2.再戦しようぜ
「負けた腹いせにご友人をけしかけるのは止めていただけませんかね。無用の執着は、ランドバーク、クロノ両家に禍根を残しましょう」
同期生とは言え、クロノと同格の家の御曹司である。
ゆえに、一応の礼節を整える。が、冷ややかさは隠せていない。取り巻きに追い回された恨みもある。
「それ以前に、元々仲悪いでしょ」
シンシャの言葉に、確かに、とそこは心で肯じる。
ランドバークを筆頭とする企業、サイクロン・エンシェント。
騎士団から企業へと転向したクロノ・ナイツ。
すでにしてこの両者はエニグマのシェアと、クラドスの製造権を互いに求めて争う犬猿の仲だ。
「それに俺は、負けても特に悔しいとかはないんだよ。ミチルたちは『シンシャさんに土をつけた相手には、相応の報いを!』なーんて息巻いてるけど。俺はただ、ここで君を待ってただけ。君ってば、俺のことずぅっと避けんだもの」
「……それは、当然でしょう。で、模擬戦の遺恨ではないとして御用は?」
「もっかい俺と戦って欲しい!」
怨みなど微塵も感じさせないさっぱりと澄み切った笑顔で、シンシャはそう言った。
ぎしり、とグレアの頬がきしんだ。
「…………悔しくも怨みもないんですよね?」
「うん」
「そのうえで、戦えと」
「うんっ」
「――いや、全ッ然意味分からんって! アンタ、頭おかしいんじゃないか!?」
「結構言うねぇ。君、それが素なんだ」
けらけらとした笑声をシンシャが転がす中、グレアは頭を抱えた。何某と天才は紙一重と言うが、この場合はどちらに当てはまるやら。
「怨みはない。でも、興味はあるんだ」
猫のような軽やかさでグレアの前に飛び降りて、シンシャは言った。
「自慢じゃないけど、不覚をとったのってアレが初めてでさ。だからこそ、敗因が知りたい」
「自慢にしか聞こえませんが……あんなもん、ただのまぐれ勝ちですよ。またやったら、十中八九負けます。てか、もう俺の負けで良いですから、ほっといてくれません?」
「一、二は勝つ見込みがあるって?」
「…………」
「否定、しないんだ?」
「……咄嗟に言葉が出なかっただけです」
それが、間違いだった。
「よし、それを確かめるためにも、再戦しよーぜ」
まるで棒切れで剣士ごっこをするガキ大将のように、嬉しそうに笑む。
細められた目の奥の、いっそ不安になるほどに強い、瞳の中の閃き。
そこには何か、切望のようなものが、渦巻いている気がした。
そうさせるだけの何かが、自分に、あるとでも――?
「……立ち合ったら、納得して引いてくれるんですよね?」
その光に当てられて、グレアはつい口を滑らせた。心の箍が、緩んだ。
「内容にもよるかな。だから手を抜くだとかわざと負けるだとかは、ナシね」
(だから、勝とうって思ったところで勝てねぇって)
小刻みに両の踵を上下させ、そわそわと返事を待つシンシャに、グレアはため息一つ、
「……分かりました。ただし、勝手に期待しといて文句言わないでくださいよ」
と応諾した。
やったー、と両手を挙げて飛び跳ねるシンシャを前に、礼節もへったくれもない大きなため息を吐くのだった。




