表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様だと知らずに、恋をしました *一夜を共にした相手が既婚者だと知った公爵令嬢の話*  作者: HARUHANA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/29

10.現実で事実

「安心してください。僕は、告発するつもりはありません。ただ、この恋が貴女を壊すことだけは間違いない」


 どうして、あの日あの場所にノエル様がいたの?

 まるで全てを知ってるかのような口ぶりで、最後に言った。


 『その涙を拭えるのは、彼ではありませんよ』


 そんなの……私が一番よく分かってる。目が覚めればもう隣にいなくて、いつだって突きつけられる。いくらベッドの上で愛を囁いたって、心が満たされるのは、ほんの一瞬だってことくらい……分かってるのに。

 それでも、同じ時間同じ場所に、どうしても会いたくなる。


 腕枕をしたアレクが「卒業パーティのドレスは、僕が贈りたいな」って、言ってくれた。王城のホールで行われるから、またそこで会えるねって……笑ってたけど、私は……どこまで寄りかかれるんだろう。

 自分の恋人と、言えない関係を終わらせる方法を、私は知らない。


「お嬢様、少し顔色が悪いですよ?」

「ソフィ……私、どうしたら良いんだろう……きっとこのままじゃ、全員不幸になる」

「お嬢様……」

「こんなに好きなのに、どうしたら良いか分からないの」

「……実は、旦那様からこちらを預かっておりまして」


 少し大きめの封筒には、何も書かれていない。


「今日の午後、この書類を旦那様のいらっしゃる部署に届けてほしい、との事でした」

「どうしてお父様は、わざわざ私に託すの? 自分で持っていけば――」


 ……もしかして。

 今日は、金曜日……いつもアレクと会う日にわざわざ私に用事を頼む理由は……まさか、ね。


「もしかしたら、王城でお会い出来るかもしれませんよ?」

「それは……ルール違反だわ。私が許されるのは、あの部屋だけだもの」

「……お嬢様の幸せが、私の幸せです。ですが、お嬢様が幸せかどうかは、お嬢様にしか分かりません。いつまでも、このままという訳にはいきません。ご自分の目で確かめるのも、一つではありませんか?」


 ソフィの言うことも、ノエル様が言うことも正しい。

 いつまでも、現実から目を背けて良いなんて、私も思ってない。


「……分かった。私、お父様に届けてくる」

「私も、入り口までは同行できますから……お嬢様を、待ってます」

「ありがとう、ソフィ」



 馬車に揺られながら、街を行き交う人々を見て思う。

 普通に出会って、普通に恋をして、結婚して子供が生まれて……年を取る。

 どうして私には普通がないのか、なんて、自業自得なんだけどね。


 ――何度も見てるお城に、こんなに緊張したのは初めてかもしれない。自分のヒールがエントランスに響くと、余計に“来てはいけない場所“に来た気分になる。

 それでも、コツコツと床を踏みしめてお父様のいる場所を目指した。


「お父様」


 財務部と書かれた札と、お父様の名前が書かれた部屋を叩いた。


「おう、エリアナ来たか。ありがとう」

「では、私はこれで……」

「まぁ待ちなさい。今日ここに呼んだのは、会って欲しい人がいたからなんだよ――おーい」


 まるで待ってたかのように、顔を出したのは、いつかの夜会で強引に腕を引かれた男性だった。

 表情を崩さない努力はしてるつもりだけど、それでも引き攣ってしまいそう。


「こちら、アルヴィン伯爵家のダンテ君だ。エリアナの相手にどうかと、顔を合わせる機会を作りたかったんだよ」

「こんにちは、エリアナ嬢」


 現実は、こうして首を締めにくるんだ。

 好きになった相手の名前も言えない。特定の相手がいないと他から充てがわれる。その繰り返し……。


「お、お父様……今日は――」

「ダンテ君、娘を送ってあげてくれ。話も少しは出来るだろう」

「ありがとうございます、ヴィルローズ公爵。では、参りましょう。エリアナ嬢」


 私の意に反して、扉が開けられた。

 隣を歩いてほしいのは……貴方じゃない。


「すいません、今日は先に帰ります。さようなら――」

「お、おいっ!」

 

 振り払うように駆け出した。

 隣に誰かいるところなんて、見られたくない。結局、私にはアレクしかいない――


 すれ違ったノエル様にも気付かず、出会い頭に誰かとぶつかって、そのまま転んでしまった。


「エリッ……アナ嬢!?」

「…………アレク……シス殿下」


 逃げるように走ってきたせいで、後ろから聞こえる足音に、振り向いた。一緒にいるところなんて絶対見られたくない。


「アレクシス様、大丈夫でしたか?」

「あ、あぁ」


 一瞬躊躇ったような曖昧な表情で、私に差し伸べた手を取ろうとした時――


 見えてしまった。

 お腹を愛おしそうに撫でる、マグノリア妃殿下を。

 それは、地獄に堕ちる扉が開かれたような、鈍い音が頭に鳴った瞬間だった。


 伸ばされた手を取ることは、もう出来ない。

 これが、現実で事実。


「すいませんでした」


 そう一言だけ残し、雨が降り始めたなんて知りもしない外に向かって、全力で走った。ソフィも馬車も過ぎて、雨の中をただひたすら進んで行くだけ。

 こんなグチャグチャな感情で、ひどい顔して、どこに行く予定もない。金曜日だろうと何だろうと、関係ない。

 

「――待って!!」


 掴まれた腕を振り払いたいのに、離してくれない。


「ノエル様、離してください!」

「離しません」

「もういや……どうして……どうして……」

「だから、伝えたではありませんか。その涙を拭えるのは、彼ではないと」

「ゔっ……ゔぅ……分かってるの! 分かってる! それでも……こんなに好きなのに……あぁぁぁぁー……」


 空に向けた顔に、容赦無く雨が打ち付けて、嗚咽を上げながら思い切り泣いた。

 泣いた分だけ楽になれるなら、いくらだって泣くのに。いくら泣いたって、楽になんてなれるわけない――


 一緒に濡れるノエル様は、何も言わずにただただ隣にいる。


 “傷になる“


 ノエル様の言葉が、痛いほど刺さる。

 だから、余計に涙が止まらなかった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ