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皮肉屋監査官 Fen (フェン)と異能の相棒  作者: Silvertiger
第20話 兼務はつらいよ  その1

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20/29

第20話 兼務はつらいよ  その1

◆ パロアルト本社での決定


 カリフォルニア州パロアルト。

 朝の光が差し込むParadox Logistics 本社ビルは、

 ガラスと白い大理石で構成された静謐な空間だった。


 フェンは、専務(高嶋健二郎)に案内されながら歩いていた。


「……本社に呼び戻されるなんて、嫌な予感しかしません」


 専務は苦笑する。


「私だって同じだよ。

 CEOが“直接話したい”と言った時点で、

 ろくなことにはならない」


 フェンはため息をつく。

「専務が言うと、絶対に嫌な予感しかしません」


 —


 経営委員会の決定


 会議室に入ると、

 経営委員会のメンバーがすでに揃っていた。


 議長が淡々と告げる。


「監査部監査役 フェン・ワイルド。本日付で北米総本部の総本部長との兼務を命じる。


 これは経営委員会の決定事項だ。異議はないな?

 なお、北米総本部長の任命については、北米総本部の全社員から、

 フェン・ワイルド監査役を“北米総本部長に推挙する”旨の具申があった。

 経営委員会はこれを正式に採択した」


 フェンは一瞬、言葉を失った。


「……推挙は聞いています。

 でも私は監査役です。

 執行ラインに入るのは、本来あり得ません」


 議長は静かに頷く。


「承知している。

 しかし北米総本部の現状は、非常事態だ。

 “臨時危機管理措置”として、

 君に兼務を命じる」


 フェンは眉を寄せる。


「……CEOの判断ですか」


「経営委員会の決定だ。CEOも賛同された」


 フェンは深く息を吐いた。


 ---


 CEOとの対面


 専務に案内され、フェンはCEOの執務室へ向かう。


 重厚な扉が開くと、

 CEOアレクサンドラ R セロンハート(Alexandra R. Theronhart )は窓際に立ち、パロアルトの街を見下ろしていた。


「来たのね、フェン・ワイルド監査役、今日から北米総本部長も兼ねてもらうわ」


 振り返ったCEOは、

 静かで、しかしどこか“スペードの女王”を思わせる冷たい威厳を纏っていた。


「あなたを北米総本部長に任命するわ。

 経営委員会の決定でもあり……

 私の判断でもあるわ」


 フェンは冷静に言う。


「監査役が執行ラインに入るのは、

 コンプライアンス上の問題があります」


 CEOは微笑む。


「“コンプライアンスはなんとかする”と言ったでしょう?

 非常時には、非常の手を使うものよ」


「あなたが北米総本部を立て直す期間、一時的に総本部長に就任すると言うことです。

 その間、あなたの北米総本部への監査役としての権限は取り上げられます。

 副監査役にその権限を委譲します」


「CEO、お言葉ですが、現在私の下に副監査役はおりません」


「あら、誰か適当な人を用意しなさいな」


 フェンは、こみあげる苦い怒りを押さえ込めない。


「適当.....そんな人材がどこに転がっているんですか!」


 専務が慌ててフェンを嗜める。


「フェン、CEOに失礼だぞ。言葉を慎め。副監査役には最適な人材がいる」


 フェンが、専務をジロリと睨む。


「専務、お言葉ですがあなたも兼務はできませんよ」


「私ではない。君もよく知っている社員だ」


 専務が、間をおいて徐にその名を告げた。


「エヴァだ。エヴァ・グリーン秘書課長、かつ君の専任秘書だ」


 フェンは一瞬、頭の中が白くなった。


「エヴァ….ですか。それは、考えが及びませんでした」


 エヴァなら、専務が監査役時代から監査役の手足となって実務を取り仕切っていた。

 現在も、フェンをよくサポートしている。

 副監査役に彼女以外に適任者はいない。


 CEOが、二人のやりとりを見て口元が開く。

 CEOの微笑みは、温度を持たない。

 まるで盤面の駒を眺めるような目だった。



「では、決まりね。エヴァ・グリーンの副監査役。

 専務、手続きは迅速にね」


 CEOは、話は終わりだと手で合図する。


 専務はCEOに一礼し、フェンを伴い執務室をでた。



 専務とのやり取り


 フェンは廊下を歩きながら、専務に尋ねる。

「エヴァのことは、……専務の差し金ですね?」


「まあな。CEOが部外からどんな人間を入れるかわからない。

 それに外部に監査委員会でも作られたら、せっかくの監査部が無駄になる」



 フェンはわずかに目を細める。


「……専務の解決策は、いつも規格外ですね」


 専務は軽く笑った。


「君がそれを言うか」


 フェンは足を止め、専務に深々と頭を下げた。

「専務、エヴァの、副監査役のフォローをお願いします」


「ああ、君とエヴァには思うところはあるが、仕事は別だ。

 それに彼女は任せられる。

 頭が痛いのは、エヴァの替わりの秘書課長の後任だ」


 二人の間に、一瞬暖かい風が吹いた。


「それで……大丈夫か?」


 フェンは肩をすくめる。


「大丈夫なわけないですよ。

 監査役と総本部長の兼務なんて、聞いたことがないわ」


 専務は苦笑しながらも、

 どこか誇らしげに言った。


「フェン・ワイルド。

 北米総本部の社員たちは、本気で君を求めている。

 君が来ると聞いた時、

 現場の空気が一気に変わったんだ」


 フェンは少しだけ目を伏せる。


「……そう。

 なら、やるしかないですね」


 専務は頷く。


「ニューヨークは大変だぞ。

 だが、君ならできる」


 フェンは静かに答えた。


 フェンは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

「やります。

 “兼務はつらい”ですけどね」


 ---


 ニューヨークへ


 フェンは監査役室に、副監査役に就任したエヴァ、秘書のエマ、監査部課長タナカ、課長代理ケンジ、課長代理エミを呼んだ。


「.......というわけで、しばらく私は監査部を離れて北米総本部で勤務します。

 後のことは、エヴァに一任します。タナカさん、ケンジ、エミはエヴァを私だと思って支えてね」


「エマ、あなたはエヴァの秘書として、今まで通り職務を果たしなさい」


 タナカ

「フェンさんがいない監査部なんて、想像できませんよ」

 ケンジ

「エヴァさんが副監査役なら……大丈夫です!」

 エミ

「フェンさん、ニューヨークでも頑張ってください!」

 エマ

「フェン様、お身体を大切にしてください」


 最後にエヴァが決意をこめて言う。

「フェン様のお戻りになるまで、全力を尽くし監査部を守ります」


「みんな、ありがとう。何かあったら、連絡してね。

 すぐに、ゴンタを送るから」


「なんでだよ!僕は便利屋じゃないぞ」

 ゴンタはむくれるがタナカ達が手を合わせ、目を潤ませて祈るポーズをとる。

「わかったよ。その代わり時給はアップしてね」


 頷くタナカ。

「あ、出張手当もね」

 エヴァが目をそらす。

「幕の内弁当もね。だし巻き卵の熱々も」

 タナカ

 エヴァを見つめ訴える(予算が足りません.....)


 全員が俯く。


 見かねたフェンがゴンタの耳を引っ張る。

「それ以上言うなら、口をワイヤーで縫い付けてあげようか?」


「いえ、結構です」

 ゴンタは、そそくさとテーブルに全員のコーヒーとドーナツを置いて、疾風のように部屋を出て行った。



 フェンが監査部の全員へ同様の挨拶を終え、一息つこうとしたところへゴンタが戻ってきた。


「フェン、大変だね。体を壊さないでね」


「何を惚けたことをいっているの!あなたも一緒にニューヨークに行くのよ!」


「え、そんなの聞いてないよ。それに僕の契約は監査部との業務委託契約だ。北米総本部とは関係ないよ」


 フェンがおもむろにデスクの上の書類をゴンタに差し出す。


「契約変更書にサインしなさい。委託業務の作業場所に『フェン・ワイルドが指定する場所」の一文を入れたわ。

 それにいつも、私を助けるのが仕事と言っているじゃない。

 いいからサインしなさい。今よ」


「あーあ、もうちょっと、『ゴンタ!お願い、一緒に来て♡』とか『私を一人にしないで!』とか言ってくれたらサインするのに」


 フェンは、ゴンタが持ってきたコーヒーを飲み、ドーナツ(今日はシナモンか?)を齧りながら、ゴンタにだけに見せる笑顔で片目をつぶった。


 ゴンタは肩を落とし、観念したようにペンを取った。


 数日後。

 フェンはパロアルト本社を後にし、

 ニューヨーク北米総本部へ赴任する。





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