不器用な二人
朝陽とも別れた二人は静かに並んで歩く。
(―…今日かっこいいところ多すぎて、心臓が… いや、いつもかっこいいんだけど… 嬉しかったな…)
柊斗と話したこと、手を繋いだこと、守ってくれたこと、言葉、行動一つ一つを思い出すと、自然と笑みが溢れる。
(―…笑ってる)
キャップで顔全体は見えないが、チラッと見えるその口角は上がっていた。
(今日は最高だったな。 ネックレスも着けてくれてるし、お揃いのあるって知れたし、手繋いだときも握り返してくれたし、それに…かっこいいって言ってくれて… 全部夢かと思った)
そんな胸いっぱいの二人は、数センチ先の、触れるか触れないかにある手が気になる。
ドキドキ、ドキドキ…
(さっき柊斗から繋いでくれたし、今度は私から… でも、いきなり繋いで嫌がられないかな…)
「―…手…繋ぐ?」
手を見ながら、どうやって繋ごうか考えているところに、繋ぎやすいように手の平を上に向けてくれ、優しく声をかけてくれる柊斗。
(先に言われたか…)
(手見てた気がするけど、そういうことだよな? 違ってたら恥ずすぎるけど…)
声をかけると麻琴が「うん」と頷いて、手を重ねる。
(よかった…)
トクン、トクンと高鳴る胸の音が繋いだ手から、体温から相手に伝わるような気がする。
「―…柊斗、いつもありがとね」
?「俺の方こそ、いつもありがとう。 でも、なんで急に?」
「色々考えたら、言いたくなって…?
あと、私は恋愛に関して疎いというか、鈍いというか… それに、すぐ照れちゃうし、恥ずかしがって…
もしかしたら、呆れたり、苛つくこともあったと思うけど…」
「俺一回もそんなこと思ってないよ。ごめん、俺が勘違いさせるようなことした?」
申し訳なさそうに言う麻琴に動揺して、少し顔を覗き込むようにするも、できるだけ優しい口調で声をかける。
「違う、違う! 柊斗が悪いんじゃなくて、私の察しが悪いというか… そういう考えがなかったというか………
その…ネックレスくれたとき、もしかして着けようとしてくれた?」
「―…うん」
(誰かに言われたか? まあでも、あれは俺もハッキリ言えなかったし、麻琴の性格考えたらだよな~って思ったけど…)
柊斗からの返事を聞いて、麻琴は手を頭に乗せ、目をつぶりながら恥ずかしそうに小さく「はぁ…」と息を吐く。
「……やっぱそうだったんだ… 気が付かず、箱を渡してすみません。
あと、もし私が一緒に写真撮ろうって言ったら?」
(喜んで)「撮る」
今度は眉をひそめ、下唇を噛みながら悔しそうな顔に…
「―っ… 私、普段から撮らないし、勝手に柊斗は写真嫌いだと思って…」
(まあ、好きではないけど)
「あと、手を繋ぐのも… タイミングとか、その前に嫌がられたらどうしようとか考えたら言えなくて…
今だって、考えてる間に柊斗から言ってくれたし…」
「―…ということで、柊斗が色々やってくれるのに、私が気付かなかったってのも申し訳なく…今さら反省して、あと…勝手に決めつけちゃって言い出せなかったのも後悔した…
だから、これからは思ってることとか、やりたいことを伝えたり、照れたりとか恥ずかしがるのも度が過ぎないように(?)したり、感謝もその都度返せていけたらなと…
あと……もしかしたら私、嫉妬深いかもしれない…そのうち独占欲とかひどくなるかも…
それで私が重かったり、やることが嫌だったり、ウザいと思ったら教えてほしい。空回りそうだし……嫌われたくないので…」
ずっと無言で聞いてるけど、柊斗は、どんな顔しているんだろう、何を思っているんだろう、今の話を聞いて無理だと思われたらどうしようと不安になっていると、急に立ち止まった柊斗が前に来たと思うと、片方の腕が背中の方に回り、ふわっと引き寄せられた。
頑張って伝えてくれる麻琴の姿を見ていると、頭で考えるより先に体が動いていた。
「―…ありがと」
「え?今のどこら辺にお礼を言うところが?」
(返し、それ? ホント読めない…)
この状況になのか、お礼を言ったことに対してなのか、パッと上げた顔は困惑していた。
(―…このまま話したいけど、いきなりだし、さすがに嫌がられるかも… というか、俺の方がこのまま話すの無理だな)
引き寄せた腕をそっと降ろし、麻琴の隣に戻ると、また歩き出す。
「思ってること言ってくれたこと。色々考えてくれていて嬉しかった。
俺の方が直さないといけないところ多いな。 そのせいで気遣わせてるし…
それと、前にも言ったけど俺の方が重いと思う。
だから、そういう時は教えてほしい。嫌な時は特に。俺も嫌われたくないから。
…さっきのは嫌じゃなかった?」
まだ背中に柊斗の腕の感覚が残っていて熱くなる。
「―っ! 急でビックリはしたけど、その… 嫌ではなかったです…」
「よかった。
あと、嬉しいけど、無理はしないでほしい。
我慢したり、無理して合わせたりとか、俺がやったから次は自分とかも考えなくていいよ。やりたいと思ってやってるだけだし」
お互いに照れて相手の顔は見られないが、不安な気持ちは繋がれた手のおかげで消え、不器用な似たもの同士の二人は、お互いに少しだけ勇気を出して思いを伝えたことで、また距離が縮まった気がした。
「わかった。柊斗にも無理してほしくない。
あぁーなんか、話せてよかった~ 似たようなこと考えてたって知れて、なんか嬉しいかも…
そうだ、なるべく気持ちを伝えられるように頑張るけど、直接が難しいときは文字でもいい?」
「うん。俺もそうする」
その流れで、こういう時はこうしようと決めたり、こういうことはやらないようにしようなど、いつものポツリポツリの会話ではなく、お互いの思いをしっかり話しながらゆっくり家に向かって歩く。
(こういう話しても、面倒くさがらないで、ちゃんと答えてくれて嬉しいし、やっぱ優しいなぁ…
それに、ビックリしたけど抱きしめられたのも嬉しかった… キャップしてたから若干距離あったし、一瞬だったけど…… いつか、ゼロ距離で…)
(麻琴といると自然と体が動くことあるから気をつけないと…
嫌だったら言ってって言ったけど、本当に言われたら息できないかも…
さっきは一瞬だったし距離あったけど、次は……)
「そうだ!タオル使ってくれてありがとう!
ずっと言おうと思ってたけど、タイミングつかめなくて忘れてた」
「お気に入りだから」
ニコッと優しく微笑む笑顔に、顔がポッと熱くなる。
(―…その顔はずるくない? これは、一生治らないかも…)




