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[完結]【呪い系サイコホラー】こはるちゃん、いっしょに。  作者: てっぺーさま
最終章 堕ちていく

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復讐の終わり

【闇堕ち少女、怨霊と化す!】


憎悪の炎は死んでも消えない!

呪い系バッドエンドサイコホラー。

「……奈央ちゃん、ちょっといい?」

 入店して三か月が過ぎたころだ。出勤するなり、店長の山崎が困ったような顔で声をかけてきた。

 奈央の胸が、とたんにざわついた。

「……なんですか?」

「ちょっと、こっちで話そうか」

 奈央は顔をこわばらせたまま狭い事務所に入り、応接セットの安っぽいソファに腰を下ろした。

 店長の山崎に対して、奈央はこれまで悪い感情を持ったことはなかった。やり手とは言えないまでも、面倒見が良く、キャストからの信頼も厚い。しかし、今の彼の困惑した表情を見て、これまでの良好な関係が音を立てて崩れ去っていくのがわかる。おそらく〝例のもの〟がまた、ここに届いたのだ。深い虚無感が奈央の胸を襲う。

 山崎が応接テーブルの上に、見慣れた紙をそっと置いた。

「実はさ、こんなものが届いてさ……」

 例の日記のコピーだった。奈央は暴れ出したくなる衝動を必死に抑え込む。こんなことが、あと何回続くのか。まるで、無間地獄(むけんじごく)にいるかのようだ。

「もしかして、前の会社を辞めた理由もこれ?」

 奈央は目を伏せたまま、わずかにうなずいて見せた。

「……これって、本当のことなの?」

 奈央は奥歯をぎゅっと噛みしめる。最低の人間だと思われていることだろう。それでも、自分自身をそんな人間だと認める気にはなれなかった。何せ、あのときはまだ、自分は子どもだったのだから。たった一度の過ちで、何度も責められるのは我慢ならなかった。

 山崎が一つ深いため息をつく。

「こういう世界だからさ、キャストの過去をいちいち責めるつもりはないよ。ただ、これはちょっと、度が過ぎるっていうか……」

 そんなことはわかってる! 奈央は叫び出したい衝動を必死に抑える。

 山崎は日記のコピーを軽くつかんで言葉を続けた。

「これさ、昨日奈央ちゃんが休みのときに届いたんだ。オーナーに相談したら、他の子たちの意見を聞けって言われてさ。それで、昨日いた子たちにこれ見せたら、みんな、奈央ちゃんとはいっしょに働きたくないって」

 奈央は思わず山崎を鋭く睨みつけた。

 山崎が目に見えてたじろぎ、怯えた表情を浮かべながら言い訳がましく続けた。

「おれは奈央ちゃんがいい子だって知ってるから、こんなの気にしないよ……。でも、うちは女の子あっての店だからさ、彼女たちが気持ちよく働けないと困るんだよね……」

 奈央の胸に激しい怒りが湧き起こる。他の女たちなど、どうでもいいではないか! 客商売なのだから、客の機嫌さえとっていればそれで充分ではないか!

 山崎は困り果てた顔で続けた。

「……だから悪いんだけど、今日で辞めてもらえないかな?」

 非情な解雇通告に、奈央の涙腺は崩壊した。涙があふれ出したとたん、抑えていた感情が一気に噴出した。

「いい加減にしてよ! そんな大昔のことで、いつまでわたしを責めるんですか!?」

 山崎がびくっと身を引き、怯えたように大きく目を見開いた。

 奈央は構うことなく続けた。

「なんでわたしばかり、こんな思いをしなきゃいけないんですか! わたしが過去に何かしたからって、みんなには関係ないじゃないですか! 誰だって過去に悪いことの一つや二つ、してきたんじゃないんですか? それなのに、みんなわたしのこと、悪者扱いして……。わたしは両親にも見捨てられ、楽しく働いてた会社までクビにされたんですよ。それでもまだ、わたしを追い詰めるんですか? ひどすぎですよ!」

 奈央は怒りのままに一気にまくし立てた。

 山崎は明らかに動揺していた。目には同情の色が浮かんでいる。ふと気づくと、周囲が不自然に静まり返っていた。今は開店準備中で男性スタッフたちが忙しくしているはずなのに、ホールからは物音一つ聞こえてこない。彼らが、息を潜めて聞き耳を立てているのは明らかだ。

 やがて、山崎が重苦しく口を開いた。

「……気持ちはわからなくもないけど、こっちとしても悪い噂が立つと困るんだ。年配の客なんか、こういう話に敏感でさ。あいつら、すぐ難癖つけてクレーム入れてくるんだ。奈央ちゃんがいたら、そういう連中の標的になりかねない。わかるだろ?」

「わかんないですよ!」奈央は再び声を張り上げた。「もう! さっきと言ってること違うじゃないですかぁ! さっきは他の女の子たちが働きにくいから辞めてくれって言ったのに、今度はクレームが入るから辞めてほしいって話が矛盾してますよね!? それにわたし、ここに来てからほとんど休まず働いてきたんですよ。人が足りないって言うから文句も言わずに協力してきたのに、なんですかこの仕打ちは!? 少しはわたしのことを助けようっていう気持ちはないんですか!? もうわたしを、これ以上いじめないでください!」

 山崎は困り果てた表情を浮かべていた。だが、奈央の怒りはまったく収まらない。学生時代の単なる悪ふざけが原因で、ここまで理不尽な扱いを受ける理由はない。

 奈央は怒りのままに山崎を睨み続けるが、彼はその圧力に目に見えてたじろいでいた。

 山崎があきらめたような顔で口を開いた。

「……奈央ちゃん、わかった。とりあえずオーナーと相談してみるから、今日のところはいったん帰ってくれないかな。頼むよ」

 それがその場しのぎの言葉なのは明らかだ。彼はどうにか自分を店から追い出そうと必死なのだ。

 奈央は再び声を荒げた。

「ここをクビになったら、わたし、どこに行けばいいんですか!」

 次の瞬間、背筋に悪寒が走った。奈央が思わず首を横に振ると、すぐ目の前に原口華菜子の姿があった。不気味な笑みを浮かべながら、彼女が耳元でささやいてきた。


「若いからだを活かせる仕事があるじゃない♪」


 その言葉を聞いたとたん、全身から力が抜けていった。黒いソファから滑り落ち、床に腰を落とす。奈央は両手で頭を抱えた。

「ああ——!」

 山崎が慌てた様子でソファから離れ、身を寄せてきた。

「奈央ちゃん、だいじょうぶか!?」

 だが、奈央は、薄汚れた床を見つめたまま動けなかった。脳裏に、ピンクのマーカーで強調された日記の一文が浮かぶ。


〝いつか絶対に、あの女にも私と同じ目にあわせてやる!〟


「ああ、そうか……。そういうことか……」

 因果応報——。結局、過去の行いが自分に返ってきたのだ。おそらく、彼女の復讐もこれで終わる。直感がそう告げていた。

 涙があふれ出し、止まらなくなった。なのに、なぜか顔は笑ってしまう。想像を超えたあまりの悲惨さに、もう笑うしかなかった。

 笑ったり泣いたりしているせいか、山崎が明らかに困惑していた。だが、もう他人の視線など、奈央にはどうでもよくなっていた。

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