第十四話
「私の名前は鎌倉日夏!!」
驚きで、声が出せない。
「あれれ?驚かせちゃったかな?ごめんね」
軽く手を合わせると、鎌倉はしゃべり続ける。
「あなたの名前は何?」
(さっき、大声で呼び捨てしていたろ)
「し、知ってるんだろ」
「それは、人から聞いた名前だもん。あなたから直接教えて」
変な女だ。
「俺の名前は、江戸真理。これでいいのか?」
「うん!良い名前だね!」
「…」
「私たち、幕府コンビだね!」
(幕府……ああ、江戸幕府と鎌倉幕府か)
「あ、あぁ、そうだな」
「誕生日はいつ?」
「え?誕生日?」
「そ」
「えと、5月12日」
(はっ、もしかして、これなんか終読者を特定するやつか)
「お、私も12だよ!4月だけどー」
なんの意味があったんだ。
今の。
「あ、これ!ごはん!明人君に何か持ってって言われたから」
差し出されたおにぎりは、どう見ても一人分じゃなかった。
両手で受け取らないと落としそうな大きさだ。
「お塩たっぷりだから、元気つくよ!」
「…悪いな、いただきます」
一口かぶりつくと、思わずむせる。
吐き出すまいと必死にこらえ、咀嚼するが、口の中がジャリジャリと音をたてる。
(塩辛すぎる。塩の結晶を丸かじりしてるみたいだ)
こちらを見つめる鎌倉に、グッドサインをすると、彼女はとても嬉しそうにしていた。
もう意地で食べるしかないと、一気に食べ進める。
喉に詰まった。
「はい」
鎌倉は、水筒を差し出してくれた。
「うまかったよ、ありがとう」
「でしょー」
(高校生、だよな。身長高いな)
得意気にしてる。
可愛い。
「お前、この島の人か?見たことないけど」
「…私、あんたじゃないんだけど」
名前を呼べと言わんばかりにふくれる。
「鎌倉、さん、は観光客かなんかなのか?」
「ふふ、呼び捨てで良いよ!私は観光客じゃなくて、この島の住人だよ。って言っても、来たのは二年前くらいなんだけどね」
(どうりでしらないわけだ。俺が東京に行った年に来たのか)
「それより見て!着替え持ってきたの!パパのだけどね、着替えたいでしょ?真理の服ボロボロだし」
気にしてなかった。
「悪いな。ありがとう」
服を受け取る瞬間に、鎌倉は服をひょいと上にあげる。
「ん?」
「ちょっと、臭いよ」
普通に傷つく。
「なんか魚のにおい」
「しょうがないだろ、今は非常事態なんだから。あと、島に住んでるなら魚の臭いごときで文句言うな」
無理やりとろうと、手を伸ばす。
鎌倉はひょいとよける。
「だめ、ちょっとそこの砂浜に洗いに行こう」
鎌倉が俺の手を引く。
「海はだめだ。怪物がいつ来るかわかんねえ」
「だーいじょぶ、だいじょぶ。何かあったら守ってあげるから」
怯えた子どもをあやすように、俺の手を引っ張る。
「いや、守るの俺――」
「えいっ」
背中を押された。
「うおっ!?」
膝まで海に突っ込む。
「ほーら、頭までよーく洗って」
怪物の気配はない。
周囲を確認してから、仕方なく服に手をかける。
「あのー、どっかいっててくれませんかね」
「ん?私は気にしないから、心配しないで!」
「俺が気にするんだよ!あと、気にしろ!」
「もー、シャイボーイだなあ。私は小さいほうが好きだよ」
「何の話だ!!!」
なんとか、鎌倉を遠ざけ、体をざっと流し、体が乾くまで日に当たる。
その間、鎌倉は物陰から、たわいもない質問をずっとしていた。
(俺、何してんだ)
「うん、いい感じだね!」
「どーも」
「パパの方が背高いから、ちょっと大きいけどね」
借りたのは、高そうな黒のシャツと黒のズボンだった。
袖を軽くまくり、日夏と元いた岩場へ戻る。




