偶然はチャンス
「アー写が可愛いですよね~」
「わかる! 自然体なところとか、笑顔がね~」
「歌も元気が出るメロディーで~…」
月に一回の麻琴、天音、涼子で喫茶店に集まる日。
用事で少し遅れる天音を待ちながら、二人はHaruの話で盛り上がっていた。
ピロン。二人のスマホから通知音がしたので、天音だと思い確認する。
「天音ちゃん、今駅着いたみたいだから、もう少しで来ますね」
カラン、カラン
扉の開く音が聞こえ、さすがに早すぎるかと思いながらも、二人で入り口の方を見る。
「あ…」
―
カラン、カラン
「お待たせ~ 涼子ちゃん久しぶりだ…ね……
え!? なんで古川くんが??」
流星がいることに気付いた天音は、三人の顔を交互に見て、どういう状況なのか、どうしていいのか分からない様子。
「天音、落ち着いて。 とりあえず…座ったら?」
そんな天音に涼子が微笑みながら、流星の隣を指さす。
「―…あっ… 俺、他の席に移…」
「ううん! 古川くんが大丈夫だったら…そのまま一緒がいい。 …隣座っていい?」
「…どうぞ」
少し緊張しながらソファー席に並んで座る二人を、向かいの席で微笑みながら見る麻琴と涼子。
注文した天音に、流星がここにいる流れを麻琴が説明した。
「…そうだったんだ~ 古川くんは、よくここに来るの?」
「いや、初めて。 近くで用事があって、通りかかったら―…… 入ってみようかなって」
「そうなんだね。 私と麻琴ちゃんは~」
「麻琴ちゃん、もしかして…」
二人の様子を見て何かを感じ取った涼子が耳元でそっと話しかける。
(涼子さんにはいいよね…)
麻琴がニコッとして頷くと、涼子はさっきより口角を上げ、向かいの二人に話しかける。
「…あの、ところで二人はどうやって仲良くなったの?
麻琴ちゃんの同級生っていうのは聞いたけど、天音のこと聞く前に来ちゃったから聞いてなくて」
「あ、えっと… 二人がサッカーの試合観に来て、その時にテニスコートで~…」
流星が涼子に話をしていると、隣の天音が正面に座る麻琴に口で「ありがとう」と伝える。
「~それから、同じ電車ってことがわかって、たまに話すようになりました」
「そうなの!? すごい偶然!」
(天音ちゃん、すっごい嬉しそう! 古川くん来てくれてよかった~)
そこから、流星の話を中心に会話が弾んだ。
―
涼子はこの後用事があるということで、喫茶店を出た後、三人で駅に向かう。
始めは天音を真ん中にして三人で話しながら歩いていたが、麻琴がだんだんとペースダウンし、二人の少し後ろを歩くように。
(なんか、一緒に帰る流れになっちゃったけど、どうにか自然に二人にできないかな…あからさま過ぎてもアレだし…
誰かから連絡来てくれたら、用事できたって行けるんだけど…)
ピロン
麻琴の通知音が鳴り、二人が振り向いた。
(マジで!?すごっ! これで、自然な流れで二人に出来るじゃん!
誰ですか?こんなナイスタイミングで連絡をくれるのは)
「ごめん、ライン来たからちょっと見ていい?」
「いいよ~」
「ありがと」
〈まだお店? 今部活終わったんだけど、一緒帰れそうだったら帰らない?〉
(すごっ! 完璧な流れと内容じゃない? 神がかってる!)
「大丈夫?誰からだった?」
「柊斗から。部活終わったから一緒帰ろうって…」
「よかったじゃん! 早く、一緒帰れるって返信しなよ!」
「うん。ありがと! じゃあ、古川くん天音ちゃんのことよろしくね」
返信しながら言うと、流星は「あー… うん…」と、どこか曖昧な返事。
「ごめん、勝手に帰ると思ってたけど用事あった?」
「いや、帰るよ。 …それで?藍葉はなんて?」
(? ボーッとして適当に返事した感じ?)
「もうすぐ駅着くって。
学校行くよって言ったら、もう向かってるからって… でも、何で向かってたんだろ?
普通、学校で待っとくよね? 帰るんだったら反対方向だし… ああ、今日は自転車じゃないのかな」
「ねえ、麻琴ちゃん… それって…」
「たぶんアレ藍葉じゃない?」
天音の言葉が遮られ、流星の指さす方を見ると囲まれて…はいないが、柊斗に話しかける二人の女子と、両サイドには、少し距離が近いかな?と思う位置に女性が…
「話しかけてるのは、同じ学校の人だね。 全然相手にしてないけど。
隣は…たぶん、誰かと待ち合わせてるんだろうけど…」
麻琴が思っていたことを、天音が苦笑いしながら言ってくれた。
(あれ? 柊斗自転車だ… ということは、歩いて帰れるじゃん! よし!)
三人の視線に気付いたのか、柊斗が自転車を押しながらサッと駆け寄ってきた。
「部活おつかれ。 待たせちゃった?」
「全然」
(全然であの状態か… すごいな)
麻琴の正面に立ち、天音と流星を見る柊斗。
「あ、涼子さんも一緒だったんだけど、古川くんも偶然お店に来て、それで一緒に…」
「藍葉、自転車じゃん。 どうやって白木と一緒に帰るの?」
(だよね。そう言うと思った)
「歩いて帰るよ! 私いつも学校帰り歩きだし。 それに、今日も歩けたらそうしようかな~と思ってスニーカー履いてるから!」
自転車を指さして聞いた流星に、麻琴は柊斗の横に立ち、スニーカーを見せるようにして答えた。
(よし、セリフ完璧! ここまで言えば、言うことは…)
「そっか…」
(だよね。 それしかないよね。 ということで、二人で帰ってもらいましょう)
「うん。 ということで、二人ともありがとね。 天音ちゃん、また学校でね! じゃあね、古川くん」
「じゃ」
麻琴に続くように、柊斗も二人に軽く手を振る。
「またね!麻琴ちゃん。 藍葉くんも」
「―…またな」
自転車を押して歩く柊斗と、その隣を歩く麻琴の後ろ姿を見送る二人。
…
「じゃあ、私達も帰ろうか」
「うん」
(なんだろ… さっきまで普通に話してたのに、二人になったって考えたら何話せばいいのか分かんなくなってきた…)
「白木って、歩いて帰ってるんだ」
「あっ、うん。部活入ってないから、少しでも体動かすためにそうしてるって。 歩きだと四、五十分って言ってたかな?
たまに、結月ちゃんとも一緒に歩いて帰るらしいよ」
「へ~、そうなんだ。 距離もいいし、いいかも」
(古川くんから話題出してくれてよかったぁ… おかげで、さっきみたいに話せてるし。
…でも、やっぱり話題に上がるのは麻琴ちゃんだよね……
いや、それはまあ仕方ないんだけどね… 私だって、古川くんと話すことって言ったら麻琴ちゃんのことしかないし…
朝、話すようになったって言っても、古川くんがイヤホンしてたら「何聴いてるの?」とか、本持ってたら「何の本?」とかそんな感じだし…
前に麻琴ちゃんが、藍葉くんと何話していいかわかんないって言ってたけど、ホントそうだね。
共通のものがあったら、そこから話が膨らむけど、聴いている音楽も、読んでいる本も私は知らなかったし…
そのあと聴いてみて話したけど、いいよね~だけで終わったり、本は…ミステリー系で、難しくて読むのが進まなくて、結局読めなかったし…
そう考えたら藍葉くん、すごいなぁ~ 麻琴ちゃんと話すときのために、麻琴ちゃんの好きなもの一通り聴いたり、見たんだもんね。 もはや、恋というより愛だね。
学校も違うし、朝の電車だって五分くらいだし… 次いつ、こうやって会えるかも分かんないし……)
「―…あの、古川くん。 ……もし、迷惑じゃなかったら連絡先…交換…しない?」
話をしながら、今の自分と流星のことを考えた天音は、一歩踏み出そうと、思い切って言った。
「えっと…」
―
「どうやって二人にしようかなって考えてたんだけど、柊斗が来てくれて良かった~ ありがとね。
でも、歩きで大丈夫?」
「平気」
「学校で待っててよかったのに… でも何で駅に向かってたの?」
「待つより向かった方がいいと思ったから。 そしたら、もし麻琴が連絡に気付かなくても会えると思ったし、帰ってたら、それはそれでいいやって。
いつも二人で帰ってるのは知ってたけど、もしかしたら…と思って…
それに、二人で帰るって言われたら、ちゃんとそうするつもりだった」
「そこまで考えてくれて…ありがとうございます。
でも、天音ちゃんに柊斗からって言ったら、一緒に帰れるって早く返信して!って言ってたから、そこは大丈夫だと思う。
まあ、たしかに話に夢中だったら連絡来たことに気付かないってあるかも… 一応お店出たら確認するようにしてるけど。
…もしかして、返信来なかったらお店まで来ようと思ってた?」
頷くと、嬉しそうに少しニヤける麻琴の顔を見て、ハンドルを握る柊斗の手に力が入った。
(自転車で来なければよかった…)




