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【完結】王子様だと知らずに、恋をしました *一夜を共にした相手が既婚者だと知った公爵令嬢の話*  作者: HARUHANA


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21.お守りの意味

「エリー姉様、お帰りなさい」

「ただいま」


 私の可愛い弟が、なんて可愛い顔で出迎えてくれるんでしょう。お母様も嬉しそうな顔で「おかえり」と手を差し伸べてくれた。

 温かい我が家に、胸がいっぱいになる。


「エリー姉様、三日後のお祭り一緒に行こうね」

「三日後にお祭りがあるの?」

「があるんだよ。お父様も帰ってくるし、みんなで行きたいの」

「楽しそうね。みんなで一緒に行きましょう」


 陛下から、貿易拡大に伴う記念行事をしたいと依頼があり、お母様が主導で開催されるらしい。


「あのね、潮風祭りっていう名前、僕が考えたんだよ」

「とっても良い名前ね。ライアンは、海が好き?」

「だ〜い好き。街の人たちもみんな優しいし、僕も大きくなったらお父様みたいな立派な領主っていう人になるんだよ」

「ライアンなら絶対なれるわ。私もライアンのお手伝い、たくさんするね」

「でも、お父様もお母様も、エリー姉様はいつかお嫁に行っちゃうから、ずっと一緒にはいられないって言ってたよ」

「……まだ、ずーっと先の話よ。それまでは、ライアンとここにいる」

「やったぁ!」


 ……ね、いつまでもライアンの隣にいたら、ダメ……かしら。

 いつの日か「どうしてお姉様は、結婚しないの?」なんて聞かれるかもしれないけれど。ライアンが立派な領主になる姿、隣で見ていたい。

 なんて……逃げ、なのかな。


 美味しくて、賑やかな食事。

 用もないのに、街へ散歩に行って。

 夜風に当たりながら、瞳を閉じる。

 ……何も考えなくて良いって、幸せだ。



 優雅に過ごしていたら、三日なんてあっという間に過ぎた。

 ライアンと約束した、潮風祭り当日。


 派手なドレスではないけれど、両親が挨拶する時はライアンと共に来賓席に座るというので、爽やかな水色のワンピースにツバの広いハットを被って準備を終えた。あんなに小さかったライアンが、正装して背筋を伸ばしている。


「お姉様の腕に付いてる宝石、とっても綺麗ですね」

「……海の色みたいでしょう。私のお守りなのよ」


 まじまじ見つめると、やっぱり欠けた部分が少し勿体無い。あの時全部集められていたら……なんて、切なくなるから話題を変えた。


「ライアンは、好きな子いないの?」


 すると、少しずつ頬を染める弟が「別に……」と言う。

 なんて分かりやすくて、可愛い生き物なんだ。あえて深くは追求しないけど、こんな小さな子でも恋をして感情を動かして、成長する。話題を変えたはずなのに、やっぱり切なくなった。


「皆様、馬車の準備が出来ましたよ」


 ソフィの掛け声で、家族が同じ馬車に乗り、会場となる港の広場まで向かう。

 お父様は、仕事を詰めてきたのか目の下にクマを作って、母に「化粧でもしたら?」なんて、呆れられていた。


 大勢が賑わう広場の一角に馬車を停め、用意された椅子へと座ると、思った以上の多くの椅子が準備されている。

 前列しか見えないから分からないけど、想像以上に大きな式典だったようだ。


 “お祭りの名前が、ライアンの命名で良かったのかしら?“


 なんて思ったりもするけど、隣に座る本人が目を輝かしているから、両親がライアンに任せたのもきっと意味があるに違いない。

 式典が始まり、領民が見守る中、両親が無事に挨拶を済ませた。


「エリアナは、ソフィとお祭りを楽しんでいらっしゃい。きっと楽しいわよ」


 お母様がそっと耳打ちしてくれたおかげで「お言葉に甘えて、行ってきます」と来賓の席を立った。

 ソフィと二人、並んで歩きながら人混みを進んでいく。


 ――ふと、誰かに呼ばれた気がした。

 けど、こんな人の大勢いる場所で、私を知る人なんて少ないだろう。そう思って、前に前に進んでいく。


「お嬢様、この前みたいに何か買ってきましょうか?」

「……そうね。一本向こうの通りにある公園で待ってても良い?」

「勿論です。お好きなものを探してきますね」


 申し訳ないと思いつつ、喧騒から少し離れた場所までゆっくり歩いてきた。夕方に近づくにつれて、灯り始める街灯がとても美しい。

 ベンチに座って、何気なくライアンとの会話を思い出した。


 『お姉様の腕に付いてる宝石、とっても綺麗ですね』


 最近、こればかり身に付けてる。お守りだから、と思う気持ちが一つ。戒め、みたいな気持ちが一つ。

 自分の行動一つで、誰かの人生を大きく左右する。二度と道を踏み外さないための、お守り。


『エリアナ嬢は、僕に多くを教えてくれました。その恩がここで返せたなら、本望です』


 ノエル様と話した、最後の言葉。多くを教えてもらったのは、間違いなく私の方……。


「ノエル様に……会いたい」


 陽が傾く黄昏の空を見上げて、瞳を閉じた。

 

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