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俺は、お前を主人公にしたい  作者: サドル ヤスリ


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第十八話

夢を見た。


灰色の世界。


積み重なった死体。


辺り一面を、炎が包んでいる。


その中に、一人の男が立っていた。


顔は見えない。


男が、耳元で囁く。


「全て、お前のせいだ」


目を覚ました。


「……」


外では、鳥が鳴いている。


起き上がると、上半身にかかっていたブランケットが、するりと床へ落ちた。


「こんなの、かけたっけ」


二日近くまともに眠っていなかったせいか、寝る直前の記憶も曖昧だった。


頭は妙にすっきりしている。


「目覚めがいいな」


夢を見ていたような気もする。


けれど、何一つ思い出せなかった。


窓を見ると、すっかり日が昇っている。


「誰も起こしに来なかったのか」


怪物に怯えた住民たちが押しかけてきても、おかしくなかった。


外へ出て、海岸へ向かう。


案の定、海には怪物が溜まっていた。


「……結構いるじゃねえか」


これだけいたのに、誰も起こさなかったらしい。


少し不思議に思いながらも、神書を読み始める。


三十分ほどで、怪物を片付けた。


岩場に腰を下ろす。


「死ぬとか息巻いてたくせに、ウダウダして……結局、生きてやがる」


昨日の自分を思い出すと、急に恥ずかしくなった。


「ガキかよ、俺……」


深いため息をつく。


「はぁ……これからどうすっかねえ。もうここで暮らすか。東京なんて人多いし、何かと巻き込まれそうだし」


とはいえ、ここにいれば安全というわけでもない。


終読者であることは、いつかバレる。


終読者を判別する方法が自己申告だけなら、誤魔化し続けることもできるかもしれない。


だが、十一まで読めるとは言ってしまった。


十一まで読める人間が珍しいのなら、放っておかれるとも思えない。


調べられれば、それだけ十二まで読めることがバレる可能性も上がる。


「……まあ、いいか」


立ち上がる。


「生きるって決めたんだ。俺を殺しに来るってんなら、返り討ちだ」


そう口にしてから、一人の顔が浮かんだ。


「……鎌倉」


昨日、あんな別れ方をしたままだ。


深いため息が出る。


謝りたい。


だが、家も知らない。


そもそも、会ってくれるかも分からない。


「ほんとダセーな、俺。自分可愛さに年下に当たるとか」


肩を落としていると、遠くから明人が歩いてきた。


「起きたんだね、しん兄。体調は大丈夫?」


「ああ。悪いな、熟睡しちまって」


「なんか、すごい元気になってるね」


「まあな。いっぱい寝たおかげだ。ありがとうな」


「お礼なら、日夏ちゃんに言ってあげて」


「鎌倉に?」


「うん。昨日、しん兄が寝たあとに怪物が出たんだけど」


「それで?」


「みんな、しん兄を起こそうとして家の前まで行っちゃってさ。僕も止めようとしたんだけど、全然ダメで」


明人は少し笑った。


「そしたら日夏ちゃんが家から出てきて、みんなにお願いしてくれたんだよ。『寝かせてあげてください』って」


「……」


何も言えなかった。


あれだけ酷いことを言った。


突き放した。


それなのに。


ふと、今朝のブランケットを思い出した。


「鎌倉は?」


「え?」


「今どこにいる?」


「分かんない。昨日から学校には戻ってきてないんだ」


「家は?」


「北にある赤い家だけど……いないと思うよ。僕も一応見に行ったから」


昨日、日夏が言っていたことを思い出す。


父親の服。


「じゃあ、鎌倉の父さんは? 学校にいるのか?」


明人の表情が変わった。


「……」


「なんだよ」


すぐには答えなかった。


「明人?」


やがて、明人が口を開いた。


「日夏ちゃんのお父さんは――」


その続きを聞いた瞬間。


俺は走り出していた。


能力を使えば飛べることすら、頭から抜け落ちていた。


ただ、鎌倉に会わなければと思った。


謝りたかった。


許してもらえるとは思っていない。


それでも。


昨日、自分が吐いた言葉が、頭の中で何度も繰り返される。


『お前に何が分かるんだよ』


『分からねえだろ。久しぶりに家に帰ったら、家族が誰もいない苦しみなんて』


「っ……」


走る。


「なんで……」


息が切れる。


「なんで、あのとき怒らなかったんだよ……!」


日夏の家。


初めて会った岩場。


火葬場。


思いつく場所を、片っ端から探した。


それでも見つからない。


足が止まった。


膝に手をつき、荒い呼吸を繰り返す。


明人の言葉が、頭から離れなかった。


『日夏ちゃんのご両親はいないよ』


『お父さんと二人でこの島に来たんだけど――』


『もう一年、帰ってきてないんだ』

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