4話 俺のクラスメイト
pixivでキャライラスト上げてます。
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没個性なスマホの電子アラームの音が響く。俺は自宅のベッドで目を覚ました。
画面をスワイプし、通知画面に届いた新着ニュースに目を通す。
『箱之原から沼沢地域の高速道路、通行止め。高校生2名行方不明』
箱之原町と沼沢市。どちらもこの辺りから北方向に行ったところの地域で、この辺りより田舎だ。北へ行くほど標高は高くなっていき、山の中を高速道路が走っている。この辺りの高速道路や新幹線はやたらと止まってしまうことが多い。
俺はスマホをベッドに放り投げて起き上がった。
簡単に朝の身支度を済ませて学校に向かう。
昨日は最悪だった。自称人類を守るための組織の隠れ家まで連れて行かれ、そのまま成り行きで人類敬愛派に加入してしまった。敬愛からは程遠い犯罪組織に。
今から「やっぱりやめです」と断ろうにももう遅い。あの後契約書類に住所やら名前のサインやらを書いてしまった。恐怖で半ば半強制で従う形で。
契約ではボスの許可がない限り穏便な脱退はできないらしい。つまり俺に残された選択肢は、あの組織にい続けるか、死ぬかだ。俺は血塗られた鎖に囚われてしまった。
昨日の出来事が衝撃的過ぎて、あまり眠れていない。寝不足だ。組織に加入させられたこともそうだが、脳に焼き付いてしまったあの光景の影響が大きい。
包丁でお腹を刺された女性。あの時失われた命は一人分じゃない。2人だった。あんなにも簡単に人が死んでしまうとは思っていなかった。
直前まではあんなにも人間らしく怯えていて、人間臭い心情を垣間見せ、人間の母親らしい気迫を現していたのに。直後には人の形をした、ただの無機物のようになってしまった。
次は、一歩間違えれば自分の番かもしれない。
憂鬱な精神状態のまま学校に着く。気分が悪くて気持ち悪い。こんな状態なら学校なんて休めばよかったんだ。「殺人の瞬間を見てしまい気分が悪いので休みます」と学校に一報を入れて。その翌日には俺も腹を刺されて死んでいるだろう。口封じのために。
学校に着いてしまったからにはしょうがない。今日も憂鬱な一日が始まる。重い足取りで階段を上がり、2階の教室を目指す。
教室に入ろうとすると、
「――だからそれがダメだって言ってんだよ!!」
中から女性の甲高い怒鳴り声が飛び出してきた。びっくりして眠気も吐き気も吹き飛ぶ。教室を覗くと、女の担任教師が一人の男子生徒を叱りつけていた。
「なんでそんな当たり前のこともわからないの!? こんなことで私を怒らせないで! そんなことまでわざわざ教育するために私は教員になったんじゃないッ!!」
教員らしくない、というより大人らしくもない異様な怒り方の担任。指導というより、癇癪を起こして自分の感情を他者に浴びせているだけのような。むしろある意味教員らしいかもしれない。
なにがあったかわからないから担任の説教の正当性は俺には図れないが、少なくとも自分の主張を論理的に相手に諭す姿勢ではなかった。
――しかし、それよりも異様なのはクラスメイト全員の雰囲気の方だった。
怒られている男子生徒をはじめ、近くにいる女子生徒や着席する他の男子生徒。クラスメイトのほとんど全員が担任の先生に冷ややかな目線を送っていた。睨みつけているわけではないけれど、横目に連行される殺人犯を眺めるような目線。まるで担任を集団から孤立させる、群れで生きる動物の本能のように。
冷たく殺気立った空気。その空気に気づいたか否か、チャイムが鳴ると担任は怒りを鎮めた。不穏な空気がまだ微かに残ったまま、朝礼が始まる。
今日も授業はなく、ホームルームや学校行事、部活動紹介などがあるだけだ。朝礼が終わると、そのままホームルームに移る。
「さっそくですが、クラスから一人、生徒会役員候補を選出しなければなりません。誰か――」
出た。誰も立候補しなくてなかなか決まらない地獄の時間。誰がそんな尋常じゃない精神的疲労という重圧のかかるものを好き好んでやりたがるんだ。どうせ候補者なんていないんだから時間の無――――
「――俺がやります」
即答だった。
声のした方を振り返ると、鼻の穴に入れていた指を勇ましく、天高く掲げて挙手をした。黒髪のツンツンヘア。どこでも鼻をほじってしまうその性分。間違いない。奴は――――
俺を人類敬愛派に招き入れた鼻くその輪者だった。
――あいつ同じクラスだったのかよ!!
俺は心の中で叫んだ。不覚にも、昨日の段階で奴が同じクラスにいたことに気がつかなかった。
奴の他には生徒会役員候補に立候補せず、異論も揉め事も無くすんなりと選出は決まった。後のホームルームの時間は学校生活の決まり事や学校外での過ごし方の指導があった。それが終わると短い休み時間に入る。
隣の席の八月一日さんは早速他の女子と仲良くなってお喋りに夢中になっていた。
俺も早く誰かに話しかけて友達を作らないと、クラスの置物みたいな存在になってしまう。居てもいいけど、正直そこに居ない方がありがたい、みんなにとって邪魔な存在。もうそんな経験はごめんだ………………でも、もしまた前と同じような失敗をしたら………………。
「へぇ、ナナシ ショウライっていうのか」
「――ッ!?」
ぼーっとしていて気がつかなかった。着席する俺の目の前に、鼻くその輪者が立っていた。机の前に立ち、俺の配布物の書類を眺め、まじめな顔で鼻をほじっている。
「あー、人類敬愛派とやらのハナクソ担当の奴」
「バッカ! 組織のことは人前で口にするな! あと俺は人材スカウト担当だッ!」
急に表情に焦りを浮かべ、声を押し殺しながらも叫んでしまっている。そしてその衝動で、鼻くそをほじった汚い手で俺の机を叩きつけた。
「おい!! 汚い手で触んな!!」
俺は声を押し殺しもせず、柄にもなく叫んだ。本当にムカついたから。
周りのクラスメイトがざわつき始める。「なんだ喧嘩か?」と視線が集まる。
「おっと、すまないな。いつも完璧な俺としたことが」
目の前の男はあっさりと冷静になり、ティッシュで俺の机と自分の指を拭く。
周りの注目を集めてしまった。ここは俺も冷静になって静かにしていた方がよさそうだ。
「よし、こんなもんか」
拭き作業を終えてティッシュを丸める。これでオッケーみたいな顔してるけど、できれば除菌もしてくれ。というかそもそも、
「あのさぁ、なんでいつも鼻くそほじってるの?」
昨日も聞いた気がするけど聞き流された、誰もが気になるであろう質問をした。
目の前の男は、少し自慢げに口を開く。
「俺は極度の完璧主義でな。なんでも完璧にやらないと気が済まない。だから鼻の中も完璧にスッキリしておかないと気が済まないんだ!」
…………完璧主義と併発した別の病気持ちなんじゃないか?
そう伝えてやろうとした。
「それって…………」
そんなことより、もっと先に言うべき、尋ねるべきことがあった。
「ていうか、名前は?」
「そういえば名乗ってなかったか。完璧主義の俺としたことが…………。俺の名は、『伊達間傭平』だ」
ダテマ…………敬愛派のボスがたしかにそんな名前で呼んでいたかもしれない。
「じゃあ、『ダテマヨ』とかどう?」
隣から女の子の明るい声がした。その声の主は見なくてもわかる。
「八月一日さん。こんな汚い奴に話しかけなくていいよ」
提案されたあだ名を聞いた伊達間傭平は、
「ダテマヨ。語感の良さも愛嬌も備え持った完璧なあだ名だ!!」
嬉しそうにしていた。




