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30/33

30:うちのお嬢様は凄いんですよ

 北部最大の街、スノウラースに到着したのは辺りが暗くなり始めてから。

 トンネルを抜けてから三度、魔獣に襲われた。

 まさかこんなに頻繁に遭遇するなんて、思ってもみなかったわ。


「だいぶ疲れたようだな。俺は公爵に報告してくるから、今日の夕食はお前たちだけで済ませてあとはゆっくりしてくれ」

「公爵様にご挨拶しなくても平気?」

「あぁ。それより街道での報告をしなきゃならない。普段ならトンネルから街まで、魔獣に遭遇することなんて稀だからな」


 普通じゃなかったってこと?

 うぅ、そういう話は何か良くないことが起きるフラグみたいで嫌だなぁ。


 普段と違う状況で、のんきにご挨拶なんてしてられないわよね。

 公爵様が落ち着いてからにしよう。


 公爵邸──というより公爵城かな。

 到着した私たちは、メイド長の案内で滞在する部屋にやって来た。

 まるで最高級のスィートルームか何かかしら。


「左右にそれぞれ寝室がございます。ご姉弟だと伺いましたので、この方がよろしいかと思ったのですが」

「はい。お心遣い、ありがとうございます。弟はまだまだ甘えん坊なので、部屋が近い方がいいです」

「ちょ、姉さま! ぼ、僕は甘えん坊ではありませんっ」


 顔真っ赤のクリフを見て、メイド長が朗らかに笑った。


「まぁまぁ、なんて仲の良いご姉弟でしょう」

「あはは。小さい頃は体の弱い子だったんで、それもあって甘やかせてしまうのですけどね」

「グレン様はあまりご兄弟仲がよろしくなくて……もっとも、グレン様が一方的に毛嫌いしているのですが」

「え? グレン卿に兄弟がいるんですか?」


 知らなかった。兄弟がいるなんて、言ってなかったし。

 じゃあここにいるのかな?


 でも兄弟仲が悪いって言ってるし、あまり聞くのは良くないかもね。


「メイドのお二人と騎士様は、廊下を挟んだ向かいのお部屋をご用意しております」

「ありがとうございます」

「こちらに滞在する間、このリィラがお世話をいたします。お困りのことがあれば、なんでもお申し付けください」


 そう言って若いメイドを紹介された。

 ローラたちがいるとはいえ、お城の中に何があるのかはまったく分からないものね。

 お城のメイドさんにもお世話になるのは当然。


「お食事までまだ時間がございますが、体が冷えていらっしゃるでしょうから先にお風呂でもどうですか?」

「そう、ね。お風呂、いいわね」


 馬車の中ではひざ掛けを掛けていたし、麓の街で買って貰った毛皮のコートも着こんでいたけど……それでもやっぱり寒いとは感じていた。

 ゆっくり暖まるのは凄くいいわ!


「お風呂はおひとり用と、大浴場がございますが」

「大浴場!?」


 え、そんなのあるの?

 この世界じゃお湯を沸かすのも大変だし、大容量のお湯の温度を維持するのって難しいからほとんど見かけないんだけど。


「驚かれますよね? おひとり用を用意いたします」

「あ、ううん。大浴場にするわ! あ、念のため聞くんだけど……男女別々、よね?」

「もちろんでございますっ。ただ大浴場は……」

「分かってるわ。お城の使用人もみんな使っているのでしょう? そんなの気にしないわ」


 ふ、ふふふ。

 まさか異世界で銭湯を体験できるとは、思ってもみなかったわ!






「んんー、お風呂ひろーい。気持ちいぃーっ」

「はぁ、本当に気持ちいいですねぇお嬢様」

「わたし、さっきリィナさんからお聞きしたのですが、お城の大浴場には疲れを取る効能があるとかなんとか。冷え性解消も出来るんですって」


 温泉かい!?

 えぇー、ちょっと嬉しい。

 うちの別荘にもあるのかしら?


「あ、そういえば……なんか成り行きで公爵様のお城に来ちゃったけどさ」


 なんか滞在するお部屋まで用意されてたし。


「私たち、うちの別荘に来たはずよね?」


 温泉(?)に浸かって、まったりしているのはなんか違う気が……しない訳でもない。

 

「あら、そういえば」

「でも別荘の場所、お嬢様ご存じですか?」

「ん? んー……知らないわ。二人は?」


 彼女たちは顔を見合わせ、それからへらっと笑いながら首を振る。


 うん。あとでアッシュ卿たちにも聞いてみよう。


 体が温まったところでリィナが来て、髪に香油を塗ってくれる。

 はぁ、いい香りぃ。


「あの、さきほど耳にしたのですが」

「ん、なぁに?」

「ルシアナ様は、祝福の魔法をお使いになられると」

「魔法? んー、使えるけど、でも私は祝福の魔法の使い手、とは違うの」

「え? 違う、のに使えるのですか?」


 私のはただのコピー。

 誰かの魔法陣を見せて貰わなきゃ、魔法は使えない。

 それに私の魔力そのものは一般的な量で、だからコピーと言ったって劣化コピーなのよね。


 魔法陣をそっくりそのまま作り出せても、威力まではコピーできないから。


 そう説明すると、リィナは何故か感動していた。


「凄いですルシアナ様! それってルシアナ様がどんな魔法でもお使いできるってことですよね?」

「ん、まぁ、そう、なる?」

「そうです。うちのお嬢様は凄いんですよ」

「はい。凄いです!」


 メイド同士で、なんか分かり合ってるみたい。

 凄い凄いって言われても、魔力が低いからたくさん使えないし。


 まぁでもぉ、魔獣と戦うために魔法が使える人が北部ここには多いっていうし。

 いろんな魔法陣を見せて貰うつもりだもんねぇ。


「でも祝福の魔法をお使いになられるルシアナ様がこの北部にいらっしゃって、本当によかったです」

「え? そ、そう?」


 リィナの言葉の意味は、今の私には分からなかった。


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