ドキドキが多い日
「なんで三人一緒かと思ったら、そういうことか~」
「そ。 にしても、学校隣なのに意外と会わないよな~ 卒業して初?」
「そうなんだ~ でも、私も意外と中学の子会わないかも」
前で話が弾む朝陽、流星、天音の後ろを静かに歩く二人。
(こうやって隣歩くだけでも嬉しいけど、ただ一緒に歩くだけで退屈じゃないかな…
ああやって話せたらなと思うけど、柊斗もともと話すタイプじゃないから、無理させたり疲れさせるのは嫌だし…
今まで答えてくれたときは大丈夫だったかな…)
「―…観に来てくれてありがとう。あと…それも、着けてくれてありがと…」
少し上から聞こえる柊斗の優しい声に、麻琴はドキッとする。
「一番のお気に入りだから…
その……試合でゴール決めて、かっ…こよかった……です」
顔は見えないが、ネックレスを軽く握りながら、少し恥ずかしそうに照れながらも言ってくれたことが伝わり、胸がギュッと熱くなった。
(………やばい、心臓が… 一瞬止まった…)
「―…ありがと…」
恥ずかしくて顔は見られないけれど、柊斗の「ありがとう」で言えてよかったと思え、顔が緩んでしまう。
口元をタオルで覆い、一瞬だけ反対側を向いた柊斗は、小さく深呼吸すると、正面を向き直し、横目で麻琴を見る。
「そのキャップ、もしかして…」
「あっ、ゆづから貰ったんだけど…その…柊斗と色違いで…
朝陽くんが、せっかくならこれ被って来たらって言ってくれて、そうしたんだけど…」
(気付いてくれたのは嬉しいけど、そういえば、お揃い苦手な人とかいるよね… 柊斗もそのタイプだったら…)
反応が気になりチラッと見上げると、柊斗はまた反対側を向いていた。
「―…なあ、もしかして二人って付き合ってる?」
いつの間にか前を歩いていた三人が後ろを振り向いていた。
「付き合ってる」
柊斗の堂々とした姿に、朝陽と天音は小さく拍手し、麻琴は顔がカーッと赤くなる。
「―………そう…だったんだ…。
いや、藍葉の彼女とか大変そうだな。 何か言われたりとかしてない?」
「うん。むしろ応援されてる?って感じで、みんな優しい!」
「そっか…」
「大丈夫! 麻琴ちゃんに何か言ってくる人いたら、私もいるし、結月ちゃんも、桃も!
その前に、藍葉くんが守るでしょ? それに、矢野くんも助けてくれるよね?」
流星の隣にいた天音は、トコトコっと麻琴の横に来ると、横から優しく抱きしめ明るい声で三人に言った。
「もちろ…」
「大丈夫、一番に俺が守るから。朝陽はいらない」
麻琴を見つめてしっかり伝える柊斗。
自分が思われている幸せを感じて、目が熱くなるが、言葉を遮られた上、いらない宣言された朝陽が柊斗に文句を言っていたので、笑いの方が込み上げてきた。
「ははっ! 天音ちゃんありがとー! まあ、自分の身は自分で極力守りますが、もしもの時はお願いします。
朝陽くんは、ゆづをよろしく。 私も、みんなを守るし助けます!」
「了解!」「よろしくね」
お互いに敬礼し合う三人と、麻琴を優しい目で見つめる柊斗。
「―…逆に見せつけられたか…」
―
「ねぇ、麻琴ちゃん。 お願いがあるんだけど…」
駅のホームに着くと、天音がそっと麻琴の方へ来て耳打ちする。
「なに?」
「えっと…」そう言いかけて、天音がチラッと柊斗を見ると、その視線を察した柊斗は二人の所へ行く。
「ごめんね。二人でいたところ邪魔して… でも、今しかなくて」
「全然! もしかして古川くんのこと?」
「うん。その…電車で……」
「なんだ柊斗。二人から邪魔扱いされたか?」
「別に…」
「…なんの話してんだ?」
会話は聞こえないが楽しそうな二人の様子が気になる流星と朝陽。
「オッケー! やってみる!」
「ありがと!よろしくお願いします」
二人が話し終えたタイミングでちょうど電車が来て、二人は話していたことを実行した。
天音が流星の隣に立つように電車に乗ると、麻琴は人に押されたフリをして流星の隣にいた朝陽を押して二人から少し離れる。柊斗は麻琴についていき、隣に。
(よし、うまくいった!)
こうして、さりげなく(?)二人にすることに成功。
「あっ、朝陽くんごめん。 後ろの人に押されちゃって…」
「別にいいけど… あぁ、二人とはぐれちまったな」
(それでいいんだよ)
そして、察してついてきてくれ、隣にいる柊斗に「ありがとう」と小さく言う。
…
(麻琴ちゃん、ありがとう…)
「結構乗る人多いな… 大丈夫?」
少しグラついたところを軽く支え、声をかける流星に天音はドキドキして、触れられたところに熱を感じる。
天音が頷くと、三人を探すように車内を見渡した流星は
「三人いたけど、人多いから行けないな…」
とボソッと呟く。
「―…ちょっと聞きたいんだけど、二人っていつから付き合ってるの?」
二人にしてもらったが、いざとなると緊張した天音に、流星の方から話しかけてきた。
「先月からだよ」
「そうなんだ… いや、家が隣ってのは有名だったけど、その割に二人が話してるの見ないし、藍葉って告られても断ってたから、そういうの興味ないのかと思ってたし」
「そうだったんだ」
「白木は、分け隔てなく話すけど、どっか一線引いてるっていうか… 人付き合い苦手なのかなってイメージだったし。
何回か話したけど、その時も一言二言とか、さっきみたいに聞いたことに答えるってだけで…」
三人の方を見ながら話す流星の横顔が少し寂しそうに見えた。
「私、二人とは高校からだから前のこととか分かんないけど、お似合いだと思うよ。
空気感っていうか…似てるところあるし、お互いのこと大事にしてるの伝わるし」
「―…なんか、相原さんが友だちだったら白木も大丈夫そう。
それに、さっき言ってたけど他にも頼れる人がいるみたいだし。
……なんか、誰目線って感じだね」
フッと小さく吹き出すように笑う顔を見て、天音の中で何かに落ちる感覚がした―
―
(大丈夫かな?)
麻琴が人の隙間から覗き込むようにしていると、二人の方を見た朝陽が
「そんなに心配しなくても、古川と一緒なら大丈夫だって。今だって普通に二人で話してるし…
移動できそうだったら行くか?」
とニコッと笑いかける。
「あー…… うん。そうだね」
(その時は、どうやって阻止しよう…)
「そうだ。試合の時、三人で何話してたの?」
「たいした話は…~」
(朝陽が話しかけたからってのは、わかってるけど…)
目の前で話をしている二人に、やきもちとは少し違う、何とも言えない気持ちになり、前に朝陽に言われたことを思い出した。
《ただでさえお前は喋らないし、表情わかりづらいんだから、態度で示さないとダメだろ》
(たしかに。 まともに会話もできない奴なんて、呆れられるよな… 表情も薄いから、勘違いされることもあるかもしれない… だから……)
ちょんと柊斗の手が触れ、たまたま当たっただけかなと思っていると、そっと手が繋がる―
!!!
突然のことに驚き、見上げると、タオルで口元を隠し、横を向いている柊斗。
その顔を見ると、胸がキュンとなり、繋がれた手を見ながらキュッと握り返す。
「―…あ~… 俺、二人のところ行った方がいい?」
「いや…」(それはそれで困るんだけど…)
と思っていると、駅に着き人が降りたタイミングで二人が来た。
「おっ、二人で大丈夫だったか?」
「俺は別に」「私も」
(なら、もう少し二人で話したらよかったのに…)
朝陽と流星が話をしていると、天音がそっと耳打ちしてくる。
「お願い聞いてくれてありがとね。話せてよかった」
「ホント? それじゃあ…」
天音はニコッと笑う。
(おぉー そっか、やっぱ話すって大事だな… ……でも、なんだろ…)
「…何かあった?」
天音の笑顔が、いつもより少しだけ寂しさが混じっているような気がした。
「ん~」
「…?」
目線をチラッと下に向け、顔を上げた天音はいつものニコッとした笑顔。
「藍葉くん、麻琴ちゃん取られないように頑張ってね」
「ちょ、急に何を… そんなのな…」
「わかってる」
麻琴の言葉が遮られ、繋いでいた柊斗の手にギュッと力が込められる。
(―…なんか、二人通じ合ってるような?
それに、柊斗はそんな心配必要ないでしょ。 逆に私の方が常にその危険にさらされているから頑張らないと)
―
一つ前の駅で天音と別れ、四人は電車を降りる。電車内で繋がれていた手は、降りる時に離れてしまった。
「電車通学きつくね? 毎日あんな感じだろ?」
「きついけど、さすがに慣れたよ。 三人は何で行ってんの?」
「俺と柊斗は自転車で、麻琴はバスだよな」
「うん。ゆづとね。 天音ちゃんは電車だから、もしかしたら会うこともあるかもね」
「そうなんだ。 たしかに、降りる駅一緒だから、時間帯によっては可能性あるかもな」
(それがあるんだよ! まあ、人多いだろうし、知り合いでもないから今まで気付かなかったと思うけど、今日会ったし、さすがにね?)
せっかく会えたからと、流星と朝陽が連絡先を交換していると…
「りゅうー!」
声がする方を見ると、手を振り向かってくる女性が…
「げっ…」嫌そうな顔で声を出すもお構いなしに、流星に抱きついた。
(((あぁ… そういえば…)))
「マジでやめろ」
引き剥がすようにしながら言う流星に対して、
「だって仕方ないじゃん? りゅう、家にいないこと多いし…
って、誰この子?」
流星に対してニコニコしていた顔が、急に険しくなり麻琴を指さす。
すると、柊斗が麻琴の前に立ち、見えないようにした。
柊斗の背中を見ながら、さっきの『大丈夫、一番に俺が守るから』という言葉を麻琴は思い出す。
「…うん。まじで俺いらないな!」
朝陽は柊斗の肩に手を置き、ニカッと笑いながら二人を揶揄うように言った。
「―…同じ中学だった三人。 たまたま会って、一緒に帰っただけ。 学校も違うし。
ごめん、姉ちゃんいると面倒いから…じゃ、またな」
流星は手を振ると、腕を組もうとする姉をかわしながら歩いて行った。
「そういえば、あいつの姉ちゃんってブラコンだったな」
流星には、十歳、七歳、四歳離れている姉がいて、三人とも所謂ブラコン。
(もし電車で会ってたら、天音ちゃん危なかったかも…)
「相原といるところ見てたらやばかったかもな…」




