第二章:手が血だらけになる毎日
第2話をお読みいただきありがとうございます。運命的に出会ったはずの白玉でしたが、暮らし始めると現実は甘くありませんでした。お互いに言葉が通じない、手が血だらけになる暗黒期の始まりです。
暮らし始めてみれば、現実は甘くなかった。 生後三ヶ月まで外の過酷な環境で育った野生の血のせいか、白玉はとにかく暴れた。 抱っこしようとすれば狂ったように抵抗し、動く俺の手を、毎日血だらけになるほど本気で噛みつき、引っ掻いた。「痛えな、この野郎……!」 俺も痛さとイライラで本気で怒った。肉球を本気で噛み返したこともあるし、首根っこを掴んで床に押さえつけ、ときには布団に丸め込んで「いい加減にしろ」と押さえつけた。 一時期は本当に嫌いになりそうだった。毎日のように喧嘩をして、部屋の隅で睨み合う。「もう無理だ。明日、捨てようか」 先の見えない真っ暗なトンネルの中で、何度も一人で限界を感じ、投げ出しそうになった。 それでも、俺はご飯をあげることをやめなかった。 お水を換え、汚れたトイレの掃除をするのも、全部俺一人でやり続けた。 なぜ手放さなかったのか、自分でもよく分からない。ただ、あの弾け飛んだ数珠の感触が、愛犬のあの真っ直ぐな視線が、俺の心のどこかにブレーキをかけていたのかもしれなかった。 そんなある日、ふと気づいた。 白玉は、無理やり抱きしめたり顔を擦り寄せたりすると、嫌がって必死に逃げようとはする。 けれど――絶対に、爪だけは立てない。 普通なら、これだけ怒られて押さえつけられたら、人間に敵意を剥き出しにして、爪で顔を切り裂いてもおかしくないはずだ。なのに白玉は、俺を傷つけることだけは、頑なに拒んでいた。 そして、生後半年を迎えた頃。 お互いに本気でぶつかり合って、俺自身も「嫌がったらすぐ解放する」と接し方を変えていったタイミングで、白玉は奇跡のような行動を始めた。 おもちゃを投げると、トコトコと嬉しそうに走り、それをくわえて俺の元へと持って帰ってくるのだ。 何もしつけていない。一度も教えていない。 猫のはずなのに、まるで、あの『犬』のように。 さらに、彼女の知能は人間の想像を超えていた。 ある時、一人の時間にお留守番をさせていると、彼女は自分でハンモックにおもちゃのボールを乗せ、それを揺らして、不規則に転がるボールを一人で追いかけていた。 誰も教えていない物理の法則を、彼女は暗闇の中でこっそり研究し、自分だけのエンタメを発明していたのだ。
第2話を読んでいただきありがとうございました。毎日血を流し、何度も捨てようかと限界まで追い詰められた日々。しかし、白玉が見せた「ある行動」と、教えた覚えのない「犬のような特技」が、冷え切った二人の関係を少しずつ変えていきます。次回、白玉が隠していた切なすぎる秘密が明らかになります。




