第六話
巨大ウツボとの戦闘を終え、ようやく両親の住む島に着いた。
見える範囲に、巨大ウツボみたいな化け物はいない。
ひとまず安心する。
しかし、海岸に人の気配はない。本島に渡ったか、内陸に避難しているかだろうと信じるほかない。
島に降り立つと、そのまま家へ駆ける。
相も変わらず鍵のかかっていない扉を開けると、家の中は静まり返っていた。
玄関から二人を呼ぶが、返事はない。
「誰かいるんですか!」
生垣の外から声がする。
その声は、どこか聞き覚えのある声だった。
「しん兄? どうしてここに? いつ帰ってきてたのさ?」
「……明人?」
中本明人。
昔からよく遊んでいた修也の弟だ。
「明人か!俺は今来たんだ。それより、父さんと母さん知らねえか?」
明人の笑顔が消えた。
「おい、どうしたんだ。何かあったのか」
明人は呼吸を整えながら、報告する。
「診療所と学校を見たんだけど、知子さんだけ見当たらなくて、心配になって」
「それで来てくれたのか、ありがとな」
(母さんだけってことは、父さんはどっかにいるのか)
「家にもいないの?」
「まだ、見てないんだ」
二人が家に上がった。
リビングを見まわしてみても誰もいない。
キッチンを見る。
コンロの火がついたままだった。
その上で、やかんが空焚きになっている。
「……は?」
慌てて火を止める。
やかんは変色し、底は黒く焦げついていた。
「……まさか」
「急いで外に出たのかも。家の周り探してくる」
(きっとそうだ。家の中を探そう)
静かなリビングを見渡す。
母は毎朝、父にコーヒーを淹れていた。
夜更かししたとき、何度か見たことがある。
カーテンを開け、お湯を沸かして、その間に自分の部屋へ着替えに行く母の姿を。
「……そうだ」
母の部屋を見る。
「きっと、まだ部屋にいるんだ」
階段を上がる。
母の部屋のドアが、少しだけ開いていた。
いつもは閉まっている。
「……母さん?」
返事はない。
ドアに手をかける。
一瞬だけ、開けるのをためらった。
見てしまったら。
(いや、そんなわけな――)
ドアを開くと、床に母が横たわっていた。
「母さん!!」
駆け寄り、肩を掴もうとするが、怖くて手が出ない。
「おい、起きろって、母さん!」
頭の下に広がる血が、視界に入った。
次に、棚の角についた血に目がいく。
「……うそだろ」
呼吸を確かめる。
動いていない。
血の気が引く。
耳鳴りがする。
階段の下から、駆け上がる足音がする。
「しん兄、どうした――」
部屋に入ってきた明人の顔が強張る。
「……すぐに運ぼう」
母を抱き上げる。
二人は明人の家である診療所に向かって走った。
(母さんって、こんな軽かったっけ)
腕の中の母は、何も言わない。
「母さん、もうすぐだからな」
返事はなかった。
診療所に到着すると、母を明人の父である卓也に預けた。
どのくらい時間がたったかは分からない。
卓也さんが戻ってきた。
頭を強く打っていたこと。
おそらく、倒れたときにはもう助からなかったこと。
何か説明していた。
母さんが死んだ。
分かったのは、それだけだった。
母の遺体を修也と明人の部屋に運ばせてもらった。
見慣れた風景で、腰をかける。
耳鳴りが止まらない。
すると、ドアがノックされる。
明人だ。
「入るよしん兄。ごめん、僕がもっと早く気づいていれば」
「謝るなよ。感謝してる。少しここにいるよ」
明人は何か言いたげにしてたが、江戸を一人にしてくれた。
十二位階神書の文字が、浮かぶ。
「……俺、何してたんだよ」




