第9話 「瞬間移動の経費はゼロでーす!」最強の税務調査官
はじめに
アメリカで最も恐れられている組織、
それが**IRS:Internal Revenue Service(アメリカ合衆国内国歳入庁)**です。
彼らは税金を取り立てる専門家。
たとえマフィアのボスであっても、警察が捕まえられない巨悪であっても、IRSだけは逃しません。
「死と税金からは逃げられない」
そんな格言があるほど、彼らの監査は厳しく、一度狙われたら最後、地球の裏側まで追いかけてくると言われています。
例えるなら:
夏休みの宿題を10年分溜めた生徒の家に、世界一怖い先生が「1円単位のお小遣いの使い道」まで調べにやってくるような絶望感です。
では、物語の始まりです。
◆ 崩壊の始まり
ある日の午後、フェンは監査役室のソファで、ゴンタ、エヴァ、ケンジ、エミと午後の紅茶を楽しんでいた。
コーヒーもいいが、たまには紅茶もいい。
秘書のエマが、ダージリンとお茶請けのお菓子にアンリのマドレーヌを用意してくれた。
「ゴンタ!それ、私のマドレーヌ!」
油断も隙も、こいつには見せられない。
ゴンタは、悪びれた風もなく、にっこり笑っている。
憎めない奴め!
ケンジはそっとマドレーヌをポケットに入れる。
エミは、急いでマドレーヌを咀嚼する。
エヴァは、静かに紅茶を飲んでいる。
そこに突然、男とエマが前後を争いけたたましく飛び込んできた。
男は総務部の課長だ。
額の汗をハンカチで拭きながら、息を整える。
エマ:
「来ました!」
フェン:
「……誰が?」
エマ:
「内国歳入庁 Internal Revenue Serviceです!」
(沈黙)
フェン:
「……ああ、今日だったね。
問題ないわ。監査部の精鋭が、各部署の書類を全部チェック済みよ」
Eva(即答):
「はい。各部署の書類は整合しています」
総務課長:
「はい、それは……問題ありません」
フェン:
「でしょう?」
(ゴンタが、こそっとフェンのマドレーヌに手を出した)
総務課長:言い淀む。
総務課長:
「ただ……」
フェン:
「ただ?」
(間)
総務課長:
「問題は、監査部の提出資料にあります」
(空気が止まる)
◆ 静かな地獄
フェン:
「……は?」
エマ:
「え?」
ケンジ(小声):
「まさか……」
フェン:
「何の問題が?」
総務課長:
「……総務では対応できません」
(目を逸らす)
総務課長:
「直接、会議室で担当官と面談してください」
総務課長が紙を出す:
•「トランシルバニア出張報告」
•「交渉相手:Julius Caesar」
•「T-REX(赤ちゃん)返却完了」
◆ 犯人が横にいる
(全員、ゆっくりゴンタを見る)
ゴンタ:
「何か?」
マドレーヌをしっかり飲み込んだ。
フェン:
「あなたよ!」
エマ:
「そんな……」
(空気が揺れる)
◆核心:エヴァの論理
エヴァ(書類を受け取る):
「確認します」
(数秒で目を通す)
エヴァ:
「問題の所在は明確です」
フェン:
「言わないで」
エヴァ:
「記述内容が事実である点です」
フェン:
「それが問題なんでしょ!」
エヴァ:
「いいえ」
(全員止まる)
エヴァ:
「事実である以上、虚偽記載ではありません」
フェン:
「だから問題なのよ!」
エヴァ:
「問題は事実の方です」
エヴァ:
「費用も発生していません」
...............完全に正しい。
◆廊下〜直前ブリーフィング
フェン:
「エマ、先に会議室へ。コーヒーをお出しして」
エマ:
「はい」
(去ろうとする)
フェン:
「……待って」
(間)
フェン:
「缶は使わないでね。カップでお出しして」
エマ:
「……はい」
エマ:
「……ブラックで?」
フェン:
「ええ」
会議室へ向かう廊下。
誰も喋らない。
足音だけが響く。
ゴンタ:
「緊張するね」
フェン:
「あなたが言わない!」
(間)
エヴァ:
「ゴンタさん」
ゴンタ:
「はい?」
エヴァ:
「これからの応答について指示します」
(全員、少し希望を持つ)
◆エヴァの指示(超重要)
エヴァ:
「質問には簡潔に答えてください」
ゴンタ:
「いいよ」
エヴァ:
「聞かれたことのみに答えてください」
ゴンタ:
「OK」
エヴァ:
「事実のみ述べてください」
ゴンタ:
「うん」
エヴァ:
「嘘は言わないでください」
ゴンタ:
「嘘、ついたことないよ」
(完璧)
“完璧すぎる”一言
エヴァ:
「それで問題はありません」
(フェンたち、一瞬安心)
フェン(小声):
「……本当かしら?」
「……一つだけいい?」
エヴァ:
「何ですか」
フェン:
「それ、全部守ったら余計まずくならない?」
(間)
エヴァ:
「論理的には問題ありません」
◆ シーン:会議室
静かな会議室。
ドアが閉まる音だけが残る。
ケンジ(小声):
「……D.R.ジョーンズだ」
D.R.ジョーンズ氏はすでに座っている。
カップのコーヒーから、かすかに湯気。
会議室の外で聞き耳を立てる総務課員たち:
•「ジョーンズが来た…」
•「終わったな…」
•「あの人、笑ったことあるのか?」
◆ 開始:観察する男
ミスター D.R.ジョーンズ
属性
•Internal Revenue Service( IRS)主任税務調査官
•元軍人 元FBI捜査官
•趣味:帳簿の整合性を愛する
性格
•無駄な言葉は一切言わない
•冗談を理解しない(または無視する)
•記録、金、事実だけを見る
世界が壊れても、判断基準だけは壊れない男
Tommy Lee Jonesに似たIRS主任監察官は、何も言わない。
視線だけが動く。
フェン(緊張)
ケンジ(硬直)
エミ(震え)
エマ(祈り)
ゴンタ(通常運転)
エヴァ(無表情)
ジョーンズ、コーヒーの香りを嗅ぐ。
(モカだな?)
ジョーンズ:
ペンをとる。
「……始める」
(書類を見ながら)
「君たちは、遠くへ行く会社だな」
フェン:
「ええ、まあ……」
ジョーンズ:
「だが、移動費がない」
(コーヒーカップを置く音)
ジョーンズ:
「これは珍しい」
◆ 第一フェーズ:ゴンタへの質問
ジョーンズ:
「トランシルバニアへの移動方法は?」
ゴンタ:
「瞬間移動です」
ジョーンズ:
「……もう一度」
ゴンタ:
「瞬間移動です」
ジョーンズ:
「そうか」
ジョーンズ:
「交通費用はゼロ?」
ゴンタ:
「ゼロでーす」
ジョーンズ:
「理由は?」
ゴンタ:
「発生しないためだよ」
ジョーンズ:
「トルコ出張の交渉の相手は?」
ゴンタ:
「Julius Caesarだよ」
(沈黙)
ケンジ:
(椅子から少し浮く)
エミ:
(ペンを落とす)
ジョーンズ、ゆっくり拾う。
ジョーンズ:
「大事に扱え」
エミ:
ジョーンズから震える手でペンを受け取る。
ジョーンズ:
「綴りは」
ゴンタ:
「C-A-E-S-A-R」
ジョーンズ:
「確認した」
ジョーンズ:
「T-REXの子供は比喩か?」
ゴンタ:
「本物だよ」
ジョーンズ:
「体長は?」
ゴンタ:
「約60cm」
ジョーンズ:
「危険か?」
ゴンタ:
「いいえ」
(とても可愛い!)
◆ 第二フェーズ:異常検知
ジョーンズ、初めてペンを止める。
ジョーンズ:
「……確認する」
ジョーンズ:
「回答はすべて簡潔だ」
ジョーンズ:
「余計な情報がない」
(間)
ジョーンズ:
「意図的だな」
ゴンタ:
「うん」
即答してしまう。
ジョーンズ:
「誰かが指示したな」
空気が凍る
エミ:(心の声)「バレた…」
ケンジ:(視線を逸らす)
フェン:(終わった…)
◆ ジョーンズの深掘り
ジョーンズ:
「内容は?」
ゴンタ:ちらっとエヴァに視線。
「簡潔に、聞かれたことだけ、事実のみ、嘘を言わない、です」
(完全終了)
フェン:
(小さく)「全部言うな……」
ジョーンズ、ゆっくりエヴァを見る。
(初めて“対象”として認識)
ジョーンズ:
「君だな」
◆ 第三フェーズ:エヴァへ(参謀戦)
ジョーンズ:
「指示したのは君か」
エヴァ:
「はい」
ジョーンズ:
「目的は」
エヴァ:
「情報の正確性維持です」
ジョーンズ:
「虚偽は」
エヴァ:
「ありません」
ジョーンズ:
「隠蔽は」
エヴァ:
「定義上、行っていません」
ジョーンズ:
「記録と一致するか」
エヴァ:
「はい」
ジョーンズ:
「金の流れは」
エヴァ:
「発生していません」
ジョーンズ:
「矛盾は」
エヴァ:
「ありません」
(間)
ジョーンズ:
「……合理的だ」
エヴァ グリーン(狂った世界を、正しい言葉で説明し続ける秘書)
◆ 第四フェーズ:フェンへ(責任者は辛いよ)
ジョーンズ、ゆっくりフェンを見る。
空気が変わる。
ジョーンズ:
「君が責任者だな」
フェン:
「……はい」
ジョーンズ:
「この報告を承認したか」
フェン:
「はい……」
ジョーンズ:
「内容は理解しているか」
(間)
フェン:
「……しています」
(辛いなあ)
ジョーンズ:
「では確認する」
ジョーンズ:
「君は」
(全員息止め)
ジョーンズ:
「瞬間移動による出張と」
ジョーンズ:
「カエサルとの交渉と」
ジョーンズ:
「恐竜の返却を」
ジョーンズ:
「事実として承認した」
(沈黙)
フェン:
「……はい」
(責任者は私だ)
◆ 最終フェーズ:判定
ジョーンズ、コーヒーをもう一口。
(酸味が爽やかだ。やはりモカだな)
ジョーンズ:
「結論を出す」
ジョーンズ:
「記録は存在する」
ジョーンズ:
「金の流れはない」
ジョーンズ:
「矛盾はない」
(間)
ジョーンズ:
「……否認はできない」
◆ 余韻:三者の対比
ジョーンズ:
「君」
(エヴァを見る)
ジョーンズ:
「良い指示だ」
エヴァ:
「ありがとうございます」
ジョーンズ:
「君」
(ゴンタ)
ジョーンズ:
「正確だ」
ゴンタ:
「ありがとうございます」
(やったあ!)
(間)
ジョーンズ、最後にフェンを見る。
何も言わない。
フェン、視線を逸らせない。
ジョーンズ:
「……大変だな」
ジョーンズは、静かに立ち上がり、振り返ることなく会議室を出て行った。
監査報告書(抜粋)
担当官:D.R.ジョーンズ
機関:Internal Revenue Service
対象:Paradox Logistics, Inc.
監査種別:通常監査
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1. 出張費に関する確認
対象企業は複数の海外出張(トランシルバニア、トルコ等)を実施しているが、
当該移動に関する費用計上は確認されなかった。
聴取の結果、移動は「瞬間移動」によるものと説明された。
当該説明に関し、費用発生の事実は確認されていない。
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2. 特異案件
(1)T-REX個体の返却業務
対象企業は、当該個体を「白亜紀」に返却したと報告している。
費用計上はなし。
(2)歴史的交渉
対象企業は、Julius Caesarとの交渉を実施したと報告している。
費用計上はなし。
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3. 記録および整合性
提出資料は以下を満たす:
•記録の存在:確認済み
•金銭の流れ:該当なし
•矛盾:認められず
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4. 判断
費用が発生していない以上、
当該項目を否認する根拠は認められない。
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5. 所見
本件は、現行制度において想定されていない事象を含む。
ただし、提出された記録は一貫しており、
虚偽または不正を示す証拠は確認されなかった。
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結論:適正
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(余白に手書きメモ)
理解はしていない。
あとがき
最後までお読み頂きありがとうございます。
今回はこの一話だけですが、これを書きたいためにシリーズ化したとも言えます。
皆様に楽しんでいただければ、嬉しいです。
懲りずに、このフェンとゴンタの物語を続けます。
次話は、「遊んでいたら叱られました!」です。
応援をよろしくお願いします。




