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俺は、お前を主人公にしたい  作者: サドル ヤスリ


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第十六話

時計を見ると、明人と約束した定期報告の時間になっていた。

意味の無い約束のはずだった。

鎌倉と一緒に学校へ向かう。


校門前では、明人が待っていた。


二人で並んで歩いていくと、なんだか朝帰りでもしているような気分になった。


「二人とも、無事だったんだね」


どうやら明人は、定期報告のときに食料を渡すつもりだったらしい。

だが、日夏はそれまで待てず、勝手に俺を探しに飛び出したようだ。


怪物の数が減ってきていることを伝えると、明人は安心したように息を吐いた。


「よかった。それなら、少し海岸を離れても大丈夫だよね」


「ん?」


明人が何か言いたそうにしている。


「どうした?」


「……知子さんのことなんだけど」


一瞬、何のことか分からなかった。


「このまま診療所に置いておくわけにもいかないから……」


母さんの遺体。


その言葉が頭に浮かんで、ようやく理解した。


島には火葬場がある。

いつまでも診療所に置いておくわけにはいかない。


そんな当たり前のことすら、忘れていた。


自分が死ぬことばかり考えていた。


「……分かった」


「私も手伝うよ」


「ありがとう」


鎌倉には来てほしくなかった。


非常事態ということもあり、いつものような葬儀はできなかった。

集まってくれた島の人たちも、喪服なんて着ていない。

それでも、みんなができることをしてくれた。


この島で亡くなったのは、母だけだった。

怪物に襲われた人もいる。

怪我人もいる。

それでも、死んだのは母だけだった。

その事実を聞いたとき、真っ先に浮かんだのは安堵でも悲しみでもなかった。


終読者は、まだ見つかっていない。


世界中で死傷者が増え続けている。


そんな報道を聞くたびに、頭の中で同じ考えが繰り返された。


母さんが死んだのも、俺のせいだ。


幸い、火葬の最中に怪物が現れることはなかった。


遺骨を拾い終えた頃には、空がオレンジ色に染まっていた。


骨壺を抱え、家へ向かう。


日夏が、当たり前のようについてきた。


「……ついてくんな」


「え?」


「一人で帰る」


「こういうときは、誰か近くにいた方が――」


「だから、ついてくんなって言ってんだろ!」


鎌倉の足が止まる。


「お前に何が分かるんだよ」


鎌倉は黙って聞いていた。


「分からねえだろ。久しぶりに家に帰ったら、家族が誰もいない苦しみなんて」


最低だ。


こいつは何も悪くない。


俺は、家族を失ったことを盾にして、こいつに八つ当たりしている。


「また、お前って言った」


日夏が頬を膨らませる。


「もう知らない」


ぷいっと背を向け、そのまま離れていった。


父さんが俺に会わなかった理由、本当は分かってんだ)


骨壺を抱え直す。


(こんなクソみたいな息子に、看取ってほしくなかったんだろ)


(俺は終読者だから、仕方ない)

(もうすぐ全部終わらせるから、それまで許してくれ)


それだけを何度も繰り返しながら、家まで歩いた。


玄関を開ける。


「……ただいま」


返事はない。


母さんの遺骨を、リビングのテーブルに置いた。


床を踏む。


ぎし、と音がした。


昔から何度も聞いてきた音なのに、今日はやけに冷たく聞こえた。


ダサい時計、メモだらけの冷蔵庫、狭い風呂、くたびれた座布団。

思い出が蘇る度に、謝り続けた。


父さんの部屋だけは、確認しておかないと。

このままじゃ、希望を持ったまま死にそうだった。

そんなもの、持ってはいけない。


いつもの癖でノックしてしまうが、もちろん不愛想な返事は帰ってこない。

扉を開けた。


「……え?」


何もなかった。


グレーの服ばかり入っていた箪笥。


かび臭い本がぎっしり詰まっていた本棚。


布団。


全部、なくなっている。


部屋だけじゃない。


気になって家の中を調べた。


父の茶碗がない。


湯呑みもない。


玄関にあった靴もない。


父の物だけが、綺麗になくなっていた。


父さんのことが大好きな母が捨てたとは思えない。


「……なんでだよ」


考えようとして、やめた。


今さら知ったところで、何になる。


「どうでもいいことか。終わらせよう」


納屋から、サバイバルナイフを取り出す。


そのまま二階へ上がる。


母さんの部屋の前まで来た。


ドアは、開けっ放しのままだった。


中へ入る。


これで、最後だ。

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