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29:ふふふ。

「うわぁぁぁ」

「凄いよ姉さま。ふわふわしてるっ」


 け、毛皮だ。毛皮のコートだ!


 グレン卿に連れられてやって来たお店には、ふわふわもこもこな服がたくさんあった。

 これから北部へ向かうという人向けのお店なんだとか。


「とりあえず、北部の都に到着するまでは、毛皮のコートでしのげ」

「う、うん。分かったわ」


 よっぽど寒いのね……。

 うぅん、どれにしようかなぁ。

 日本にいたときだって毛皮のコートなんて、当たり前だけど着たことないし。

 寒いならロングコートのほうがいいよね。


「おい」

「はい?」


 呼ばれて振り向くと、グレン卿が白いコートを手にしていた。


「これを買えってこと?」

「き、気に入るなら、俺が……」

「グレン卿は着るの?」

「女ものだぞっ」


 うぅん、いまいち今回は何を言っているのか分からないわ。


「姉さまのためにグレン卿が買ってくれるって!」


 突然クリフがにこにこしながらやって来て、そう言う。


「えぇ!? か、買ってくれる??」

「き、気に入ったなら、な」

「いやいや、そんなに安いものじゃないでしょ」

「たいしたことはない」


 た、たいしたことはないって。

 くっ。グレン卿ってば実は結構お金持ちぼんぼんなのかしら。


「お、お金ならちゃんと持って来てるから」

「お嬢様。殿方がプレゼントすると仰っているのに、断るのは失礼です」

「そうですルシアナ様。受け取ることもマナーでございますよ」

「そ、外堀から埋められていくっ」


 チラりとグレン卿を見ると、こくこくと頷いちゃってるし。

 はぁ……。


 うん、でもまぁ真っ白な毛皮のコートって、ちょっと憧れるよね。

 すごく触り心地も良さそうだし、あったかそうだし。


「じ、じゃあ……お言葉に甘えて」

「そうか」


 ひゃ、なんで嬉しそうな顔するの?

 え、そんなに誰かにプレゼントしたかった?


「あとこれと、これもどうだ?」

「い、一着でいいですってばぁ」

「……ではせめて、これとこれぐらいは」


 意地でもまだプレゼントしたいのか。

 白い毛皮のコートとお揃いの帽子と、あと手袋を持って来てくれた。

 まぁこれぐらいならいいか。


「分かりました。じゃあグレン卿のお薦めをいただきます」

「あぁ」


 せっかくだから帽子を被ってみた。


 うん、まだ平野部だと暑いわね。






「うっわぁぁぁぁ」

「すごぉーい!」


 山を登り出して初めて四日目。

 右を見ても左を見ても、前も後ろも山だらけ!

 でも私とクリフが驚いているのは、そんなことじゃない。


 私たちの乗る馬車が進むその先には、ぽっかりと空いた洞窟──ううん、トンネルがあった!

 形はまさに私が知るトンネルそのもの。

 ただコンクリートで固められているとかじゃなく、岩が剥き出しの状態。


「ここを抜ければ街までもうすぐだ」

「まさか山を貫通しているの?」

「あぁ。山越えをするには、山頂付近まで登ることになる。馬車はもちろん、徒歩でもなかなか険しい道のりだ」


 グレン卿がそう言うと、彼は西の方を指差した。

 その方角に、比較的緩やかな山道があるらしい。だけどそこまで行って街に向かうと、追加で十日ほどかかるんだとか。


 それでトンネルが掘られることになったのだけど、これがまさかの──


「魔法でぶち抜いた」

「ひえぇーっ。ま、魔法で!?」

「あぁ。大地の魔法を使えば、穴は案外簡単に開く。らしい」


 最後のらしいって……まぁグレン卿も実際に見たわけじゃないってことよね。

 はぁー、この世界のトンネルは、魔法なのねぇ。


 トンネルの中には、転々と明かりが灯されている。

 松明でもないし、もちろん電気でもない。

 何かと思ったら、石が光ってる?


「あれは魔石だ。それに光の魔法を閉じ込めると、ああやって明るくなる」

「え、あれって光魔法なんですか?」


 グレンの言葉に興味を持ったのはクリフ。

 自分も光魔法の適正があるから、気になるのね。


「あぁ。一度魔法を閉じ込めると、だいたい十日ほど光るらしい」

「え、じゃあ定期的に魔法を使わなきゃいけないのね」


 グレン卿が頷き、北部で光魔法を使える数名が、交代でやっているんだって。

 なかなか大変ね。


 でも……もうかなり長いこと進んでるのに、まぁだ外に出ないんだけど。


 まだ?

 まだなの?


 かれこれ三〇分はトンネルの中なんだけど、さすがに怖くなってきた。

 本当はこれ、出口なんてないんじゃって。


 でもそれからしばらくして、


「姉さま! 出口が見えてきましたっ」

「え? 本当に!? ああぁぁ、明かりだぁ」

「ようやくですね。もう私、このまま闇の中を彷徨うんじゃないかと不安でした」


 とローラが言うけど、それに関しては同意よ。

 転々と明かりがあっても、全体的には暗かったもの。

 ほんと、怖かったぁ。


 久々の太陽が凄く眩しい。

 はぁ、でもこれで一安心ね。


 と思ったのもつかの間。


「警戒!」


 グレン卿の一言で、北部から来た騎士たちが一斉に剣を構える。


「ルシアナ様。魔獣は近くにおります」

「え、魔獣!?」


 アッシュ卿も剣を抜いて馬車の傍へとやって来た。

 馬車が止まり、騎士たちが周囲に視線を送る。


 ここで戦闘になるの?


「おい。お前たちは魔獣との戦闘経験はあるのか?」


 グレン卿の質問にアッシュ卿は頷く。

 え? うちの騎士団って魔獣と戦ったことがあるの!?


「ですがわたしだけです。鉱山の近くの山で、何度かは」

「そうか。なら他の三人は出来るだけ補佐に回れ」


 アッシュ卿だけなのね。

 他の三人は凄く緊張しているみたいだけど、大丈夫かしら。

 どうにかして緊張をほぐしてあげられればいいけど……おぉ、そうだ!

 

「みんな、こっちに来て」

「お嬢様?」


 うちの騎士四人が集まる。

 そこに、えいやっと魔法陣を出した。


「こ、これは?」

「これは聖女様の、ありがたーい祝福の魔法──のパクリよ!」

「パ、パクリ?」


 ふっふっふ。だって私が見た魔法陣が、エリーシャの祝福の魔法陣なんだもん。

 だからパクリよ、パクリ。


「おぉ、これは──勇気が湧いてくる」

「これが祝福の魔法の効果……これならいけそうです!」

「でも無茶はしないで。まずは魔獣狩りに慣れた騎士の戦い方をよく見て学ぶのよ」

「「はい」」


 そうはいったものの、実は私が緊張している。

 魔獣なんて見たことがないんだもん、怖いに決まってるじゃない。


 獣が狂暴化したものだって話も聞いたことがあるけど、じゃあ見た目は動物?


 そんなことを考えていると、左奥の茂みが鳴った。

 飛び出してきたのは狼──じゃなく、狼男みたいに二足歩行の狼!?


 が、茂みから飛び出してきて、氷漬けにされた。

 んー、これはグレン卿、よね?


 見ると彼の周りに青白いオーラみたいなのが見える。

 うん、氷の魔法ね。


 だけど飛び出してきたのは他にも三体いた。更に別の方角からも!?


 どうしよう。騎士の人数より魔獣の方が多い。

 

 そんな不安も一瞬で終わった。

 北部からの騎士たちは顔色一つ変えず、平然と魔獣を切り伏せる。

 うちの騎士たちもアッシュ卿を中心に、確実に魔獣を倒していった。


 ちょ、うちの騎士たちカッコいい!


「ねぇねぇ。うちの騎士たちもまんざらじゃないわね。見直しちゃった」


 私がそう言うと、ローラがある一点を見つめて頬を染めた。


「はい。アッシュ卿、素敵です」


 ふーん。

 ふーん。

 アッシュ卿ねぇ。ふふふ。


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