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皮肉屋監査官 Fen (フェン)と異能の相棒  作者: Silvertiger
第11話 遊んでいたら叱られました その2

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第11話 遊んでいたら叱られました その2

 ◆ 鈴をつけるには金環が要る


 監査役室の空気は、まだ重かった。


 フェンとエヴァは向かい合い、机の上には“ゴンタ管理案”のメモが散らばっている。


 フェンは額に手を当て、深くため息をついた。


「……エヴァ。あなたの言う“管理”って、どう考えても無理があるわよ。


 ゴンタに従属契約なんて……孫悟空の金環でも無いと難しいわ」


 エヴァは真顔で頷いた。


「金環……もし入手できれば、効果はあるかもしれません」


「比喩よ、エヴァ。本当に探しに行かないで」


「……承知しました」


(本当に探しに行きそうなのが怖いのよね……)


 フェンは心の中で小さく嘆いた。



 ◆ 二人の“作戦会議”


 エヴァは淡々と案を読み上げる。


「案①:専務直轄の特別任務契約を結び、専務の監督下に置く」


「絶対に却下。それは罠よ」


「案②:監査部直属の特別補佐として雇用し、行動を監査部が管理する」


「却下。彼が“管理”される姿なんて想像できないわ」


「案③:フェン様の個人補佐として契約し、フェン様が責任を持って監督する」


「……それ、私の寿命が縮むわね」


 エヴァは静かに頷いた。


「ゴンタ様は、自由奔放ですから」


「あなたが言うと説得力があるわね……」


 その他の案を出すため、二人が頭を抱えていると――



 ◆ 問題児、乱入


「やあ、フェン、エヴァ。

 ケンジとエミが青い顔してたよ。“フェンさん、ついに給料カットの相談ですかね?”って言ってたから、

“日頃の行いが悪いからじゃない?”って言っておいたよ」


 ゴンタが飄々と監査役室に入ってきた。


 フェンはこめかみを押さえた。


「……ゴンタ。どうしてそういうことを言うのかしら」


「え? 違うの?」


「違うわよ」


 ゴンタは首をかしげる。


「でも、二人ともすごく心配してたよ。“エヴァさんが朝から怖かった”って」


 その言葉に、エヴァがわずかに瞬きをした。


「怖かった、とは……?」


「うん。エマも言ってたよ。“エヴァさん、朝から空気がピリピリしてて、監査役室に入ったまま出てこないから心配です”って」


 フェンは思わず苦笑した。


(……エマ、見てたのね)



◆ フェン、ゴンタに説明する


 フェンは姿勢を正し、ゴンタに向き直った。


「ゴンタ。あなたの出入りが“記録に残らない”せいで、監査部も私も困っているの。

 だから、あなたの自由を守りつつ、会社としても納得できる形を探しているのよ」


 ゴンタは真剣な顔で聞いていた。


「ふむふむ。で、どんな案があるの?」


 フェンはメモをゴンタに渡した。


「これが候補よ。あなたが気に入るかどうかは……期待してないけど」


 ゴンタはメモをパラパラとめくり、表情をコロコロ変える。


  案①:専務直轄の特別任務契約


 ゴンタ:

「ブー! 却下! あのおっさん嫌い。


 なんか、見るだけで胃がキリキリするんだよね。


 あと、あの人の部屋、空気が重い。湿気っぽい。呪いの匂いする」


 フェン:

「……湿気じゃなくて呪いなのね」


 エヴァ:

「専務室には、結界が張られていますので」


 フェン:

「張られてるのね……」


  案②:監査部直属の特別補佐


 ゴンタ:

「うーん……これもダメ。

 監査部って、書類多いでしょ?

 僕、紙アレルギーなんだよね」


 フェン:

「そんなアレルギー聞いたことないわ」


 ゴンタ:

「紙を見ると眠くなるの。ほら、アレルギーでしょ?」


 エヴァ:

「それはただの怠惰では……」


 ■案③:フェンの個人補佐として契約


 ゴンタ:

「これもダメ。

 フェン、寝る暇なくなるよ?

 僕、夜中でも思いついたら話しかけちゃうし」


 フェン:

「……それは確かに困るわね」


 エヴァ:

「フェン様の健康が損なわれます」


 ゴンタ:

「でしょ? 却下!」


案④:専務・監査部・秘書課の三者管理体制


 ゴンタ:

「絶対ダメ!

 三方向から監視されるとか、僕、ハムスターじゃないよ!」


 フェン:

「……誰もあなたをハムスター扱いしてないわ」


 ゴンタ:

「いや、でもこの案はケージ感あるよね?」


 エヴァ:

「……否定はできません」


 ■案⑤:個人事業主として契約し、正式な入館証を持つ


 ゴンタはしばらく黙って考えた。


 そして、ぽんと手を叩いた。


「うん、これならいいよ。フェンのためだし、自由も守れるし。

 ゲート通るのも別に嫌じゃないしね」


 フェンはほっと息をついた。


「ありがとう。あなたが受け入れてくれると信じてたわ」


 エヴァも静かに頷く。



 ◆ エヴァ、退室


 エヴァは契約書類を整えると、静かにフェンへ一礼した。


「では、入館証の正式登録を秘書課で完了させてまいります。

 ゴンタ様には、こちらの仮入館証をお渡ししておきます」


 ゴンタに入館証を手渡すと、エヴァはわずかに満足げに目を細めた。


(……これで、専務の“拘束”は確実に働くはず)


 その確信を胸に、エヴァは監査役室を後にした。



 ◆ 二人きりになった瞬間


 ゴンタが渡された契約書を読みながら、ふと顔を上げた。


「フェン、今日なんか元気ないね。僕が笑わせてあげるよ」


「……子どもじゃないのよ、私は」


「じゃあ、大人のフェンを笑わせる方法、もっと考えないとね」


 フェンは一瞬で耳まで赤くなった。


「な、何を言ってるのよ……!」


 ゴンタは首をかしげる。


「え? だってフェン、笑うとすごく綺麗だし」


「…………」


(……もうやめて。本当に心臓に悪いわ……)


 ◆ 監査部、大混乱


 監査役室。


 エヴァが秘書課へ戻り、

 入館証の正式登録作業に入った頃――


 監査役室にはフェンとゴンタだけが残っていた。


 ゴンタはポケットから、

 仮発行された入館証兼登録証を取り出した。


「これ、さっきもらったんだけどさ」


 フェンは微笑む。


「似合ってるわよ。これで正式に出入りできるわね」


 しかしゴンタは、入館証をクンクンと嗅いだ。


「……うん、やっぱり。エヴァの匂いがする」


 フェンは顔を覆った。


「お願いだから嗅がないで……」


「これ、呪いだよ。GPSもついてるし……

 あ、金環の力も少し混ざってるね。“従わせる”系のやつ」


 フェンは息を呑んだ。


「……そんなものまで?」


 ゴンタは指先で軽く弾いた。


「はい、解除」


 入館証の表面が一瞬だけ光り、

 すぐに何事もなかったように戻った。


「これで大丈夫。フェンを困らせるものは、全部消すよ」


 フェンは胸の奥が温かくなるのを感じた。


「……ありがとう、ゴンタ」


 ゴンタはにっこり笑った。


「うん。フェンが困ってるの、嫌だからね」


 秘書課に戻ったエヴァは、

 入館証の登録情報を確認しながら小さく息をついた。


(……これで、ゴンタ様の行動は制限される。

 専務の命令にも応えられる)


 そう信じて疑わなかった。


 まさか、

 その“拘束”がすでに破られているとは知らずに。



 ◆ 監査部、大混乱


 監査部フロアは、いつもよりざわついていた。


 その中心にいるのは――もちろんゴンタだった。


「見て見て! これ、僕の入館証!」


 ゴンタは胸元でパスをぶらぶら揺らし、

 ケンジとエミ、そして監査部の面々に見せびらかしていた。


 ケンジは目を丸くする。


「えっ……本物ですか、それ……?」


「本物だよー。ほら、写真もちゃんと写ってるでしょ?」


 エマがパスを覗き込み、思わず声を上げた。


「えっ、写真めっちゃ良いじゃないですか!

 なんか……キラキラしてる……!」


 ゴンタは得意げに胸を張る。


「でしょ? これ、実は――」


 エミが手を挙げた。


「実は私が撮ったんです。あの吸血鬼城で」


 監査部全員「吸血鬼城!?」


 ケンジは震える声で聞いた。


「え……えっと……ゴンタさん。

 その……具体的に、どんな仕事をされるんですか……?」


 その瞬間、監査部全員が“ピタッ”と動きを止めた。


 空気が固まる。


 ゴンタは少し考え――


 そして、いつもの調子で言った。


「うん、好きな時にフェンにコーヒーとドーナツ運んでくるよ!」


 監査部全員:

「…………」


 ゴンタはさらに続けた。


「あと、時々ラブラブもしたいなあ」


 その瞬間。


 バシィッ!


 フェンの手刀がゴンタの後頭部に炸裂した。


「何を言ってるのよ、あなたは!」


 ゴンタは頭を押さえながら振り返る。


「いったぁ……フェン、ひどくない?」


「ひどいのはあなたの発言よ!」


 ケンジは青ざめ、

 エミは口を押さえて笑いを堪え、

 他の監査部員は“見てはいけないものを見た”顔をしている。


 ゴンタは悪びれず、にこにこしていた。


「だって本当のことだし」


「言わなくていいのよ、そういうことは!」


 フェンの声が珍しく大きく響き、

 監査部フロアは一瞬の静寂のあと――

 爆笑に包まれた。


 ケンジ:

「……フェンさん、がんばってください……」


 エミ:

「お似合いですよ、二人とも」


 フェン:

「エミ、あなたも余計なこと言わない!」


 ゴンタはパスをひらひらさせながら、満足げに言った。


「これで僕も正式メンバーだね!

 あ、でも書類仕事は無理だからよろしく!」


 監査部全員「無理なんかい!」


 フロアは再び笑いに包まれた。



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