今年こそ…
「受験か…」「私達も二年後は、ああなるんだね」
年が明け、三年生は試験が近づいて緊張していた。
「それは、そうと…」
いつも通り四人で、昼休みを過ごしているが、冬休み前と変わったことが一つ。
「二人が付き合うなんて…予想外って訳じゃないけど、いつの間に…」
「待って!ってことは、記念日がイブってことだよね? いいなぁ~素敵」
桃花と天音に直接言いたいからと、冬休みが終わって会うまで黙っていた。
「私もそうなったらいいなって思ってたから、ゆづから朝陽くんと付き合うことになったって聞いて、驚いたけど嬉しかったぁ~」
「ありがと。そう言われると照れるね」
嬉しそうにはにかむ結月を、桃花と天音は質問攻め。
柊斗は、朝陽からその日のうちに聞いたが、四人の話が聞こえて、改めて話をする。
「…すげぇな」
「一緒に帰ったとき、今しかないと思って」
(十年こじらせている俺とは違う…)
「ある意味、お前のおかげでもあるな」
「何が」
「結月とずっと一緒だったけど、あんま関わりなかったし、全然そんな風に思ったことなかったけど、委員会で一緒になって、話とかしてたら意外と気が合うなって思ったし。お前がこじらせてなかったら、こんなことになってなかったかも」
そう言ってニカッと笑う朝陽に複雑な思いを抱える。
「まっ、次はお前が頑張る番だろ?」
「…ん」(今年こそ…)
―
三年生が受験で忙しい中、教室…というか世間はバレンタインの話でもちきり。
「ねぇ、麻琴ちゃん、もしよかったら木曜日うちで一緒に作らない?」
「え!いいの?ありがと! ぜひ、お願いします!」
(一緒に作るの楽しそう!誘ってくれてありがたい!)
「やった! それでさ、よかったら涼子ちゃんにもあげない?」
「賛成!」
バレンタイン当日は土曜日なので、前日の金曜日にみんなで交換しようということになり、
木曜日の放課後、材料を買い天音の家へ。
「おじゃまします」「どうぞ~」
「麻琴ちゃんは、クッキー作るんだよね?」
「うん。これしか作れないから」
「いいじゃん。藍葉くんもたくさん食べたんでしょ? 私も食べてみたい!」
「あはは~」
二人で買ってきた材料を出す。
「あっ、チョコ入れるの?」
「うん。甘さ控えめだから入れてみようかなって」
「いいね~」
二人でワイワイ楽しく作り、クッキー二種類と、チーズケーキが完成。
それぞれラッピングまで済ませた。
(あれ? 麻琴ちゃんの一つだけチョコチップが入ってなくて、代わりに小さいクッキーたくさん入ってるのがある……もしかして!)
お互い作ったお菓子を、せっかくだから今食べようということに。
「チーズケーキめっちゃ美味しい!」
「美味しい!チョコッチップいい感じ!」
「天音ちゃん、今日はありがとう。楽しかったし、ケーキも美味しかった」
「こちらこそ。じゃあ、また明日。気をつけてね~」
「うん。本当にありがと。お邪魔しました」
(友だちと一緒にバレンタインのお菓子作るって、漫画みたいだった~ 楽しかったなぁ~
みんなに喜んでもらえますように)
―
学校中がバレンタインモードで、あげる側も貰う側もソワソワしていた。
「ハッピーバレンタイン!いつもありがと」
お昼休み、今日は麻琴と天音が4組の教室へ行き、約束通り四人で交換し合っていた。
「結月ちゃんは、矢野くんにあげたの?」
天音が聞くと
「さっき催促されたから、あげたよ」
(朝陽くん、教室飛び出して行ってたからなぁ)
チラッと朝陽を見ると、結月からもらったお菓子を自慢げに柊斗に見せて、嬉しそうにしていた。
「にしても、見てよあれ! 本当にあるんだね!」
桃花の指さす方を見ると、ロッカーの上にお菓子の入った袋が20個ほど並べられていた。
「すごくない?藍葉くんコーナー」
「直接渡しても、『返せないから』って断られるから、それでも渡したい人はあっちに置いてってるの」
「確かに、あんだけあったらお返し大変だよね」
(なるほど…あ、また一人置いてった)
「どうした?」
食べ終わり、ラインが来たからとスマホ触っていた柊斗が急に固まった。
朝陽に聞かれ、何も言わず画面を見せる。
(…うわぁー… 今の柊斗にこれは…)
〈麻琴ちゃんから預かったって、颯汰からもらったよ。俺の分もお礼言っといてね〉
写真付きで湊からメッセージが送られて来ていた。
まだ麻琴から貰っていない柊斗にとって、湊からのこのラインは確実にダメージを与えるものだった。
(正直、今年は関わることも多かったし、距離もそれなりに縮んだんじゃないかって思ったから、もらえるかもと期待してたけど…
実際、湊にはあげてるし…)
スマホをグッと握り、湊からのメッセージを睨む。
お昼休み終わる時間が近づくと、教室に戻る人が増えてきた。
(渡すなら教室にいる今だと思うんだけど…もしかして放課後?
いや、そもそももらえないかも…
湊にはあげるけど俺にはない? 麻琴がそんなことするとは思えないけど…)
まだ貰える可能性を信じたい気持ちと、貰えないかもという考えが交互に出てくる。
「あっ!そうだ」
教室に戻ろうと話をしていた麻琴が急に立ち上がり、教室の後ろの方へ向かったので、三人…だけでなく、柊斗と朝陽も気になり、目で追う。
手にはクッキーの入った袋。
(((やっと、柊斗くん・藍葉くんに渡しに!?)))
(もしかして柊斗に…)
(…俺に?)
五人がドキドキしながら、麻琴の様子を見ていた。
これでよし!と、満足そうに振り向いた麻琴に
「「「何で!?」」」
と三人が思わずつっこむ。
「…なんでって、柊斗のはここに置くんじゃないの?」
クッキーの袋をロッカーの上に置いて言った麻琴の言葉に四人は唖然とした。
「じゃ、戻ろ。二人ともありがとね」
柊斗に渡せたし、と満足そうに、天音と教室に戻っていく麻琴。
「ま、無いよりはな… っと、俺も教室戻るわ」
朝陽が教室を出た後、ふらっと立った柊斗はロッカーに向かい、麻琴が置いていったクッキーの袋をそっと手に取る。
(何で直接渡さないで、ここに置いたんだよ…)
自分用にあったことは嬉しいけど、直接は貰えず少し複雑な気持ちでクッキーをじっと見つめる。
(……あれ?湊のはチョコが入ってたような… それに…)
クッキーは全部シンプルなもので、花の形の小さなクッキーもたくさん入っていた。
(もしかして、俺が美味しいって言ったから、たくさん入れてくれた?)
…
らしいといえば、らしいのだが、麻琴の行動に呆然としていた結月と桃花は、柊斗が少なからずショックを受けてるんじゃないかと思っていた。
でも、クッキーを手に取り、優しく見つめながら僅かに微笑む柊斗の横顔を見ると、その心配は無さそうだった。
「ねえ、あれ…」
「あの顔、麻琴に見せたいね」
―
「…クッキーありがと」
天音と一緒に帰ろうと教室で待っていると、柊斗がお礼を言いに来た。
「誕生日の時と同じだけどね。」
(わざわざ言いに来てくれたんだ)
「あと、湊も…お礼言ってた」
「あぁ…二人ともたくさん貰うの分かってたけど、お世話になってるから。
それと、みんなのにはチョコ入れたけど、柊斗はシンプルな方がいいかなと思って、それだけにしたよ。
気に入ってくれてたから多めに入れちゃったんだけど…」
一応、中身の説明をする。
「うん。ありがと。全部食べる」
「よかった。それじゃあ、部活頑張ってね」
「うん。 …本当にありがと。麻琴からもらえて嬉しかった」
そう言うと、柊斗はクルッと体の向きを変え、スタスタと早歩きで教室を出て行った。
(…何、今の? あんなにたくさん貰っていたのに、私から貰えて喜んでたように見えたんだけど…
それに…)
「麻琴ちゃん、お待たせ~ って…大丈夫?」
天音が教室に戻ると、麻琴は机の上に乗せたカバンを抱きしめ、顔を埋めていた。
「…大丈夫」
(それに、一瞬だったけど、あんな嬉しそうに笑うなんて…)
―柊斗の笑った顔を見た瞬間、胸がきゅんと熱くなった。
(―…っ緊張したぁ。
ちゃんと俺のことを考えて入れてくれたんだ…やばっ、めっちゃ嬉しい!)
カバンに入れた麻琴からのクッキーを見る。
(夢じゃない。ちゃんとある)
もらえた喜びと麻琴との会話を思い出して幸せの余韻に浸りながら部活に向かう。
…
「麻琴に言ってきたの?」
「ん」
(めっちゃ嬉しそうじゃん。 これは本当に今年こそ…)




