第二十七話
夕日が沈んだ後も、日夏とずっと喋っていた。
くだらない話を。
眠ってしまった日夏を自分の家に運んだ。
そのあと、俺は明人に聞いた赤凪のところへ向かった。
「こんなところで何してる?」
「ちょっと、挨拶をな」
そこは、俺の両親の簡易的な墓だった。
「勝手にやめてくれ」
「明人君に聞いたよ。江戸の両親のこと」
「そうか。で、どうだ?考えは変わってくれたか?」
「全く」
「なんで、そこまで」
「俺には江戸が必要だからだ」
なんで、そこまで。
「俺がここに来た理由はお前に質問が三つあるからだ」
「なんだ?」
「一つ、お前の誕生日はいつだ」
「ん???占い、てきなやつか?」
「違う、これはポリシーだ。答えろ」
「八月三日だ」
「そうか」
「え、何だ今の?」
「二つ、お前の能力はなんだ?」
「俺の能力は、おそらく、燃焼だ」
「燃焼?」
「海で、怪物に飲み込まれたときに初めて使えた」
「飲み込まれた?初めて?」
「ちょっと、待て。お前海の真ん中にいたよな?飛んできたんじゃないのか?」
「いや、泳いできた」
「は?」
「船なんて持ってないしな。それしかないだろ」
「怪物だらけの海を?」
「そうだ」
「あ、でも燃焼ってのを使えるんだろ?」
「ああ、怪物の中で、死にそうになってたら、ビビっと来てな。能力が使えそうな気がして。いけると思ったら、腕が燃えて、爆発した」
まさかの、自傷系。
しかも、能力が無い状態で泳いできてやがる。
コイツ、どうやって、世界を元に戻す気だったんだ。
あ、だから、俺なのか。
コイツには何も無いんだ。
最強の剣も、チート能力も、万能補正も。
あるのは、ご立派な理想と、度胸だけ。
コイツは主人公じゃなかった。
でも…
「最期の質問だ。お前はどうやって終読者を殺す気だ?」
聞いてみたかった。
これを聞いて、俺は何て言って欲しいんだろう。
「終読者。世界を滅ぼす者、か」
「ああ」
「終読者は、江戸の母親を殺したようなもんだ。許せない」
「そうか」
「が!俺に終読者を殺す気はない!」
「は?」
「江戸には悪いが、終読者が世界を滅ぼすなら止めるだけだし。終読者を望まぬ人間なら、ソイツに当たり前を取り戻させるだけだ」
「嘘、だろ」
「すまないな。だが、誰か一人を殺して、喜ぶ世界なら、滅んだ方がましだ」
目からは涙がこぼれそうになる。
(ったく、俺は何回泣けば気がすむんだ。泣くな)
「江戸にとって、辛い選択かもしれない。誰からも祝福されないかもしれない。地獄の道だ。でも、付き合ってほしい。そのかわり、お前がしたいことはなんでもするつもりだ」
「なんでも」
「そうだ。もちろん、お前が終読者ぶっ殺したいってんなら付き合うしかない」
「いいのかよ」
「俺の命は、江戸にやるって決めてるからな。なんでも聞くってのはそういうことだ。それが、お前に命を懸けさせる責任だ」
なんでも。
「なんでも言ってみろ!」
「俺がしたいこと…」
日夏の顔が浮かぶ。
ここに至るまでを思い出す。
『能力を使いまくって、モテモテになりたい』
違う。振り向いて欲しいのは一人だけだ。
『俺を殺したがる、世界を滅ぼしたい』
違う。ダサいことすんな。
『この島でずっと、日夏とのんびり過ごしたい』
違う。カッコつけろ。
『スーパーヒーローになって、世界を救いたい』
違う。それは、カッコいいやつの真似事だ。
『神になって、運命を変えたい』
違う。もっと、カッコつけろ。
『主人公になって、世界を取り戻したい』
違う。
そんなんじゃ足りねえ。
もっと自惚れろ!
馬鹿みてーに、勘違いしろ!
世界で一番、自分に酔え。
カッコつけろ!
カッコつけろ!
カッコつけろ!
「俺は、お前を主人公にしたい」




