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28:服のチェックをする

「おまたせしました、グレン卿」


 北部へ出発する日になった。


「あ、あぁ……随分と荷物が多くないか?」

「あぁー、実はその」

「はじめましてグレン卿。僕はクリフトン・デュール・カイチェスターと申します」

「グレン、だ。弟か?」


 グレン卿の質問に頷いてみせた。


「ごめんなさい。クリフがどうしても一緒に行きたいって言うから」

「それでこの大荷物か」


 表情こそ変わらないものの、グレン卿の口元が少し笑っているように見える。


「はい。すみません」

「い、いや。別に謝ることはない。来たいと言っているのに、断る理由もないだろう」

「そう言って頂けると助かります。クリフ、ちゃんとお礼を言うのよ」

「ありがとうございます、グレン卿」


 ぺこりと頭を下げて、それからクリフはグレン卿をじっと見つめた。


「な、なんだ?」

「いえ、なんでもありません。北部までって遠いんでしょ?」

「あぁ、半月の道のりだ。準備が出来たのなら出発しよう」

「「はーい」」


 私たちは馬車へ乗り込み、グレン卿は馬で行くのね。

 うちの騎士が四人。他にも数人の騎士がいるけど、公爵家の騎士団かな。

 グレン卿たちも馬車が一台あったけど、人ではなく荷物を積んでいるみたい。


 馬車の窓がノックされて、グレン卿が顔を覗かせる。

 窓を開けると、


「今更だが、カイチェスター侯爵に、あ、挨拶をしなくてよかっただろうか?」

「あ、お父さまは昨日、鉱山に行ってしまったの。新しい鉱脈が見つかって、新しく発掘計画を立てるために現地に出かけたのよ」

「ほぉ、新しい鉱脈か。それはよかったな」

「えぇ。呪いのアイテムを浄化して効果が表れたみたい」


 他にもいい知らせが一昨日入ってきた。

 今年の小麦の収穫量が、なんと去年の──


「十倍になったのよ!」

「十倍!? ……呪いの浄化で幸運が訪れるなんて話は聞いたことないが」

「あ、実は呪われる前の収穫量と比べると、まだ少ないぐらいなんだけどね」

「よっぽど酷い状況だったんだな」


 私も具体的な数字まで知らなかったけど、去年の十倍でも本来の収穫量よりまだ少ないぐらいだって聞いて驚いたわ。

 でも今年の収穫量があれば、領民に十分な賃金を払えるだろうってお父さまが言っていた。

 

「姉さま、姉さまっ」

「ん? どうしたのクリフ」

「どうしたのかじゃないです。魔法のこと、聞いてくださいよ」


 おっと、忘れてた。

 クリフが北部についてくる最大の目的。


「グレン卿。あなたの知り合いに光魔法を使える人はいないかしら?」

「光? あぁ、何人かいるが」

「本当ですか!? あの、僕、光魔法の適性があるって姉さまの鑑定で出たんですっ」

「うちの騎士団に光魔法を使える人がいなくて」


 だから北部で誰か使える人がいたら、魔法陣を教えてもらいらい──というのが、クリフの目的だ。


「分かった。暇そうにしている奴に声を掛けよう」

「やった! ありがとうございますグレン卿。お礼に姉さまを差し上げますね」

「ちょっと! 私は貢物じゃないし、あんたの所有物でもないんだからねっ」


 私じゃなくって、別のものでちゃんとお礼しなさいよ、ったくぅ。


 ん?

 グレン卿、顔真っ赤……。


「あの、真に受けないでくださいね」

「!? ダメな、いやなんでもない」


 んん?






「呪いの武具? あぁ、向こうにいけばいくらでもある」

「やっぱり。呪いは魔獣から貰うって聞いたから、もしかしてって思ったのよね」

「軽い呪いなら、北部の神殿でも解呪出来る。だが鑑定出来る者がいないから、解呪魔法をかたっぱしから掛けることになるが」


 だけど適切な魔法じゃなかった場合、失敗して反動で術者がダメージを受ける。

 数日から数十日寝込むことになるんですって。

 ほ、北部の聖職者さんは、体張ってるのね。


「じゃあ北部にいる間、呪いの鑑定をしてあげる」

「本当か!? それは助かるっ」

「お世話になるお礼。そのつもりで、司祭様の魔法陣『神の手』を見せて貰ったんだもん」

「司祭から『神の手』の魔法陣を? 待ってくれ、神の手?」


 グレン卿が首を傾げる。

 彼が知っている司祭様の魔法は『聖なる手』だったもんね。


「エリーシャの祝福魔法が覚醒したとき、その場にいて魔法陣の中に入っていた人、全員が恩恵を受けたの! ね、アッシュ卿」

「はい。自分は疾風の魔法を新たに授かりました」

「くっ。なんで俺も呼んでくれなかったんだ」


 ふっふー、グレン卿めちゃくちゃ羨ましそうにしてる。


「い、いいさ。俺は自分の力で、二段階覚醒してやる!」

「難しいんでしょう?」

「まぁな。そもそも、誰もが二段階覚醒できる訳じゃない。しかし、そうか……聖女の覚醒時だと、誰でも無条件で覚醒するのかもしれないな」

「それはあると思います。私のような者まで、魔法に覚醒しましたので」


 と、ローラも言う。

 それを聞いて羨ましがるのはクリフだ。


「僕も姉さまと一緒に大神殿に行けばよかったぁ」

「何言ってるのクリフ。あなたの場合、適正があるんだから魔法陣をちゃんと記憶できれば魔法が使えるのよ」

「そうです坊ちゃん。私には適正すらなかったんですから」


 ほんと、凄い覚醒よね。

 もしあの魔法陣の中に、ぎゅーぎゅー詰めで人がいたならどうなっていたか。

 うちの騎士団から五人も二段階覚醒者が出たのも凄いんだし。


「でもグレン卿が二段階覚醒したら……真夏でも屋敷内を涼しく出来るほうになるかしらぁ」

「それいいですね姉さま!」

「ねー」

「おい。人を便利アイテムのほうに言うな」


 でも実際、羨ましくて仕方ない。

 だってこの世界、冷暖房エアコンないんだもん!!!!


 そりゃー日本の夏に比べると湿度はそれほどないし、気温だって30℃を越えるような日も滅多にない。

 比較的過ごしやすいけど、なんせドレスよドレス。下半身が蒸れて仕方ないの。

 男の人だって大変よね、きっと。

 女はまだ半そでやノースリーブの服があるけど、短パンを穿いてるのは子供のうちだけ。

 クリフですら、もう丈の短いズボンは穿いたりしないわ。

 正装だと長袖長ズボン必須だし、騎士の方々見てるとこっちまで暑くなる。


「あっ、見てください姉さまっ。山が見えてきましたよ!」

「え? もう北部の山が!?」


 窓から顔を出すと、前方に山が見えてきた。

 屋敷を出発して半日しか経ってないのに!


 クリフと二人で浮かれていると、


「あれはただの山」


 という残念なお知らせが聞こえた。


「ルシアナ様、さすがに北部の山々が見えてくるには早すぎます。まだお屋敷を出発して半日ではありませんか」

「ふ、そんなに早く北部へ行きたかったのか」

「ク、クリフが悪いんだからっ」

「えぇーっ。僕はただ山が見えるって言っただけなのに」


 うぅ、恥ずかしいよぉ。

 えぇ、えぇ、楽しみにしてますよぉだ。


 こんな調子で半月ほど北に向かって進むと、遂に巨大な山脈が見えてきた。


「ルシアナ嬢、念願の北部の山々だ」

「やっと到着したの!?」

「いや、明日からあれに登る」


 ……そ、そうよね。北部のリュグライド公爵領は豪雪地帯だもん。

 ここはまだ暖かいし、豪雪とは程遠いもんね。


「麓の町で買い物をするぞ」

「え? グレン卿、お土産でも買って帰るの?」

「……は?」


 なに言っているんだこいつ──まさにそんな顔して彼がこちらを見る。

 痛い、痛いってば金色の目!


「とりあえず、宿に付いたら服のチェックをする」

「ふ、服??」


 そして町の宿に到着するやいなや、持って来た着替えのチェックをやらされた。

 で……


「ダメだ。凍死したいのか、お前らは」


 チェックって、そういうことね。

 でもちゃんと冬服持って来たのに、それでもダメなの?



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