第十話
「大丈夫?しん兄」
床に倒れた俺に明人が手を貸す。
俺の腫れた頬を見て、明人は保健室にある氷嚢を取りに行く。
一人になった俺に、殴りかかった男は一言、すまないと言い、座っていたところに戻る。
俺は、謝罪をすんなり受け入れ、床に座り込む。
(俺が、、終読者。俺が、この超常を引き起こした張本人。は、意味わかんね)
思わず、小さく笑った。
(なわけねーだろ。思い上がるのも大概にしろ。自意識過剰乙ってやつだ。どうせ勘違いだ。聞けばいいんだろ、誰かに。誰か……)
震えを抑えながら、聞こうとするが声が出ない。
呼吸が激しくなり始めたそのとき、後ろから肩をたたかれる。
「大丈夫ですか?江戸君」
村長だった。
「すいません、せっかく来てくださったのに、こんな仕打ち。でも、彼を許してあげてください。彼の奥さんと娘さんが本島にいるのですが、連絡が取れずに、ひどく憔悴していて」
「いや、大丈夫っす」
どうやら、俺が腹を立てていると思ったらしい。
今は、そんなことどうでもよかった。
「それにしても、すごいですね!十一まで読めるなんて。テレビでも十までの情報しか出ていませんよ」
(……十まで?)
「八まで読める人はこの島にはいないのに、さらに能力も使えるなんて!読める数が多いと、強くなるなんて噂もあります。ちなみに、十一個目の文章にはなんて書いてあるんですか?」
十一なら喋っても大丈夫そうだ。
でも、余計なことを喋れば、どこかでボロが出るかもしれない。
「すいません。ちょっと疲れてて、後でもいいっすか?」
「そ、そうでしたね、すいません」
村長が俺から離れると、明人が戻ってきた。
「しん兄、氷もってきたよ。これで冷やして」
「悪いな」
明人から氷嚢を受け取ろうとした、そのとき。
遠くから、大きな破壊音が響いた。
教室にいた何人かが、びくりと肩を震わせる。
海岸では、今も怪物が暴れている。
いつ海岸を離れ、ここまで上がってくるか分からない。
子どもを抱き寄せる者。
窓の外を何度も確認する者。
また、遠くで何かが壊れる音がした。
「そうだ、おめー、十一だから強いんだろ。なら、おめーが終読者ぶっ殺してくれよ!怪物も殺してやってさ!」
誰かが、そう言った。
「……そうだ」
別の誰かが呟く。
「そうだよ。十一ならやれるんじゃないか?」
一人、また一人と顔を上げる。
さっきまで怪物に怯えていた目が、今度は俺に向けられていた。
やがて、誰かが拍手をした。
それにつられるように、教室中から拍手が鳴り始める。
その瞬間、淀んだ教室に詰まっていたものがあふれ出し、俺を包んだ。
「それがいい!お前が終読者を探せよ!」
「きっと、おめーは終読者を殺すために、選ばれたヒーローなんや!」
「君が仇をとったら、お父さんお母さんもきっと喜ぶぞ!!」
「夫が目を覚まさないの!許せない!おねがい!!殺してください!」
「殺せ!」
「殺せ!」
拍手が鳴っている。
みんな、俺を見て笑っていた。
俺はみんなの希望となった。
「任せろ!!とりあえず海の化け物を殺してくる。みんなはここで待っててくれ!」
歓声を背中に受けながら、教室を飛び出した。
「殺せ!」
「終読者を殺せ!」
廊下に出ても、その声はしばらく聞こえていた。




