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俺は、お前を主人公にしたい  作者: サドル ヤスリ


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第三話

十二位階神書の啓示から、三時間ほど。


真っ暗だった空が、少しずつ白み始めていた。


「すげえ速いな、もう半分くらい来たぞ。下は見れないけど」


怖いもの見たさに、下を覗くと、高速道路が見えた。


その一部だけ、雪でも積もったように真っ白になっている。


しかも、何台かの車が妙な止まり方をしていた。


「誰だ一体、こんなところでナワバリバトルしてるやつは」


気になって高度を落とす。


降りてみると、近くで車が事故を起こしていた。

目を凝らすと、白い粉のようなものが舞っている。


その中心には、中年の男がいた。


「本当に、俺以外も使えてるじゃん」


男は声を荒げ、少女に怒声を浴びせていた。

考えるより先に、体が動いた。


「美少女を助けるのは、男の責務だ」


男は今まさに少女に白い粉で襲おうとしていた。


間一髪で間に入り、空気の層で身を守った。

粉は空中に霧散し、辺りは黒板消し入れをひっくり返したようになった。


振り返る。


少女の前に、もう一人いた。


錆色の髪をした男が、少女に覆いかぶさるようにして庇っている。

俺が飛び込まなくても、この男は自分の体で守るつもりだったらしい。

二人の身を案じたが、少女は酷くおびえていて、一言も発さなかった。


恐る恐る目を開けた錆色の髪の男と、目が合った。


「おっさん、根性あるじゃん!まあ、守ったの俺だけどな!」

「ああ」


その男は目を見開き、俺を見る。

男の不愛想な顔が少し父に似ていて、少しだけ笑った。

舞っていた粉が少しずつ落ち着いていく。


その向こうで、中年の男が俺に気づいた。


「邪魔するな! 僕には力があるんだぞ!」


男の周囲で、白い粉が舞い上がる。


「今まで散々バカにされてきたんだ……でも見ろ!神様は僕を選んだんだ!」


「だからって女の子追い回していい理由になるかよ」


「うるさい!僕に指図するな!」


後ろに二人がいることを思い出す。


「おい、早く逃げろ」

「お前は逃げないのか?」

「俺はアイツ、ボコボコにしてくるよ」

「そうか」


離れ際に男が振り返る。


「お前、なにもんだ?」

「ん~、最強、かな。とびっきりの」


粉が津波のように押し寄せる。

一歩も動かなかった。

目の前の空気を固くして、粉を防いだのだ。


「うんうん、だいぶ分かってきた。そこら辺の空気をいじったり、自分で作ったりできる感じか」


能力者の男はあっけにとられていた。

相手との距離は二十メートルほど。


男を吹き飛ばそうと、作り出した空気で風を起こす。


「怪我すんなよ!」


まだ能力に慣れていないのか、男に届くころには、扇風機並みにしかならなかった。


今度は作戦変更。


男の周囲の空気を固くして、動きを封じようとする。


「動くな」


男の周囲の空気は微妙に固くなるが、水の中ほどの抵抗すらない。


「クソゲーの香りがしてきた」

「さっきから何やってんだ!」


男は粉を無数の針にして飛ばす。まともに食らえば、ただでは済まなそうだ。


「これ以上、グダグダしてられねえんだよ」


もう一度、空気の放出を試みる。

両手を前に突き出した。

無数の針が押し寄せる。


とっさに空気を固めると、白い針は目の前で勢いを失い、ぱらぱらと地面に落ちた。


「どういうことなんだ!まさかお前が終読者なのか!?」


「終読者?なんそれ。俺の名前は江戸真理だ」


「そういうことじゃな――」


「この長ったらしく書いてるやつのことだろ。なんだか知らねーが、俺には関係ねえんだよ!」


今できる最大限の空気を、一気に放出する。


次の瞬間、先ほどとは比べ物にならない突風が吹き荒れた。


男は吹き飛び、ガードレールに叩きつけられる。

辺りを覆っていた白い粉まで、一気に吹き飛んだ。


「うおおお、できた。ポーズのおかげ、かも?まあ今はいいか」


今度は、はっきりと感覚が残っていた。

空気を身にまとい、体から放出する感覚。


先を急ごうとすると、錆色の髪の男がこちらへ歩いてきた。


何か言いたげな顔をしている。


「礼ならいいよ。急いでるから」


返事を待たず、地面を蹴った。


「ふぅー、こわかった。――マジで他にもこういう人がいんのか。あぁ、さっき言ってた終読者って、ここに書いてあるやつのことか。そんなやつがほんとにいんのかねー」


再び島へ向かう。


いつの間にか、白み始めた空から冷たい雨が降っていた。


遠ざかっていく江戸の背中を、錆色の髪の男は黙って見つめていた。

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