第26話 兼務はつらいよ その7
◆青い守護神と支配者のサイン
ニューヨーク Paradox Logistics社北米総本部。
ジョーカーの攻撃が完全に沈黙し、
センチネルの青い光が静かに収束していく。
エイデン
「本部長……録画の再生が終わりました。
センチネルが、全部守り切りました」
フェンは深く息を吐き、
ゆっくりと顧客企業の代表たちが待つ会議室へ向かった。
会議室に設置された、大型ディスプレイの前に集まっていた
顧客側の CIO が立ち上がる。
CIO
「フェン・ワイルド総本部長……
センチネルの働き、すべて見ました。
あれほどの攻撃を防いだシステムは初めてです」
フェン
「ありがとうございます。
今回の件で、私たちは一つの結論に至りました」
フェンは資料を一枚置く。
「――契約システム名を、
ドミニオン・ゲート(Dominion Gate )から センチネルに変更させてください。
すでに外部の攻撃から、センチネルが御社のシステムを 全面的に保護しています。
今後は“守るシステム”として、
正式に センチネルを提供したいのです」
顧客たちは顔を見合わせた。
◆ 顧客側の反応
CIO
「……つまり、
ドミニオン・ゲートを捨て、
センチネルを正式な契約システムにする、ということですね」
フェン
「はい。
先ほどご覧いただいた映像が、その証明です。
私たちは御社を守るために、
最善の選択をしたいと考えています」
しばしの沈黙。
そして――
CIO
「ワイルドさん。
あなたの誠意と、センチネルの実力……
どちらも十分に伝わりました。
契約は継続します。
システム名もセンチネルに変更しましょう」
別の顧客
「むしろ、こちらからお願いしたいくらいです。
あれほどの攻撃を防げるシステムは他にありません」
さらに別の顧客
「総本部長、これからもよろしく頼みますよ」
フェンは静かに頭を下げた。
フェン
「……ありがとうございます。
必ず、ご期待に応えてみせます」
◆ エミの爆弾発言
フェンは本社に来ていた。
報告のため、送られた戦闘映像を見たエミが、
目を輝かせて言った。
エミ
「これ……映像配信サービスに売れるかも?」
フェン
「……エミ?」
エヴァ(無表情)
「……エミさん。
その発言は……非常に危険です……」
エミ
「えっ、だってすごい映像だったし!
青い軍団がドーンって出てきて、
最後に ゴンタ さんがマグナムみたいなのを撃つじゃないですか!
絶対バズりますよ!」
フェン
「エミ。
あれは国家級サイバー攻撃の記録よ。
娯楽じゃないの」
エヴァ
「……後で情報管理研修を追加しておきます……」
エミ
「ひぃっ……!」
フェン
「まったく……
ゴンタ の“趣味戦術”がバズる前に、
あなたが炎上するわよ」
◆ エピローグ:静かなる調印
パロアルトにあるParadox Logistics社本社。
重厚な会議室。
壁一面のガラス越しに、摩天楼の夜景が広がっている。
長いテーブルの中央には、
買収契約書が静かに置かれていた。
向かい合うのは――
Paradox Logistics社 の CEO アレクサンドラ
(Alexandra R. Theronhart )と、サイファー・ネクサス社
(ジョーカーの会社)の重役たち。
重役たちは敗北の色を隠せない。
ジョーカーの暴走、システムの崩壊、信用の失墜。
全てが彼らの首を絞めていた。
CEO は微笑を浮かべ、
ペンを滑らせる。
――調印。
その瞬間、
サイファー・ネクサス(Cipher Nexus )社は Paradox Logistics 社の傘下となった。
重役
「……これで、我々の技術は御社の管理下に……」
CEO
「ええ。
あなた方の“開発力”は、
もっと有効に使われるべきだもの。
もちろん――私のために」
重役たちは言葉を失う。
CEO は立ち上がり、
夜景を背にして静かに契約書を閉じた。
◆ CEO の独白
サイファー・ネクサス社の重役たちと秘書が部屋を出て、
会議室に CEO だけが残る。
彼女は窓の外を見つめながら、
ゆっくりと呟いた。
「フェン・ワイルド、期待以上だわ。
今後も楽しみにしているわよ」
その声は、
誰に聞かせるでもなく、
ただ静かに夜へ溶けていった。
あとがき
お読みいただきありがとうございます。
「兼務はつらいよ」完結です。
次回は、「昇進したら闇の王に慕われました ~皮食屋監査官は光と闇の境界でした~」です。
お読みいただければ嬉しいです。




