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転生アニマル地方都市!!  作者: バンデシエラ
アングラ部活動編
6/8

6話 厭世家のお姫様

 ダテマヨは生徒会役員会議があるから去ってしまい、俺はとり残された。


 俺も入部する部活動探しを始めよう。あらかじめメモしておいた、楽そうな文化部の名前を列挙した紙を取り出した。


 不意に、考える。


 ――俺もなにか、自分の信念を貫くような何かをした方がいいのだろうか。


 不覚にもそんな自分らしくないことを考えた。駄目だ。一時の感情の揺れ動きで衝動的に決断してはいけない。これから3年間、続ける部活なんだ。自分に合った部活をやろう。


 改めてメモに目を通す。この中のどの部活から見学するか…………


「あ! いた!」


 女の子の声が俺の思考の邪魔をした。急に飛んできた大声に俺の体は跳ね、警戒して振り返った。


 紅の髪の女子生徒がこっちを指差している。周りを見ても人間は俺しかいない。目が合うや否や、こっちに駆けてくる。


 人混みの中でも目立ちそうな派手な緋色の髪は後頭部の左右で三つ編みにして束ねている。頭には冬でもないのにケモノ耳の生えた黒いニット帽を被っていて、長めの重い前髪が暴れないように締め付けている。前髪の隙間に隠れた目元は薄い赤のアイラインが引かれていて、それが元の幼げな顔を少し色っぽく見せている。


 俺にはこんな知人はいないし、こんな女子に声をかけられるような所以ゆえんもない。


 女子生徒は俺の目の前で立ち止まると、キリッとした気の強そうな表情で俺を見た。眉の角度まで気が強そうだ。


「ほんと情報通りだからすぐ見つかった!!」

「情報? えっと……誰?」


 俺は彼女の勢いと、それ以外のなにかに少しだけ緊張した。


 見たところ髪を染めてはいるが、同い年くらいに見える。


「あたしは1年生の血ノ園(ちのぞの)紅奈くれな


 やはり1年生だった。入学早々に髪を染めているのはこの学校が見た目に関する校則が緩いからだ。多様性の推進とやらで最近髪を染めてもいいことになったらしい。


「率直に聞くけど、あなた前世の記憶があるでしょ? しかも人間じゃない、なにか別の生物の」

「――――ッ!?」


 俺はここ最近で2度目の、凄まじい衝撃を受けた。人の前世とかって、そんな簡単に見破られてしまうものなのか?


「な、なんで……わかるんだよ?」

「ねぇ、そうなの?」

「あ、あぁ、そうだけど……」


 彼女の圧の強い押しに、俺は改めて肯定させられた。


 前世のことについて既に知っているということは、彼女もダテマヨと同じ存在なのかもしれない。


「もしかして君も、前世の記憶がある、『輪者』ってやつ?」

「あれ、輪者を知ってるんだ。なら話は早い。ついて来て。()()()()()()()の部室に案内するから。そこに他の輪者もいるから紹介するわ」

「ちょっと待て情報量が多すぎるって」


 俺の静止の声にも耳を貸さずに歩きだしてしまう、新たに出会った同い年の輪者――血ノ園紅奈。輪者という存在を当たり前のように知っているようだし、部活仲間にも同じく輪者がいると。彼女が口にした部活動名――()()()()()()()に。


 流しそうめん部。俺の手元の紙切れの、「楽そうで活動が少なそうな部活リスト」に挙げた部活のひとつだ。たしか部活動紹介ではやる気のなさそうな黒髪の男子生徒が、つまらなくてしょうがないみたいな不機嫌な態度で短い部活紹介をしていた。なぜかその男子生徒は頭に大きい赤リボンを付けていたが、とにかく部活の方針としても積極的な活動はしていないようだった。だって「流しそうめん部」だぞ。積極的にそうめんばっか食ってたまるか。


 俺の気質にも合っているし、他の輪者もいるらしい。これはもうついていかない理由はない。俺は最初に見学する部活を『流しそうめん部』に決めた。


 紅奈についていくと、生徒の教室がある校舎とは別の、理科室や家庭科室がある特別教室棟の1階に辿り着いた。特別教室棟は比較的新しい普通教室棟に比べて廃れていてボロく見える。


 流しそうめん部の部室があったのは1階の空き部屋。「流しそうめん部」の立て札のみがこの場所が流しそうめん部の部室であることを証明している。っていうか流しそうめん部ってなんだよ。やることが限定的過ぎるだろ。部活なめてんのか。


 紅奈が部室の引き戸を開く。彼女が中に入り、俺もあとに続いた。


 中は活気のない殺風景な小部屋だった。横長の机が数個と、それに合わせて安っぽいプラスチックの椅子が用意されているだけ。部屋の前後に黒板はあるが、なにか部活動らしい文言が書かれているわけでもなく、遥か昔にチョークで描いた線を乱雑に消した跡が残っているだけ。後ろの荷物置きにはガムテープや工具等の備品がまばらに置いてあるだけで、生徒の鞄や荷物は見当たらない。床は旧校舎らしい板張りで、ワックスはしばらく塗り直されていないように見える。


 ただ空き部屋を借りているだけのような部室だった。


「座って」


 紅奈が席に着くように促す。俺と紅奈は長机で向かい合うように座った。


「ええっと……今日はこの部は活動してないから部活見学はできません。だから今日は活動内容を口頭で説明します。質問があったらその都度聞いて。それじゃあ……」


 紅奈は一度姿勢を整え、俺に目を向けた。紅奈のまっすぐな眼差しが、俺の目を見る。


「活動内容は主に、街の至る所で流しそうめんをします。一般の住居の屋根の上や公共施設の屋上に竹のレーンを組んで、実際に流しそうめんをします」


 え? 住居の屋根の上?


「質問いいですか?」

「どうぞ」

「その住居とか公共施設に許可とか得られてるんですか?」

「許可は取ってないわ」

「それ犯罪じゃね?」


 不法侵入とか、なにかそれ以上の法を間違いなく犯しているはずだ。


「でもまあ、部活としての活動頻度はかなり少ないから。多くても2週間に一度くらいだし、活動時間も短いから」


 なんの言い訳にもなっていない返答をする紅奈。頻度が少なかろうと、時間が短かろうと犯罪は犯罪だ。それか活動時間が少ないから警察に捕まる可能性も少ないということを言いたいのだろうか。


 まあ、いずれにせよ俺はこの部に入りたい意思は強くなった。活動頻度がかなり少ないというのが何よりも魅力だ。一応部活としての活動は行っているようだが、ここまで活動頻度が低いと活動に出席しなくてもお咎め無しの可能性すらある。そう。部活動に加入していながらも活動に一切参加しない、幽霊部員というやつだ。部活動強制加入のこの学校で一番私生活の自由度を高められるポジション。高校生活での俺の理想の姿だ。


 それに、活動が強制参加だろうとそれはそれで構わない。当然活動時間が少ないこともあるし、街中で流しそうめんをするというのも少し面白そうだからだ。


 紅奈は説明を続ける。無邪気で純粋無垢な女神様のような態度に転じて、熱い熱弁を。


「たしかに住人に迷惑をかけてしまうということもあるけど、『人との繋がりを築く活動』という意味でも非常に重要な活動なんです! 近年の人間社会は主にスマホやネットの影響で、対立や孤立、分断が進んでいます。そのような人間社会において、『流しそうめんの竹レーンを通して人と人との心を繋げる』という活動をしています。人間社会の維持と豊かな社会の構築のために。やり方には多少難があるかもしれない。でも、()()()()()()()()()()()は必要だって、あなたも思うでしょ?」


 最後は俺に同意を求めてきた。うるうるとした情熱的な瞳で。


 少し頭がおかしいんじゃないか? 正直何を言ってるのかよくわからない。でも、入部したいからとりあえず話を合わせておこう。それに「これ系の人」の意見を否定するといろいろ面倒なことになりそうだ。


「思います。本当に。やり方にも納得できるし、志にも同意です!」

「嘘ね」


 ――――え?


 急に、紅奈は冷ややかな態度に一転した。そして今度は、嘲笑するような不敵な笑みを浮かべている。手の平の上で踊らされる人間を嘲笑う魔女。


「やり方も意味わからないって思ってるし、それに、別に今の人間社会を守るべきだなんて思ってない」

「え、いや……な、なんで……」


 たしかに流しそうめん部の、「竹レーンで人と人との心を繋げる」という社会奉仕のやり方はまったくもって意味が分からない。しかし、人間社会を守るべきだと思っていないというのは間違いだ。だって俺は人類敬愛派に、伊達間傭平に人を愛する心があると、人類敬愛派に属する者と認められた男だ。俺は人間社会を守るべきだと思っている。


 ……と、胸を張って言いたかったが、それは100パーセント俺の想いではない。時にはこんな世界は壊れてしまえばいいと思うことだってある。言うほど人間社会を守るべきだなんて思ってはいない。半々だ。誰にでもいい顔をして、人に合わせて、どっちつかずの性格のこの俺は。


「ねぇ、人間なんて()ばっっっかり吐くし、自分のプライドが何よりも大事だし、自分より劣ってるように見えた人間を嬉々として攻撃する。世界では自分の贅沢のために戦争を起こして他人を苦しめ、自分の自尊心を守るために平気で人を差別し始める。人間の中身なんて汚くて醜いし、人間社会に守る価値なんてない。あたしはそう思うし、あなたもそう思うでしょ?」


 どっちつかずの俺の、世の中への憎悪なんて、世界の破壊衝動なんて誰にも話してはいないのに。どうしてこうも見抜いたようなことを口にしてくるんだ。


 ――俺は、乗せられているのか?


 本当に嫌な空気だ。感情までコントロールされそうになる。俺は話を逸らそうと、頭をフル回転させてなにか別の話題を考える。


「……ぁ、あれ、そういえば他にも輪者がいるって言ってたけど」


 ここに来る前、廊下で話している時に彼女は他にも輪者の部員がいると言っていた。俺はそれも気になってついてきたんだ。気味の悪いマインドコントロールに乗せられるために来たわけじゃない。


「あー、それなら()()()()()よ」


 彼女は――――俺の後ろに視線を向けた。


 今まで気づかなかった。背後に、明らかに人の気配がある。


 俺は振り向く間もなく――――


「――――ッ!!??」


 背後から、ハンカチのような布切れで口を塞がれる。


「ぅぶっ…………」


 息をするにも布切れ越しで息苦しい。突き飛ばそうにも物凄い力で押さえつけられている。暴れようにも、呼吸が苦しくて体に力が入らない。


 酸欠のせいか、それにしては異様な速度で意識が遠くなっていく…………


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