初デートは…反省だらけ
「「「誕生日おめでとー」」」
「ありがと!」
お昼休み、三人が私のクラスに来て誕生日を祝ってくれた。
「麻琴ちゃん、おめでと! 私からは、これ! ってことで早速着けていい?」
天音ちゃんからは、リボンっぽい形のピンクゴールドのヘアクリップと色んな種類のヘアピンのセット。軽くアレンジを加えてヘアクリップを着けてもらった。
「かわいい~。 髪もありがと! 私もアレンジ覚えて着けるね!」
「デートの時もぜひ!」
「…はい。着けさせていただきます……」
顔の前でヘアピンのセットを掲げながら言うと「うん」と満足そうに、私の肩をぽんと軽くたたいた。
「次、私ね。おめでと~」
ももちゃんからは桜の香りのハンドクリームとリップ。
「ありがと~。 かわいい~大切に使います」
「めっちゃ、ぽいなって思って。リップもナチュラル系だから使いやすいと思う。これで、藍葉くんともっと近づいてねっ!」
手で作ったハートから、ニコニコして私を覗いてきたので、私はハンドクリームとリップでハートっぽくして、覗いてくる目線をブロックした。
「……ありがとうございます…」
「私からも。麻琴、誕生日おめでと~」
「ありがと!」
ゆづから貰った袋を開けると、中にはベージュのキャップとチョコが入っていた。
このキャップ、色は違うけど、どこかで見たことあるデザインな気がする。
「………結月さん?もしかしてこれ…」
「気付いた? 朝陽が柊斗くんの誕生日にあげたものと色違い! あと、チョコは朝陽から」
悪戯な顔でニコニコ笑うゆづの隣に、朝陽くんの笑う顔まで浮かんできた。
「…ありがとうございます。朝陽くんも…」
なんだかイジられながらプレゼントを貰って、恥ずかしさはあったけれど、思われていることが純粋に嬉しい。
「みんな、本当にありがとう!」
「「「おめでと!」」」
ゆづから貰った袋にプレゼントをまとめて机の横に掛けて、お弁当を広げる。
「それで、昨日のデートはどうだった? 柊斗くんからプレゼント貰った?」
三人の顔が、あまりにもキラキラしていて、私は貰ったネックレスの写真を見せて昨日の話をした。
「いいじゃん!素敵~」「思われてるね~」
「あれ?二人で撮った写真とかないの?」
キーホルダーを仕舞っていると、写真を見ていたももちゃんが、首を傾げた。
「そういえば、二人で写真は撮らなかったなぁ。 私も普段撮らないし、柊斗も好きじゃなさそうだから、写真撮るって考えがなかった」
「「「はぁ~(まあ、この二人ならどっちも写真撮ろうって言わないだろうなぁ…)」」」
三人から生温かい目で見られながらため息を吐かれた。
(やっぱ、撮った方がよかったよね……)
「…まあ、写真は…うん。 それで?ネックレスは貰ってどうしたの?着けたの?」
「うん」
◇
「………ま…」
喜ぶ顔を見ていると胸が熱くなり、右手が自然と麻琴に伸びていた。
「ホントありがと! 今着けてみていい?」
麻琴に聞かれて、ハッと我に返り、伸ばしていた手をさっと下ろし頷く。
(今、俺……)
ありがとう。と言って、箱から慎重にネックレスを取り出し、桜のチャームを手に乗せて眺めたあと、着けようとするが、左手に箱を持っていたので、どうやって着けようかと戸惑っていた。
(これは着けてあげるべきだよな)
「俺が…」そう言って手を差し出す。
俺の手を見た麻琴は、嬉しそうな恥ずかしそうな顔をして、
「あ、ありがとう」
そう言ってネックレスの箱を俺に渡した―
―結月Side
「ストップ。それって、藍葉くんが着ける流れじゃないの?」
天音ちゃんが一旦止めると、私とももは激しく頷いて同意。
私たちの顔を見た麻琴は、完全にやらかしたみたいな顔をした。
「……あ!そういうことか! てっきり、箱持っとこうか。って意味だと思った…。
うわぁ…柊斗が着けようかって意味で手出してくれてたら、私最悪すぎる……。察しろよって感じだよね……。
ドラマとかで見たことあったけど…。マジか…。いやでも、その場合、髪ってどうする?そのまま?それとも上げたほうがいい? って今さらだけどさぁ…。というか、着けてもらうって考えたら恥ずかしくて、やっぱできないかも」
頭を抱えた麻琴は、私たちに言っているのか独り言を言っているのか分からないボリュームで、ダーッと喋っていた。
(普段から人にお願いしたり、甘えたりするの苦手だから、やってもらうっていう発想がないんだろうな…。 でも、それにしてもねぇ…)
このままだと机に沈んでいきそうだったので、この件はこれ以上突き詰めないことに。
「麻琴がネックレス着けて、柊斗くんは喜んでくれてた?」
「―…うん」
思い出したのか、少し顔を赤くして照れながら頷く麻琴。
「それで、そのあとは?」
◇
「どうでしょうか?」
少し恥ずかしいけど、ネックレスを着けて柊斗に聞いてみた。
「似合ってる」
甘い笑顔のお手本みたいな顔で目を見て言われて、心臓も呼吸も止まった。
(え?誕生日迎える前に死んじゃうよ?)
ギュッと目を閉じて、さっき見た、なかなかに衝撃的な深海魚のビジュアルを思い出す。
あれはちょっと…、本当に自然に創り出された生物なのか疑う…。
ふぅー…。ようやく息が吐けて、思いっきり酸素を取り込んだ。俯いたまま、ゆっくり目を開ける。
「………っ。…ありがとうございます。今日の服、春っぽくしてよかった。あ、持っててくれてありがと」
まだ顔は見られそうになかったので、目線を上げないように気をつけて、柊斗が持ってくれていた箱を受け取った。
帰る時間を麻琴に確認すると、まだ大丈夫ということで、二人でカフェに入ることに。
「ここは、今日のお礼に私が出したい」
注文するためレジに並んでいると、麻琴が真剣な顔で見上げながら言ってきた。
「いい…」
「いや、出させてください。チケットも出してもらって、プレゼントも貰ってって、もらいっぱなしだし。
全然足りないけど、やってもらってばかりだと気持ちが落ち着かないっていうか……だから…」
俺を見ていた目がどんどん下に下がり、顔まで徐々に下がり始める。
断固として譲らないというか、もうこれは、こっちが折れるしかないというか……こんな風に言われて、それでも俺が出す。と言えない。そんなこと言ったら、麻琴の厚意を無下にすることになる。
(普通におごってもらえばいいのに、律儀だよな…。まあ、そういうところも…)
「―…じゃあ、お願いします」
下がり始めていた顔が上がり、大きく開いた目で俺を見た顔は、パアッと明るくなっていた。
「はい。じゃあ、柊斗は席お願いしていい?」
「ん」
時間的に店内は人が多かったけど、ちょうど二人で座れる席があって、そこで撮った写真を見ながら麻琴を待った。
(よし。これで少しは―)
「ねぇ、あっちに座ってる人かっこよくない?」「ホントだ、正統派イケメンって感じ」
「あの人一人かな?」「まさか~彼女いるでしょ」「さっきあの子と一緒に並んでたけど、妹と来てるのかな?」
周りの人がヒソヒソ話しているのが聞こえてくる。その人達の視線の先は柊斗。
(うん。わかる。やっぱ目が行くよ。なんか、座ってるだけで絵になってるし。
…って、私今からあそこに座るのか!ちょっと怖っ……)
もちろん、見た目が釣り合ってないのなんて自分が一番分かってる。今だって妹って言われたし。
よく漫画とかで、釣り合ってないって周りに言われて気にして、隣に立つ自信ないとか、別れたいとか自分で言って泣くの見るけど、それって自分勝手っていうか……。結局、相手傷つけてるし…。
まあ、それも愛情を確かめる一つなんだろうなぁ~とは思うけど、
「周りなんて気にするな、俺のことを信じろ」とか「周りの目なんてどうでもいい、俺が好きなのはお前だけだ」みたいな。そういうこと言われたいんだろうな~って思っちゃうんだよね……。
いや、それもいいんだけど…
でも、もし同じことして、そんなこと言われなかったら? 分かった。って言われてそのまま別れたら?
周りに釣り合ってないって、コソコソ言われるより、そっちの方が耐えられんわ!
一緒にいて嬉しいけど不安もある。でも、こうやって私が喜びそうだからって水族館に連れてきてくれたり、プレゼントを用意してくれたってことは、柊斗が私のことをちゃんと考えてくれているってことだから…私は ”今”の柊斗の気持ちを信じる。
(だから、ダメになっちゃう日が来るまで、ちゃんと向き合って、返せる恩は返していかないと。
でもそうなったら……きっついなぁ……。 柊斗以上の人がいるとは思えないし、多分、一生独身になるかも)
(―…なんか考え込んでるけど、まだ何にするか決まってなかったのかな?)
並ぶ麻琴を見て、また水族館で撮った写真を見る。
(女子って、何かと写真撮ろうって言ってるイメージだったけど、麻琴はそんなこと全く言わなかったな…。 どうやったら、一緒に撮れるんだ? なんて言えばいい?タイミングは?)
写真には水槽の魚と、こっそり撮った麻琴の後ろ姿も収められている。
(こんなの撮ってたって知られたら引かれるかも…)
「おまたせ~ 席とっといてくれてありがと」
「ありがと」
麻琴からコーヒーを受け取り、スマホをしまう。
(見られてないよな…)
向かいに座った麻琴が、俺のコーヒーをじっと見ながら口をゆっくり開いた。
「あのさ…聞きたいことがあるんだけど…」
(もしかして見られた? 隠し撮りってバレたら…)
「ん?」平然を保っていても、写真のことを聞かれたらどうしよう、引かれたかもと不安で心臓が変な動きをする。
「好きな色ってなに?」
いきなりすぎて、一瞬頭がフリーズした。
「………青と黒だけど」
「青って、明るいの?それとも暗いの?」
「暗い方…」
「だよね!シャーペン見たときもいい色って言ってたし、イメージ的にそうかなと思ってた」
「でも、なんで急に色の話?」
「その…柊斗にプレゼントしたいなって思った時、柊斗の好きなものってあんまり分からないなと思って。誕生日はお兄ちゃんに相談したし。
何となく、こういうのは好きじゃなさそうってのは分かるんだけど、やっぱり好きなもの知りたいなと。
ほら、柊斗は今回もホワイトデーも私の好きなものくれて、それが嬉しかったから、私もそうしたい、な…と思いまして…」
俺は本人からじゃないけど、好きな物は大体知っている。普通に考えたらキモいと思われても仕方ないけど…。少しでも近づきたくて、共通点が欲しくて、きっかけが欲しくて…。
だから、麻琴が俺のことを知ろうとしてくれていることが、めちゃくちゃ嬉しかった。
「…他にも何か聞きたいことある?」
「ありがと!じゃあ…」
食べ物の好き嫌い、飲み物の好み、香りの好み、スポーツ選手、芸能人などなど…色々聞かれた。
特にないなと思うものは、麻琴から「これとコレだったらどっちがいい?」と選択肢を出して、俺が答えやすいようにしてくれた。
一つ一つ答えるごとに、頷きながら小さくリアクションしてくれる。
時々、麻琴の好きなのはどっちか聞いたりして、やっぱり俺の方が得をした。
「ご協力ありがとうございました。色々知れてよかった」
聞くこと多くて嫌がられないか心配だったけど、途中ちょっと笑ったり、悩んでたのもあったけどちゃんと答えてくれて、意外なものもあったし、聞いてよかった。
って感じで、二人で話して帰りました。
……それで聞きたいんだけど、手ってどのタイミングで繋ぐの?」
「「「………え?繋いでなかったの?」」」
ニコニコ聞いていた三人は、最後の私の一言で口をポカーンと開けて唖然としていた…。
「それで?付き合って一ヶ月でようやくデートに行けた二人はどうしたの?」
俺の目の前に座って、全身から落ち着かない様子がにじみ出ている。
「…水族館行って、プレゼント渡して、貰って、話して帰った」
「大まか過ぎるだろ! もう少し詳しく! 手繋いだとか、一緒に写真撮ったとか、プレゼントは何あげたんだよ。ってか、貰ったってどういうこと? 帰りは? 家までずっと一緒じゃん?」
朝陽の聞きたいことが何なのかよく分かった。
「……」
黙って朝陽を見ていると、机に手を置き、椅子から勢いよく立ち上がった。
「何だよその顔。 よし、お前が言わないなら麻琴に聞―」
「待て」
机に置いていた手を掴み、今にも走って行きそうな朝陽に、座るように言う。
「なら、話してもらおうか~ 俺には聞く権利があると思うな~」
「はぁー…… 俺からは…」
乗せられているのは分かっている。
ため息を吐き、聞いてきたことに答えながら、さっきより詳しく話をすると、最初はニヤついていた朝陽の口元が、だんだんポカーンと開いてきた。
「―…え?マジで? まあ、ネックレスの箱渡されたのは、麻琴らしいっちゃらしいけど……」
(まあ、俺もあの時、着けようかって言わなかったから仕方ない)
「手も繋いでないの?写真も? お前何やってんの? 色々考えるのは分かるけど、ただでさえお前は喋らないし、表情分かりづらいから、こういう時頑張らないとダメだろ。プレゼントなんて、頻繁に渡すわけじゃないし」
自分でも思っていたことを言われて、一つ一つが心にグサグサ刺さっていく。
(だよな……)
◇
(世の中のカップルは、どのタイミングで、どうやって手を繋いでいるんですか?)
二人は自然に~って言ってたけど、それが分かんない…。自然ってなに?
歩き出すタイミングで? 繋ごうとか言うの? それとも手を差し出す? 手が触れた流れで?
(繋ぎたくない訳じゃないけど、自分から言うのは、まだちょっと怖いと言うか…断られたら…)
こんなこと考えてるからダメなんだよな~と思いながら、掃除道具を持って廊下に出た。
「朝陽くん」
「おっ、誕生日おめでと! 麻琴も廊下掃除?」
「うん。 チョコありがとね」
(お礼言えてよかった。 でも、場所被るとは…)
「どういたしまして。そういえば、あいつにもプレゼントあげたんだって?喜んでたよ」
(意外…。 柊斗ってそういう話するんだ。 でもそっかぁ。喜んでくれてたんだ)
「よかった…」
「(そういう顔似てるな~ 柊斗の方がめっちゃ好きかと思ったけど、麻琴もちゃんと柊斗のこと思ってるし。
あと二人に足りないのは積極性だな! どっちも遠慮がちで恥ずかしがりだから、誰かがアシストしないと)
そうだ! 今週土曜日、練習試合あるんだけど、もし予定空いてたら、結月からもらった帽子被って応援来てよ!柊斗には内緒で。どう?」
「…考えとく…」
(急に話すからびっくりした…。 練習試合か。ゆづも行くんだったら行ってみようかな)




