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皮肉屋監査官 Fen (フェン)と異能の相棒  作者: Silvertiger
第9話 「瞬間移動の経費はゼロでーす!」最強の税務調査官

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9/29

第9話 「瞬間移動の経費はゼロでーす!」最強の税務調査官

はじめに


 アメリカで最も恐れられている組織、

 それが**IRS:Internal Revenue Service(アメリカ合衆国内国歳入庁)**です。


 彼らは税金を取り立てる専門家。


 たとえマフィアのボスであっても、警察が捕まえられない巨悪であっても、IRSだけは逃しません。


「死と税金からは逃げられない」


 そんな格言があるほど、彼らの監査(チェック)は厳しく、一度狙われたら最後、地球の裏側まで追いかけてくると言われています。


 例えるなら:

 夏休みの宿題を10年分溜めた生徒の家に、世界一怖い先生が「1円単位のお小遣いの使い道」まで調べにやってくるような絶望感です。


 では、物語の始まりです。



 ◆ 崩壊の始まり


 ある日の午後、フェンは監査役室のソファで、ゴンタ、エヴァ、ケンジ、エミと午後の紅茶を楽しんでいた。


 コーヒーもいいが、たまには紅茶もいい。


 秘書のエマが、ダージリンとお茶請けのお菓子にアンリのマドレーヌを用意してくれた。


「ゴンタ!それ、私のマドレーヌ!」


 油断も隙も、こいつには見せられない。


 ゴンタは、悪びれた風もなく、にっこり笑っている。

 憎めない奴め!


 ケンジはそっとマドレーヌをポケットに入れる。


 エミは、急いでマドレーヌを咀嚼する。


 エヴァは、静かに紅茶を飲んでいる。


 そこに突然、男とエマが前後を争いけたたましく飛び込んできた。


 男は総務部の課長だ。


 額の汗をハンカチで拭きながら、息を整える。


 エマ:

「来ました!」

 フェン:

「……誰が?」

 エマ:

「内国歳入庁 Internal Revenue Serviceです!」


(沈黙)


 フェン:

「……ああ、今日だったね。

 問題ないわ。監査部の精鋭が、各部署の書類を全部チェック済みよ」


 Eva(即答):

「はい。各部署の書類は整合しています」


 総務課長:

「はい、それは……問題ありません」


 フェン:

「でしょう?」

(ゴンタが、こそっとフェンのマドレーヌに手を出した)


 総務課長:言い淀む。


 総務課長:

「ただ……」


 フェン:

「ただ?」


(間)


 総務課長:

「問題は、監査部の提出資料にあります」

(空気が止まる)



 ◆ 静かな地獄


 フェン:

「……は?」

 エマ:

「え?」

 ケンジ(小声):

「まさか……」


 フェン:

「何の問題が?」


 総務課長:

「……総務では対応できません」


(目を逸らす)


 総務課長:

「直接、会議室で担当官と面談してください」

 総務課長が紙を出す:

 •「トランシルバニア出張報告」

 •「交渉相手:Julius Caesar」

 •「T-REX(赤ちゃん)返却完了」



 ◆ 犯人が横にいる


(全員、ゆっくりゴンタを見る)


 ゴンタ:

「何か?」

 マドレーヌをしっかり飲み込んだ。


 フェン:

「あなたよ!」


 エマ:

「そんな……」

(空気が揺れる)



 ◆核心:エヴァの論理


 エヴァ(書類を受け取る):

「確認します」

(数秒で目を通す)


 エヴァ:

「問題の所在は明確です」


 フェン:

「言わないで」


 エヴァ:

「記述内容が事実である点です」


 フェン:

「それが問題なんでしょ!」


 エヴァ:

「いいえ」


(全員止まる)


 エヴァ:

「事実である以上、虚偽記載ではありません」


 フェン:

「だから問題なのよ!」


 エヴァ:

「問題は事実の方です」


 エヴァ:

「費用も発生していません」


 ...............完全に正しい。



 ◆廊下〜直前ブリーフィング


 フェン:

「エマ、先に会議室へ。コーヒーをお出しして」


 エマ:

「はい」


(去ろうとする)


 フェン:

「……待って」


(間)


 フェン:

「缶は使わないでね。カップでお出しして」


 エマ:

「……はい」


 エマ:

「……ブラックで?」


 フェン:

「ええ」



 会議室へ向かう廊下。


 誰も喋らない。


 足音だけが響く。


 ゴンタ:

「緊張するね」


 フェン:

「あなたが言わない!」


(間)


 エヴァ:

「ゴンタさん」


 ゴンタ:

「はい?」


 エヴァ:

「これからの応答について指示します」


(全員、少し希望を持つ)



 ◆エヴァの指示(超重要)


 エヴァ:

「質問には簡潔に答えてください」


 ゴンタ:

「いいよ」


 エヴァ:

「聞かれたことのみに答えてください」


 ゴンタ:

「OK」


 エヴァ:

「事実のみ述べてください」


 ゴンタ:

「うん」


 エヴァ:

「嘘は言わないでください」


 ゴンタ:

「嘘、ついたことないよ」


(完璧)


 “完璧すぎる”一言


 エヴァ:

「それで問題はありません」


(フェンたち、一瞬安心)


 フェン(小声):

「……本当かしら?」


「……一つだけいい?」


 エヴァ:

「何ですか」


 フェン:

「それ、全部守ったら余計まずくならない?」


(間)


 エヴァ:

「論理的には問題ありません」




 ◆ シーン:会議室


 静かな会議室。


 ドアが閉まる音だけが残る。


 ケンジ(小声):

「……D.R.ジョーンズだ」


 D.R.ジョーンズ氏はすでに座っている。


 カップのコーヒーから、かすかに湯気。


 会議室の外で聞き耳を立てる総務課員たち:

 •「ジョーンズが来た…」

 •「終わったな…」

 •「あの人、笑ったことあるのか?」


 

◆ 開始:観察する男


 ミスター D.R.ジョーンズ

 属性

 •Internal Revenue Service( IRS)主任税務調査官

 •元軍人 元FBI捜査官

 •趣味:帳簿の整合性を愛する


 性格

 •無駄な言葉は一切言わない

 •冗談を理解しない(または無視する)

 •記録、金、事実だけを見る


 世界が壊れても、判断基準だけは壊れない男

 Tommy Lee Jonesに似たIRS主任監察官は、何も言わない。


 視線だけが動く。


 フェン(緊張)


 ケンジ(硬直)


 エミ(震え)


 エマ(祈り)


 ゴンタ(通常運転)


 エヴァ(無表情)


 ジョーンズ、コーヒーの香りを嗅ぐ。

(モカだな?)


 ジョーンズ:

 ペンをとる。

「……始める」

(書類を見ながら)

「君たちは、遠くへ行く会社だな」


 フェン:

「ええ、まあ……」


 ジョーンズ:

「だが、移動費がない」


(コーヒーカップを置く音)


 ジョーンズ:

「これは珍しい」



 ◆ 第一フェーズ:ゴンタへの質問


 ジョーンズ:


「トランシルバニアへの移動方法は?」


 ゴンタ:

「瞬間移動です」


 ジョーンズ:

「……もう一度」


 ゴンタ:

「瞬間移動です」


 ジョーンズ:

「そうか」


 ジョーンズ:

「交通費用はゼロ?」


 ゴンタ:

「ゼロでーす」


 ジョーンズ:

「理由は?」


 ゴンタ:

「発生しないためだよ」


 ジョーンズ:

「トルコ出張の交渉の相手は?」


 ゴンタ:

「Julius Caesarだよ」


(沈黙)


 ケンジ:

(椅子から少し浮く)


 エミ:

(ペンを落とす)


 ジョーンズ、ゆっくり拾う。


 ジョーンズ:

「大事に扱え」


 エミ:

 ジョーンズから震える手でペンを受け取る。


 ジョーンズ:

「綴りは」


 ゴンタ:

「C-A-E-S-A-R」


 ジョーンズ:

「確認した」


 ジョーンズ:

「T-REXの子供は比喩か?」


 ゴンタ:

「本物だよ」


 ジョーンズ:

「体長は?」


 ゴンタ:

「約60cm」


 ジョーンズ:

「危険か?」


 ゴンタ:

「いいえ」

(とても可愛い!)



 ◆ 第二フェーズ:異常検知


 ジョーンズ、初めてペンを止める。


 ジョーンズ:

「……確認する」


 ジョーンズ:

「回答はすべて簡潔だ」


 ジョーンズ:

「余計な情報がない」


(間)


 ジョーンズ:

「意図的だな」


 ゴンタ:

「うん」

 即答してしまう。


 ジョーンズ:

「誰かが指示したな」


 空気が凍る


 エミ:(心の声)「バレた…」


 ケンジ:(視線を逸らす)


 フェン:(終わった…)



 ◆ ジョーンズの深掘り


 ジョーンズ:

「内容は?」


 ゴンタ:ちらっとエヴァに視線。


「簡潔に、聞かれたことだけ、事実のみ、嘘を言わない、です」


(完全終了)


 フェン:

(小さく)「全部言うな……」



 ジョーンズ、ゆっくりエヴァを見る。


(初めて“対象”として認識)


 ジョーンズ:

「君だな」



 ◆ 第三フェーズ:エヴァへ(参謀戦)


 ジョーンズ:

「指示したのは君か」


 エヴァ:

「はい」


 ジョーンズ:

「目的は」


 エヴァ:

「情報の正確性維持です」


 ジョーンズ:

「虚偽は」


 エヴァ:

「ありません」


 ジョーンズ:

「隠蔽は」


 エヴァ:

「定義上、行っていません」


 ジョーンズ:

「記録と一致するか」


 エヴァ:

「はい」


 ジョーンズ:

「金の流れは」


 エヴァ:

「発生していません」


 ジョーンズ:

「矛盾は」


 エヴァ:

「ありません」



(間)


 ジョーンズ:

「……合理的だ」


 エヴァ グリーン(狂った世界を、正しい言葉で説明し続ける秘書)



 ◆ 第四フェーズ:フェンへ(責任者は辛いよ)


 ジョーンズ、ゆっくりフェンを見る。


 空気が変わる。


 ジョーンズ:

「君が責任者だな」


 フェン:

「……はい」



 ジョーンズ:

「この報告を承認したか」


 フェン:

「はい……」


 ジョーンズ:

「内容は理解しているか」


(間)


 フェン:

「……しています」

(辛いなあ)


 ジョーンズ:

「では確認する」


 ジョーンズ:

「君は」


(全員息止め)


 ジョーンズ:

「瞬間移動による出張と」


 ジョーンズ:

「カエサルとの交渉と」


 ジョーンズ:

「恐竜の返却を」


 ジョーンズ:

「事実として承認した」


(沈黙)


 フェン:

「……はい」

(責任者は私だ)



 ◆ 最終フェーズ:判定


 ジョーンズ、コーヒーをもう一口。

(酸味が爽やかだ。やはりモカだな)


 ジョーンズ:

「結論を出す」


 ジョーンズ:

「記録は存在する」


 ジョーンズ:

「金の流れはない」


 ジョーンズ:

「矛盾はない」


(間)


 ジョーンズ:

「……否認はできない」



 ◆ 余韻:三者の対比


 ジョーンズ:

「君」


(エヴァを見る)


 ジョーンズ:

「良い指示だ」


 エヴァ:

「ありがとうございます」



 ジョーンズ:

「君」


(ゴンタ)


 ジョーンズ:

「正確だ」


 ゴンタ:

「ありがとうございます」

(やったあ!)


(間)


 ジョーンズ、最後にフェンを見る。


 何も言わない。


 フェン、視線を逸らせない。


 ジョーンズ:

「……大変だな」


 ジョーンズは、静かに立ち上がり、振り返ることなく会議室を出て行った。








 監査報告書(抜粋)


 担当官:D.R.ジョーンズ

 機関:Internal Revenue Service

 対象:Paradox Logistics, Inc.

 監査種別:通常監査


 ⸻


 1. 出張費に関する確認


 対象企業は複数の海外出張(トランシルバニア、トルコ等)を実施しているが、

 当該移動に関する費用計上は確認されなかった。


 聴取の結果、移動は「瞬間移動」によるものと説明された。


 当該説明に関し、費用発生の事実は確認されていない。


 ⸻


 2. 特異案件


(1)T-REX個体の返却業務

 対象企業は、当該個体を「白亜紀」に返却したと報告している。

 費用計上はなし。


(2)歴史的交渉

 対象企業は、Julius Caesarとの交渉を実施したと報告している。

 費用計上はなし。


 ⸻


 3. 記録および整合性


 提出資料は以下を満たす:

 •記録の存在:確認済み

 •金銭の流れ:該当なし

 •矛盾:認められず


 ⸻


 4. 判断


 費用が発生していない以上、

 当該項目を否認する根拠は認められない。


 ⸻


 5. 所見


 本件は、現行制度において想定されていない事象を含む。


 ただし、提出された記録は一貫しており、

 虚偽または不正を示す証拠は確認されなかった。


 ⸻


 結論:適正


 ⸻


(余白に手書きメモ)


 理解はしていない。



 

あとがき


 最後までお読み頂きありがとうございます。

 今回はこの一話だけですが、これを書きたいためにシリーズ化したとも言えます。

 皆様に楽しんでいただければ、嬉しいです。

 懲りずに、このフェンとゴンタの物語を続けます。

 次話は、「遊んでいたら叱られました!」です。

 応援をよろしくお願いします。


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