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俺は、お前を主人公にしたい  作者: サドル ヤスリ


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第二十五話

「お前をずっと探してた」


唾を飲む。


「ようやく会えた、江戸真理」


俺のことを知っているのか。


「俺の名前は赤凪和真。よろしく」


赤凪の乾いた髪が赤みを帯びる。


「お前、あのときの…」


啓示が降りた日、白い粉を操る能力者から俺が守った男だ。


「覚えてたのか。あのときはどーも」


赤凪のすかした顔にイラつく。

コイツは何をしに来た。


(まさかあの時、俺が終読者と気づいたのか)


ビビったらだめだ。


「それで?わざわざお礼でも言いに来たのか?」


「それもある。お前には世話になった。だが、それが目的じゃない」


「じゃあ、何が目的だ?」


「江戸、俺は知ってるぞ、お前の正体」


赤凪の目に決意が宿る。


俺は、この男の前で能力を使っている。

そのときに、気づかれたのか。

俺は強くナイフを握る。


覚悟はとうにできている。

俺を殺しに来たってんなら。


「正体?何のことだか分かんねーな」


「ごまかしても無駄だ」


「…」


「俺は知ってる。お前が最強の男ってことをな」


物静かそうに見えた男がバカなことを言っている。


「え?」


「その反応、やはりか」


「は??? お前、何言ってんだ」


「そんなお前に頼みがある」


人の話を聞かないところが、父さんに似てやがる。


「ちょっと待っ…」


「お前がこれから生きる意味、全部俺にしろ」


「……はい?」


「その代わり、俺はお前の言うことを何でも、何個でも、何時でも聞いてやる」


今は怪物よりも、すっとんきょうなことを真面目に言う成人男性が一番怖い。


「頼む!」


「ちょっと待て。俺の正体が最強?それで?お前が命令を聞くから、お前のために生きろ?アホなのか?もー全部が分からない」


赤凪は眉を細める。

どうやら、自分が言葉足らずなのは、自覚しているらしい。

おもむろに話始める。


「江戸は、こんな世界になる前はどんなことをしてた?」


「別に、なんもしてねえよ」


夢はあった。

それでも、口に出せるほど、たいそうなものじゃない。


「そうか」


「お前は何だったんだよ」


「俺は医者だった」


「っち、お偉いこって」


「三年前、親友が死んだ」


「……急だな」


「子供を助けてな。俺の目の前で死んだ」


赤凪は海を見た。


「最期まで、ムカつくくらいカッコいい奴だった」


「……」


こいつと親友の間に、どんな物語があったのか。

俺には分からない。


「だから、どんなに無様を曝そうと、泥水を啜ろうと、なんの罪もない江戸を地獄に引きずりこもうとも、俺は、アイツよりカッコいい死に方をしなきゃならないんだ。約束したから」


俺なんかがコイツの物語に入らない方が良い。


「だから、俺は、俺がやるべきだと思ったことをやる」


「…お前がやりたいことって?」


ふと、聞いてしまう。


「この世界が嫌なんだ」


みんな、嫌だろうよ。


「能力者のせいで、ろくに散歩もできやしない」


だから、俺に言うなって。


「化け物のせいで、水たまりにさえ、怯える生活が続いている」


関係ない。


「あんなクソみてーな文をどれだけ読めるかで、人の優劣が決まり、誰が最後まで読めるかなんかで、人々が疑い合う」


もう、考えない。


「……」


江戸が目を合わせずにいると、赤凪は海の方を向いた。


「この島に来る途中、ガキに会ってな。言ったんだ」


赤凪は遠くを見つめている。


「世界が変わって、前の生活がどれほど恵まれていたか分かったって」


江戸が不思議がると、赤凪はフッと笑う。


「持論だがな。ガキが、そんなこと分からなくていいと思ってる。子供が、当たり前の平和に感謝なんてしなくていい。こんな世界にも慣れなくていい」


『この世界が当たり前になってくのが、嫌なんだ』


「ガキは、息切れするまで遊んで、明日の約束をして、頭空っぽのまま寝ていいはずなんだ」


「それがお前の使命なのか?」


「そんなのじゃない。俺がカッコ良く、死にたいから、それっぽい理由を考えただけ」


ハードルの上げ下げにはイラつく。


「それでも、子供に遊びたいって言われて、我慢しなさいって言う大人になりたくない」


俺だって――


浮かんだ言葉を、頭から追い出す。


「んで、わざわざこんなとこまで俺を勧誘しに来たのか」


「そうだ」


コイツは特別なんだ。

目の前の絶望に立ち向かう勇気があるんだ。

でも、俺は違う。

ただの弱虫だ。

大丈夫。

俺がいなくてもコイツなら、多くを救うはずだ。


「悪いが、俺はそういうのに、興味は無い。あのとき、助けたのは、ただのきまぐれだ」


「気まぐれ?俺は二度、江戸に助けられてるぞ」


「あーそうですか。ならもう、助けないから気を付けろよ。これから、どこでお前が死のうとしったこっちゃねえ」


「そうか」


赤凪は腰からナイフを取り出した。


「お前、それ」


「病室に置いてあった」


「んなもん取り出してどうする気だ。俺と戦うのか?」


「戦うのは、いつだってダサい自分だ」


向けられた刃先に殺意は感じない。


「俺には残される家族もいないから安心しろ。死んだら、それまで。それだけだ」


赤凪はそういうと、正面に向かい合い膝をつく。


「最期にひとつ、俺は生きてる限り、お前を諦めない」


「は?お前何言って――」


赤凪はナイフを真上へ思い切り投げる。


空で廻るナイフを赤凪は見つめる。


(は?何してんだコイツ)


ナイフが、落ち始める。


(まさか)


当たるわけがない。


あんな適当に投げたナイフが、都合よく刺さるわけが――


なのに。


なぜか、確信があった。


(俺が助けなきゃ、こいつは死ぬ)


この刹那、思考が巡る。


いいさ、死ねば。


これで、また元通りだ。


これが終わったら、鎌倉と釣りの続きだ。


このまま、何もしなければ。


このまま。


この――


―――――


赤凪の眉間から、血が滴る。


伸ばした俺の手は、ナイフを掴んでいた。


「これで、助けられたのは三度目だ」


赤凪が笑う。


その瞬間。


「もう一度言う」


赤凪は、まっすぐ俺を見る。


「江戸真理」


俺の人生が、ぶっ壊される。


「俺を、殺してくれ」


そんな予感がした。

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