やってみたいこと
「はぁ~… 梅雨って気持ちまでじめじめしてきちゃう…
まあ、みんなはそんなことないか~ うまくいってるもんね~? いいなぁ… 私もトキメキほしいー!」
机にだらーんと体を預けている桃花は、彼氏に二股をかけたれていたことがわかり、最近別れてしまった。
「桃花にも、いい相手が現れるよ~
天音ちゃんは、古川くんとどうなの?」
桃花の頭を撫でながら聞く結月に、天音は少し恥ずかしそうにしながら、連絡先を交換して、オススメの音楽や映画などを教え合っていること、テニスの大会を観に行く約束をしたなど、以前より距離が縮まってきていることを話した。
「いいね~ これもう、脈ありなんじゃない?」
「ん~… そうだったら嬉しいけど、まだ友だちくらいにしか思われてないかも…
それにしても、本当なの? 古川くんのお姉さんがブラコンって」
天音に聞かれた麻琴と結月は顔を合わせて頷く。
「中学の時は彼女とかいなかったから、そういうことに対してどうなるのか分かんないけど、テニスの大会とかで会ったときは何ていうか…すごかったよね…?」
「うん。口には出さないけど、目が…」
(前会ったときも睨まれたし… まあ、あの時は柊斗が前に立ってくれて嬉しかったけど)
「でもそういうのって、漫画とかで~…」
女子高生の恋バナはタネを蒔くとどんどん広がっていくもので、四人も話にずーっと花を咲かせていた。
憧れのシチュエーションや、やってみたいこと、理想などを話していると、だらけていた桃花も、どんどん回復して最終的には一番テンションが上がっていた。
(柊斗と付き合ってるってだけで奇跡だから、これ以上望むって何様だって感じだけど……
やっぱ憧れはするよね~ …男子も、こういう話するのかな?
もしかしたら柊斗もやってみたいこととか、やってほしいことあるかも… 今度聞いてみよう)
「もう、休み時間終わりか… じゃあ、午後も頑張りましょう!」
結月と教室を出ると、隣から朝陽が出てきた。
「お、ナイスタイミング~ 一緒戻ろ!」
「この距離で?」
いいじゃんと言って歩き出す朝陽と、うんざりしたようにしているが、どこか嬉しそうな結月が羨ましかった。
(こうやって気軽に言えたらな…… 未だに緊張するって変…?
―…というか、私から誘ったことあったっけ?)
―
「柊斗!」
不意に名前を呼ばれるだけで胸が高鳴り、振り向くより先に誰なのかすぐに分かる。
「雨だけど、今日も部活?」
「うん。一応 …何かあった?」
(放課後声かけてくるの珍しいな…)
「あの… もしよかったら、一緒に帰らない? 部活終わるまで図書室で待っとくから…」
(え…そのために声かけてくれたの? ヤバい…嬉しすぎる! 夢じゃないよな)
「あ、朝陽くんと一緒に帰る約束とかしてた? それなら今日じゃなくても…」
「いや、してない。 一緒帰ろう」
麻琴から誘われたことが嬉しくて、返事を忘れていた柊斗は、麻琴の声にハッとし、慌てて返事をする。
「ありがと! じゃあ…あとでね。 部活頑張って!」
(よかったぁ。 今日は初めて朝も帰りも一緒だ!
図書室で課題終わらせて、少し部活見てみようかな。
そうだ。せっかくだから、校舎も少し散歩しよ。 一緒に帰るの楽しみだな~)
「おっ、機嫌いいじゃん。何かあった?」
「麻琴が一緒に帰ろうって」
「へぇ~ 珍しい…というか、初めてか。よかったな!」
(早く部活終わらないかな)
この日は、早く終わってほしいからか、いつもより率先して片付けをしたりとはりきった柊斗だった。
―
図書室で課題を終わらせて、校舎を散歩することに。
誰もいない教室や、部活をしているところを覗いたり、一度も行ったことのないところへ行ったり…
(ここで、柊斗からホワイトデーもらったんだよね……)
あの日以来行っていなかった中庭にも行ってみた。
「おっ、ここから意外とグラウンド見えるんだ。 いい場所みっけ~」
探索をしながら見つけた外階段から、サッカー部の練習を眺め、終わるまで待つことにした。
―
「じゃあ、麻琴と仲良く帰れよ。俺は別の路線で帰るし、後で出るから」
「―…ん。じゃ」
部室で朝陽と別れて、麻琴と待ち合わせていた門に駆け足で向かう。
「お待たせ」
「おつかれ~ 走らなくてもよかったのに」
「ずっと待ってもらってるのに、これ以上待たせるのはと思って…」
(本当は早く一緒に帰りたかったからだけど…)
「ありがと! じゃあ、帰りますか」
声をかけたとき降っていた雨は、一時間前には上がっていた。
「雨やんで良かったね」
「うん。 …待ってる間、ずっと図書室いたの?」
「ううん。図書室で課題やったあとは、校舎歩いてた。 静かだし、意外と知らないところとかあって、楽しかったからハマりそう。 いい場所も見つけたし!」
どこか得意げに、楽しそうに話す横顔を見るだけで、思わずニヤけそうになる。
バスの空いていた二人掛けの座席に座ると、腕が触れて、その部分が熱くなる。
(……話してる時も思ったけど、なんでみんな肩にもたれたりできんの? 今でも緊張するんだけど…
試しに想像……うん。 まあ、柊斗もくっつき過ぎるのは苦手って言ってたし、無理だね)
斜め前に座っているカップルを見ながら小さく息を吐くと、隣に座っていた柊斗が軽く顔を覗き込むようにして話しかけてくる。
「なんで今日一緒に帰ろうって? いや、普通に嬉しいけど初めてだったし、わざわざ待ってまでどうしたかなって…」
麻琴は目線を少し下に向けて、持っていた傘を見つめながら答えた。
「……休み時間に、付き合ったらどういうことをしてみたいか…ってのをみんなと話してて、まあ、少女漫画のあるあるとか妄想みたいな感じなんだけど…
それで、一緒に帰るって話が出て…今日は柊斗もバスで登校したし、一緒に帰るチャンスだって思って、あと私から誘ったことなかったし、それに……前に誘ってくれていいって言ってくれてたから、それで… 今考えたら、完全に自己満だね…あはは…」
「……他には、どういうことしてみたいの?」
「え? いや…そんな話すようなことじゃ… ただの妄想だし、少女漫画のあるあるで盛り上がってただけだから! その場のノリみたいな感じだし… 男子はそういう話しないの?」
「聞いたことはある。 それで? やりたいことは?」
(珍しく引き下がらない… そんなに興味ある? まあ、隠すようなことでもないんだけど)
「…とりあえず、みんなで話してたのは……例えば、放課後デートしたり、イヤホン片方ずつやったりとか、相合い傘したり…あとは上着貸してくれたり、届かないのを後ろから取ったり、満員電車で近いとかもドキッとするよねって話したり~
定番だけど、肩にもたれたり、転びそうなところを支えてくれたり、歩けないときにおんぶしたりお姫様抱っことか、憧れるよね~
………って話をみんなでね! 別に私がしたいとかではな―」
「―…今出来そうなのはこれくらいかも」
麻琴の話を聞いた柊斗は、そう言ってカバンからあるものを取り出した。
「これ、お兄ちゃんと湊さんからの?」
「うん。片方ずつで聴くんでしょ?」
「え? …あ、うん」
「だから、はい」
「あっ、それではせっかくなので… ありがとうございます」
(こういうことは、遠慮しないほうがいいよね。 ―…またいつチャンスが来るか分かんないし…)
柊斗から借りたイヤホンからは、Haruのデビュー曲が流れた。
(さっきごまかそうとしてたけど、聞こえないフリしてこれ出して正解だったな。
というか、キャップといい、イヤホンといい… まあ、いいか)
恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうな表情で頭を揺らしながらリズムに乗る麻琴を見て、柊斗の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
(こういうの憧れてるって聞けたし、この顔見られるなら他のもやってみたいな。 俺の心臓が持つか分かんないけど…
バス降りたら雨降らないかな)
―
「ありがと!」
「うん」
(雨降らなかったか… 梅雨なんだから降れよ)
バスを降りながら、イヤホンをカバンに入れている柊斗の耳に「降ってないか…」と、小さく呟く声が聞こえた。
(やばっ! つい欲が… ダメダメ! 雨が降らなかったってことは、調子に乗るなってことだ! 危な~ 教えてくれてありがとうございます)
「そうだ! 柊斗は、こういうことやりたいな~とか、やってほしいこととかないの? 男子ってどういうのに憧れたりする?」
「―…またこうやって誘ってほしい。帰りもそうだけど、また二人でどっか行ったりとか…」
「そんなことでいいの? …わかった! じゃあ、柊斗がバスで登校した日は今日みたいに声かけるね。
あと、休みの日も…」
「うん。楽しみにしてる」




