第十三話
背後にある山の稜線から、朝日が昇り始めていた。
結局、その夜は一睡もできなかった。
怪物は時間を空けて、三体現れたが全て倒した。
島の反対側なども見に行ったが、怪物はいなかった。
まるで、江戸に吸い寄せられるように、怪物は姿を現す。
それから、雨が降っていなければ、怪物は陸に上がってこないという話も本当らしい。
「なかなか、出ないな」
最後に怪物が現れてから、もう三時間が経っていた。
いつの間にか、怪物が現れるのを待っている自分がいた。
戦っている間だけは、何も考えなくて済む。
そしてなにより、怪物を倒している間だけは、自分がここにいてもいいような気がした。
「早いとこ、死なないとな」
口にすると、不思議なくらい簡単だった。
「今この瞬間も、みんな苦しみから解放されるために終読者を捜してる。みんな、俺に死んでほしいんだ」
波が岩にぶつかる。
「俺が死んだら、きっとハッピーエンドが来るんだ。もう誰も泣かずに済む」
怪物は、しばらく現れそうにない。
岩の隙間に落ちていた、錆びたナイフを拾い上げる。
「あと十分」
岩にもたれかかった。
「十分待って、怪物が来なかったら……もう終わろう」
目をつぶると、自分の鼓動と、波の音だけが聞こえる。
もうすぐ、ハッピーエンドが訪れる。
そのときだった。
岩陰から、何かが飛び出してきた。
「いーーーー、ひゃっほーーーい!!! ついたーーー!!!」
「……は?」
真横から飛び出してきた太陽に、俺は目を丸くした。
そいつは岩の上で両手を掲げ、朝っぱらから飛び跳ねている。
昇ったばかりの朝日が、長いブロンドの髪を照らしていた。
その髪には似合わない、田舎の制服。
俺は、呆然と俺の前を通り過ぎていく横顔を見ていた。
「うおーーい!! どこだーー! 江戸さーーん! いますかーー!!」
両手を口元に当てる。
「江戸くーーん!!」
返事をしないでいると、今度は岩の上で仁王立ちになった。
「江戸、真理くーーん!!」
だんだん呼び方が雑になっている。
「おーーーい! 江戸真理ーーー!!」
声が出なかった。
話せば、ボロが出るかもしれない。
目が合えば、何かを疑われるかもしれない。
十二まで読めることを知られたら。
終読者だと気づかれたら。
だったら、今すぐここを離れればいい。
飛んで逃げればいい。
なのに。
俺は、その場から動かなかった。
「…………」
どうしてなのか、自分でも分からない。
ただ――
ほんの少しだけ。
見つけてほしかったのかもしれない。
「ん?」
そいつが、こっちを向いた。
目が合った。
「あーーー!!」
輝く髪をなびかせ、スカートが大げさにひらりと舞う。
ちらりと、水色が見えた。
「初めまして! 私の名前は鎌倉日夏!!」
彼女は朝日を全身に浴びて、眩しいくらいに笑っていた。




