込めた思い…
「白木さんって、藍葉くんから今までどんなお返しもらったの?」
(何か、久しぶりに柊斗のことについて聞かれたなぁ)
「今年初めてあげたから、貰うも何もなかったけど」
「え、嘘!? 今まであげたことなかったの!?」
(そんなに驚く?)予想以上に驚かれて、逆にびっくりした。
「…うん。前に話したけど、家が隣ってだけで、別に仲良かった訳じゃないから」
「まあ、頻繁に話してるのは見ないけど… でも、普通に話してるし、体育祭の時も… ねぇ?」
一緒にいた子も、その言葉に、うんうんと頷いていた。
「それは…」
確かに、高校に入ってから柊斗と話したり、一緒に帰ったり、遊園地に行ったり、体育祭で助けてもらって、手も…それに、初めて誕生日もお祝いした。
(そういえば、みんなと一緒に柊斗といる時間も多かったな…)
「じゃあさ、今まで誰かにお返しあげてたとかは?」
「えっと… うちの学校、バレンタイン禁止だったから…」
「そっか~ でも、藍葉くんだったら机に入ってたり、家に渡しに行った子とかいそ~」「お願いされたりとかなかった?」
「あはは~」
(お察しの通り… いろいろありましたよ…)
―
「で?いつ渡すの?」
「…」
「麻琴があそこから取ったらどうするんだよ」
朝陽が指さす方には、「お返ししなさい」と母に言われ、柊斗が用意した個包装のお菓子の箱。
誰から貰ったか把握していないので、あげた人に自分で取ってもらうことに。
湊もこの方法で返していたと言うので真似した。
「ちゃんと用意してんだろ?」
「うん。湊からも預かってる」
「それなら、一緒にサラッと渡せばいいじゃん」
(それはそうだけど…)
―
「見て!藍葉くんからのお返し!」「えー!もらったの!?」
ドクン―(柊斗から?)
教室に入るなり、その子は友だちに自慢げにをクッキーを見せていた。
その様子に、なぜかモヤっとする。
(なんだろ… なんでこんなに嫌な感じがするんだろ…)
周りが「すごーい」と言うと、その子はハハっと笑って、
「なんちゃって! 貰ったっていうか、教室にクッキーの箱があって、あげた人はそこから貰ってって~って感じで置いてあったの。さすがに、一人ずつ返すなんてキツイもんね。
用意してくれるだけ、ありがたいよ~」
と説明し、それを聞いて周りも「なーんだ。そういうこと」と笑う。
(なんだ…直接もらった訳じゃないんだ)ホッ
?(気分が治った?)
「あぁ~藍葉くんからのお返しね… 教室に置いた瞬間、ざわついてたなぁ」
「でも、いい方法だよね」
「麻琴は?柊斗くんから貰った?」
「ううん。ないよ」
「まさか、取りに行かないよね?」
バレンタインの件もあって三人は少し不安そうに麻琴を見る。
「行かないよ~」
(((よかった…)))
「ほら!用意してるけど、渡すの見られたら騒がれそうだし、タイミング見てるのかも」
桃花の言葉に二人も、そうそうと頷く。
「そんなことあるかな? そういえば、ゆづは?朝陽くんから貰ったの?」
「うん。キャンディーブーケ。リクエストしたんだ~」
ここに来る前に朝陽から貰った紙袋の中から、カラフルなキャンディーブーケを見せる結月。
「「「可愛い!」」」
(お兄ちゃんからはお返し何がいいって聞かれたけど、柊斗からお返しの話とか何もなかったし、せっかくだから、放課後余ってたら貰おうかな…)
―
「…」
(渡すタイミングがわっかんねぇ…
見られて何か言われるのもアレだし、もたもたしてると帰るよな…
部活終わり家に寄る?いや、迷惑だろ)
柊斗が考えていると、結月と桃花が話をしながら教室に戻ってきた。
「二人は放課後いつもの喫茶店か~ いいな~」
「今度四人で行ってみたくない?」
(なんだろ…聞こえるように言われてる気がする)
「ってよ? 帰る前に渡さないとな~」
そう言って結月に話しかけに行く朝陽。
―
(藍葉くんなら、お返し絶対用意してるから、いつもと違う雰囲気の麻琴ちゃんで驚かせよ)
「二人戻っちゃったし、久しぶりに髪やっていい?」
「うん。お願いしま~す」
天音にアレンジしてもらっていると、朝陽が来て「これ」と一枚の紙を差し出してきた。
「何?」
聞いても何も言わず、ニコッと笑う朝陽から、一応その紙を受け取る。
貰った紙を開くと、丁寧な字でメッセージが書かれていた。
〈渡したいものがあるから、放課後、美術室のとこの中庭に来てほしい 柊斗〉
(渡したいもの…)
「天音ちゃん、先に涼子さんのところ行っててもらっていい? 後から行くから」
「オッケー ゆっくり来ていいからね」
全てを察したような含みのある天音の笑顔と言葉に、なんだか気恥ずかしくなった。
―
「じゃあ、あとでね」
玄関で天音と別れ中庭に着いたが、まだ柊斗は来ていなかった。
(初めて来た…)
「まだ咲かないか~ いつ咲くかな」
中庭にあった桜の木を見上げる。
(来てくれた… ってか、朝と髪型違う。 …かわいい)
来てくれなかったらどうしようという不安は、その姿を見た瞬間に吹き飛んだ。
木を見上げていた麻琴は柊斗が来たことに気付き、笑顔で軽く手を振る。
いつもと違う雰囲気に少し緊張する。
「急に呼び出してごめん、ありがと」
「全然」
二人だけしかいないからか、今日の学校の雰囲気がそうさせるのか胸がムズムズする。
(なんか緊張する…)
「これ渡したくて。クッキーのお礼」
持っていた紙袋を差し出すと、麻琴は袋の底を両手で受け取った。
「ありがとうございます」
紙袋を見つめ、笑っている顔は、麻琴が本当に嬉しい時に見せる顔だった。
(喜んでもらえてよかった)
「袋かわいい。なんか、たくさん入ってるけどいいの?」
「うん。俺は誕生日もらったけど、あげてなかったから、その分も入ってる」
「いや、それは…」
「それでも、俺の気持ちだから」
「……ありがとうございます」
(それにしても、多い気がするけど)
「あと湊からも預かってて…」
「あぁー!湊さんからの分も入ってるのか!」
勘違いしている麻琴の言葉に焦り、もう一つ持っていた袋をバッと差し出す。
「違う!湊からはこれ」
「え? あ、ありがとう」
(ということは、こっちは全部柊斗から…すごいな…)
(ちゃんと全部俺からって伝わったよな…)
―
「いらっしゃいませ。あ、麻琴ちゃん」
「こんにちは」
麻琴に気付き、カウンターから軽く手を振る天音。
「用事はどうだった?」
「お返しもらったよ。湊さんから預かってる分も渡してくれた」
「よかったね。ちなみに、何もらったの?」
「なんかいっぱい入ってて…」
袋に入っていたお菓子をテーブルに出す。
二種類のマカロン、カラフルなキャンディー、四つのマドレーヌ、キャラメル一箱。
「これ!前にHaruとコラボしたお店のだ!すごーい!」
「ホントだ! 麻琴ちゃんがHaru好きって知ってて入れたんじゃない? 彼氏すごいねぇ」
「彼氏じゃないですよ~」
テーブルに置かれたお菓子と、麻琴の話を聞いた天音は柊斗に感心していた。
(藍葉くんすごいなぁ… 二人とも気付いてないけど、これって全部…)
「ホントすごいね! 結月ちゃんと、ももにも見せてあげたら?」
(二人なら通じるはず)
「うん。あっそうだ、柊斗にももう一回お礼言っとこ」
―
〈お菓子ありがとう!
Haruとコラボしたお店のキャンディー入ってて、びっくりした! 食べてみたかったから嬉しい!
たくさんの可愛いお菓子、本当にありがとうございます!〉
(喜んでくれてる… めっちゃ嬉しい…
この感じだと、予想通り意味は全然わかってないんだろうな)
一つ一つに込められた意味を麻琴が知ったとき、どういう反応をするか気になるけど、少し怖い。
でも今は、喜んでくれていることを喜ぶことにしよう。
「おつかれ~ 帰るか…」
スマホを見る柊斗の顔は、いつものクールな表情ではなく、誰がどう見ても嬉しそうに笑っていた。
(わっかりやすいなぁ~)
…
((―…こんなん、告白してるようなもんじゃん!))
麻琴から送られて来たラインを見た結月と桃花は、お返しの内容を見て柊斗の思いがわかったが、貰った当の本人は、飴のことしか言ってなく可哀想になってきた…
((意味を知ったらどうするんだろう…))
麻琴が柊斗の思いに気付くまで、あと…
~ホワイトデー当日、付き合って一ヶ月の人たち~
「はい涼子」
「ありがと。なんか色々入ってるね… あ!この飴!」
「そ。Haruとコラボしたとこの」
「すごっ」と言いながら、笑う涼子に暁翔は自慢げ。
「どう?いっぱい入ってて驚いた?」
「ふふ… ホワイトデーって、ホントにこんなたくさん貰えるんだね。しかも、内容まで…」
「? 内容って?」
「実は、お店に来てた子がね…」
「…マジかよ。そいつすごいな…」
(もう、告ってるようなもんじゃん! それにしても、二人揃って鈍感というか… 疎い!一般常識として頭に入れとけよ!
って…あれ? なんか今、一人の高校生が浮かんだような…)
「ほぼ一緒ってすごいね。あっ!私はマドレーヌじゃなくてバウムクーヘンだ。」
助手席で袋に入っているお菓子を見ながらニコニコしている涼子。
(……やっぱり、意味分かってないし)
「実は、一個一個意味があるんだよ。キャラメルは…」
「どう?伝わった?」
一つ一つ説明するごとに、どんどん赤くなる涼子の顔に満足の暁翔。
「それで?検討していた件はどうなったかな?」
バレンタインの日、涼子はある件を検討すると言って暁翔を待たせていた。
「………あ、この絵柄かわいい」
(ま~た、ごまかす)
「ったく、いつになったら… はい、着いたよ~ じゃ、また…」
―…
!?!?!?!?
「―……ちょっ、涼子、今の…」
暁翔の言葉も聞かず、俯きながら逃げるように車を出る涼子。
「送ってくれてありがと! お返しも、たくさんありがと! それじゃ、またね」
涼子の閉めたドアの振動を感じながら、左の頬を抑えたまま、顔を真っ赤にしてうなだれる暁翔。
(―……だから、心臓に悪いって…)




