ホワイトデーに向けて
…ホワイトデーのお返しは?
「結月が飴がいいって言うからそうする」
「ケーキがいいって言われた。玲華から貰ってないけど… ちょっ、聞けよ!」
「ん? チョコが好きって聞いたからそうしようかなぁって思ってるよ。
ホワイトデーのお返しって、意味があるらしいから、気を付けてね。 …あぁ調べたんだぁ~ 偉いね~」
(とりあえず、颯汰さんと湊とは被らないな)
三人に聞いたが、みんな言われたものを返すようで、これといった決め手にはならず…
なんなら玲華と同じことを言う湊に、ちょっとイラッとした。
―
「いらっしゃいませ」
「…よろしくお願いします」
美容室に行くと、前回の人がまた担当してくれることに。
「また担当できて嬉しいです。 実は、また話したいと思ってて」
普段切ってもらってる間話はしないが、前回担当してくれたとき、彼とは共通点があって話をした。
「…もしかして」
「やっと落とせて、付き合うことになりました」
(この人もか…)「よかったですね」
「ありがとうございます」
鏡越しに見る顔はすごく嬉しそうで、羨ましかった。
「実は、バレンタインに…」
そう言って、その人は嬉しそうに付き合うことになった経緯を話し始めた。
「…すごいですね」
「ハハ 急に可愛いことされたら、心臓もたねぇーって感じで」
(それはめっちゃわかる)
「…その、お返しって何あげるか決めてるんですか?」
「え?もしかして貰えた?」
「はい」
「よかったね! めっちゃいい感じじゃん」
「まあ、一応…」(そう思うことにしよう)
「俺はね、彼女が気付くかはわかんないけど…」
初めは、あっちも客相手だからと敬語で話していたのが、だんだんとくだけた言い方になって、距離が縮まった気がした。
「…なるほど。ありがとうございます」
多分、性格とか反対だろうし、同級生にいたら苦手な部類に入りそうだけど、この人は不思議とそんな感じがない。
(次は、いい報告ができたらいいな)
―
「そういえば、あれからどうなんだよ?」
「何が」
「ほら、目が合うって言ってただろ」
「…あぁ。 それが…」
朝陽に言われて、麻琴と目が合った時、逸らさないでいると、麻琴は表情を変えず、そのままゆっくり目線だけ逸らしていた。
パっと顔を背けたり、慌てるわけでもなく、ただスッと目だけ移動させる。
「…それは、どうとればいいか分かんないな」
(前に結月から、麻琴はつい顔に出るって言ってたけど、この場合は?
結月に聞いてみるか)
「ん~… それは、観察してるのかも」
「…観察?」
「うん。小学校の時、仲良くなれそうな子をじっと見て、自分と共通点あるか探して話しかけたりしてたから」
「何で? 普通に話しかけたらいいんじゃ…」
「今まで柊斗くんのことばっか聞かれて、自分から話しかけたことなかったから、怖かったんじゃないかな。
だから、自分の中で話しかけても大丈夫そうと思ったら行くって感じ」
「なんだそれ。小動物か?…んじゃあ、柊斗のこと見てるのは? 話しかけたいってこと?」
「ん~… 分かんないけど、とりあえず嫌われてはいないから安心してって、伝えといて」
「…ってことらしい」
(それは、安心していいのか? 警戒されてるみたいな感じにも聞こえるけど)
「なぁ、そういえば今まで聞いたことなかったけど、なんで麻琴のこと好きなの?」
「―…なんで急に」
「いやぁ… 俺の記憶の中ではもうずっとそうだったから気にならなかったけど、最近のお前見てたら、何でなんだろうって思って。
なんか、きっかけとかあったの?てか、喋ってない間も、なんで思い続けられんの?」
「最初は、隣のアパートに住んでるから、他よりは気になるって感じだったんだけど、見てたら何かいいなって」
「ん?どこらへんが?」
「やることが、わざとらしくない」
「…え?何それ。 例えば?」
「言わない。」
(これは、ずっと見てきた俺にしか分からないと思うし、知ってほしいとも思わないから)
「結局、教えてくれないのね」
本当は聞きたかったけど、少し緩んだ柊斗の顔を見てると、何となく聞く気も失せてしまった。
(考えるだけでその顔って… 二人がうまくいったら問い詰めてやろ)
―
「なんで柊斗って彼女作らないんだろ」
「―…ぇ? 急にどうしたの?」
長いこと一緒にいるが、麻琴がこんなことを言うのは初めてだった。
「いや、小学校から今まで定期的に告白されてるじゃん? バレンタインもたくさん貰って。
それなのに、彼女できたことはないなって」
「そうだね…」
「シンプルにタイプじゃないのか、興味が無いのか…
もしかして…ずっと好きな人がいる…とか?」
(あれ?なんか自分で言ってて、チクチクするというか、モヤッとするというか…)
ホワイトデーで何かが起こりそうな二人。
その一方で、颯汰は色んな意味で人生が懸かっている結果発表の時を待っていた。
「……」
ガタッ―じっと座っていた颯汰が立ち上がったと思おうと…
「っしゃー!玲華と付き合える!」
(そこは、合格したとかじゃないんかい)
「!?…ということは…!?」
受かったでも、ダメだったとかでもない息子の言葉にプチパニックになる母。
「受かりました」
ニコッと、ニカッと…ニヤッと?したような笑顔で答える颯汰は、とにかく嬉しそうだった。
「「「おめでとー」」」
「ありがと。あっ、湊からだ」
湊から来た電話に大興奮の颯汰。湊も合格して、玲華も来るので、また一緒にお祝いしようと言われたらしい。
「うん。じゃあ、今から行くわ」
「ってことで、湊の家行ってくる。みんなで来てって言ってたから、あとで来てね」
それだけ言うと、誰がどう見ても浮かれている颯汰は、呼び止める声も聞かず飛び出していった。
本気なのか冗談なのか分からないが、颯汰が行ってしまった以上は、何かを持って行かないとと、麻琴と父は、とりあえず急いで買い出しに行き、母は差し入れを作ったりと慌ただしかった。
(今まで何年もお邪魔してなかったのに、この短期間で三回もお邪魔することになるとは…)
玲華が小学生の時は、麻琴もまだ低学年で家に遊びに行くこともあったが、玲華が中学生になると会うことも減り、麻琴も同級生の男の子の家に遊びに行くということに抵抗を感じ、誘われても遠慮して行かなくなってしまった。
湊と颯汰の仲がいいというのもあるが、今まで関わりの薄かった両家が、現在こうして繋がることが不思議だった。
(もし、ずっとこんな感じだったら、柊斗のこと幼なじみってハッキリ言えたのかな…
普通に話したり、一緒に帰ったり…
もし… そんなこと考えたらキリはないけど、その“もし”を歩んでいたら、現在の思い出はないかもしれない。
そう考えたら、今からが仲良くなれるタイミングなのかな…)
(もっと早くこんな感じで集まれてたら、麻琴とも仲良くなって幼なじみとして、堂々といれたかな…
そしたら、十年もこじらせることもなかったかも…
もし、こうだったら今と違っていたと思うけど、現在の気持ちと違う可能性もある。
そんなこと考えられないけど、その可能性が少しでもあるのなら、話さなかった10年も意味がある時間だったと思えるし、これからに懸けたい。)
「ってことで、今日から玲華の彼氏ってことでいいんだよな?」
「そうだね」
「っしゃー!」
(よく親の前でできるなぁ~)
みんなそう思っていたが、颯汰の幸せそうな顔を見たら、もう好きにしてって感じだった。




