかしすぎて、そのあと結局帰っちゃったんだよね…… てか、色んな意味であれ以上は耐えられなさそうだったしなぁ……
大丈夫…あの時ちゃんと彼女って言ってくれたし、次の日会った時ちゃんと話してくれたし……うん)
「―…はあー! 大丈夫、大丈夫! それより天音ちゃんは古川くんとどうなの?」
伏せていた体をバッと起こし、ニコッと笑顔を浮かべる麻琴に、四人はこれ以上何も言わなかった。
「実は……付き合うことになりました!」
「「「「おぉー! おめでとう! よかったね」」」」
「ありがと。 先週から付き合い始めたんだけど、みんなには直接言いたくて…」
教室がやっと静かになると、結月と朝陽は親友カップルの話をしていた。
「さっきの感じ、麻琴めっちゃ我慢してない?」
「うん…… 夏休みに話聞いた時は、柊斗くんに守ってもらったとか嬉しそうにしてたけど…まさか、教室まで来るとはね… 大丈夫と思ってても、実際見るとやっぱ面白くはないよね… 当たり前だけど嫉妬もしてるし。
それにあの二人、柊斗くんの教室ここじゃないから順番に見てきたのかな。 気強そうだし、可愛いし強敵かも…」
「でも、柊斗はモテるのに、十年の片想いがやっと実ったこじらせ男だよ? しかも、付き合ってからだんだん表情も出るくらい浮かれてるし。 それに、相手はいとこだろ~大丈夫だって!」
「……いとこ同士は結婚できるんだよ」
「え?そうなの? じゃあ、あの子ガチで狙ってるってことか! …でも、麻琴と全然タイプ違うから柊斗のタイプでもないだろ! うん。やっぱ大丈夫だって!」
「…そうだね」




