第七話
部屋をあとにした江戸は、明人に改めて感謝を伝えに行く。
「ううん、お礼なんか大丈夫だよ。兄さんが出て行って、家で一人になることが多くなってから、よくお世話になったんだ」
修也は中学生のとき、何も言わずに島を出ていった。
昔から、自分の自由を何より大切にする奴だった。
「そうだ、父さん」
「え?」
「父さんは何やってんだ、こんなときに」
明人の顔が固まった。
「……しん兄、聞いてないの?」
「何を?」
「いや……だって、さすがに――」
「なんのことだよ」
明人が口を開きかけた、そのとき――
診療所のドアが勢いよく開いた。
「大変だ!海の化け物が暴れ始めた!海岸はもうめちゃくちゃだ!ここも危ないかもしれない。中学校に避難するぞ」
(やっぱり、あのウツボ以外にも居やがったか)
診療所にいた全員が、避難の準備を始める。
母も連れていこうとした。
だが、動かせる人手には限りがある。生きている患者を優先するしかなかった。
「……ごめん」
母を診療所に残し、怪我人の搬送を手伝う。
能力で怪我人のベッドを浮かせようとしたが、うまくいかない。
「くそ……」
無理には使えない。さっきの爆発が頭をよぎる。
結局、自分の手で怪我人を支えた。
中学校の教室に着くと、多くの人が避難していた。数は少ないが、観光客と思われる人もいた。
「もうめちゃくちゃだ。いずれここにも来るかもしれない。そうなったらお終いだ。テレビの人がここまで来てくれたらいいんだけど。というか、しん兄はどうしてここに」
テレビの人というのは、能力者のことらしい。
さっきの父さんの話は、それっきりになっている。
「俺も、能力者なんだ。能力を使って、ここまで飛んできた」
明人の顔がぱっと明るくなった。
「しん兄はさすがだね! みんなに会ったりできる? きっとみんな喜ぶよ!」
少しためらう。
その様子を見て、明人は舞い上がってしまったことを詫びる。
「ごめん。こんなときに」
(明人には、母さんのことでも世話になった)
「いいよ、行こう。父さんがいるかもしれないし」
「……」
明人は目をそらした。
職員室へ向かう間も、明人は何度か何かを言いかけた。
そのたびに、結局何も言わなかった。
父さんのことを聞こうとも思ったが、職員室に行けば分かるだろう。
明人に連れられ、職員室へ向かう。
そこには、島の大人たちが一堂に会していた。
しかし、父さんの姿は見当たらない。
「みんな、ただいま」
明人の声に大人全員がこちらを見る。
「明人、知子さんは見つかったか?」
前田のおっさん。ガキの頃、よく家にピンポンダッシュを仕掛けた相手だ。
明人が言いづらそうにしている。
「前田のおっさん、久しぶり」
「おめー、真理か?」
「そうだよ。母さんのことだけど………死んだよ。さっき家で見つけて」
職員室が静まり返る。
「今は診療所にいる。……あのさ、父さんがどこにいるか知らない?」
誰も答えない。
「……なんだよ」
前田のおっさんが、明人を見る。
「明人……真理は、やっぱり知らねえのか?」
明人は、俯いたまま頷いた。
「何をだよ」
「真理」
前田のおっさんが、俺を見る。
「おめーのおやっさんな……」
一度、言葉を止めた。
「勘十郎さんは、一か月も前に死んじまってんだ」
「――は?」




