【9】捨てる神あれば拾う神あり
――――俺たちは無事にダンジョンから帰還した。
「お帰り、みんな。無事に帰ってきてくれて何よりだ」
「うん、ロクさん」
「ハルもレベルが上がったんじゃないのか?少し大人びたぞ」
「そう?そう言えば……」
――――
ハル(♂)
刀鍛冶工房エレステのスプリングハンマー
レベル:42
スキル:会話、変化、憑依
――――
おお……っ!ダンジョンでの戦闘と採掘でレベルが上がったのか!
「いい玉鋼も採れたからなぁ。ハルも大活躍だぞ」
リューイさんが玉鋼を取り出してくれる。因みにギルドに納めた後、工房に運ぶ分はリューイさんのマジックボックスで運ぶことが可能でさくっと出してくれた。
「ギルドに納める分を除いた、工房に納める分」
「おお……!ありがとう、助かるよ」
ロクさんはその玉鋼を早速確認する。
「足りなければギルドに行けば保管してるし、また1ヶ月後も採掘すれば工房に納められる」
「予約してあるってこと?」
「まぁな。一応刀や玉鋼を使うここらの工房に納品される。残った分はギルドに保管され必要とする工房に届けられる。中には東国に行くものもあるよ」
「こっちから!?」
「ああ。玉鋼は東国で主に採られるが希少な素材だからあっちで足りなくなることもあるんだ」
「そっかぁ。こっちで採れた玉鋼で東国でも造ってるなんて不思議だな」
「そうそう。そのお陰で文化交流にもなってんだ」
「すごいなぁ」
それゆえにロクさんも玉鋼や東国の刀に触れ、刀鍛冶を目指した。その精神は今やジェンにも受け継がれているんだよな。
「師匠、多分これ、ぼくが採掘した玉鋼だ」
『ええ!私たちが掘り起こした玉鋼よ!』
ハンマーもそう言っているし間違いはなさそうだ。
「それならその玉鋼でジェンの作品を造ってみるか」
「ぼくの……?」
「ああ。もちろん俺も見守るが、主体はジェンが務める。最初だし……短刀をやってみるか」
「はい、師匠!」
ジェンが顔を輝かせている。
「楽しみだなぁ、ジェンの短刀」
『ついに嬢ちゃんが作刀すんのか!』
『楽しみ!』
槍のアニキやコテツも楽しみにしている。
「……武器や道具たちに大事にされてるのはロクさんだけではなくて、ジェンもだな」
『君もじゃないか』
火床に炎が灯ったからか、今はくっきりとヨウさまの姿が見える。
「そういや俺もスプリングハンマーだ」
『そう言うことだよ。火の神も楽しみにしているよ』
「やっぱり知り合い?」
『近しい神だからね。君が挨拶に行ってくれたこと、嬉しく思うよ。私は普段ここを離れないから』
「やっぱりここに火床があるから?」
『そうだね。ここが私の力の源だ。だが君は……』
「ヨウさま?」
『外に飛び出し、私たちのかわいい子たちをその目で見てくれる。そんな役目を与えたかった』
「……やっぱり俺がスプリングハンマーに転生したのは……」
『君は前世でそれを望んでいたろう?』
「……」
覚えているのは、病院のベッドの上。
そこからいつも外の景色を見ていた。
「でもどうしてスプリングハンマーだったんだ?」
『君の魂を拾ったのが鍛冶神だったから。さまざまな可能性を秘めたからくりに魂を込めたんだよ』
「確かに変化とか憑依とかすごいよな」
『そうだろう?そう思って選んでよかった』
ヨウさまが優しく微笑む。
スプリングハンマーに戻り、ジェンが水べしする姿を見守る。
真剣に火床を見つめ、熱々に熱した鋼をスプリングハンマーでガコンガコンと整える。
『もう少しだ、ジェン。頑張れよ』
「ああ、ハル」
スプリングハンマーの振動も、炎の前も辛いだろうに弱音ひとつ吐かずに向き合うジェンをロクさんも真剣に見守る。
こうして彼女の成長を間近で見られるのもヨウさまがスプリングハンマーを選んでくれたからだな。
小休憩にリューイさんが差し入れを持ってきてくれれば。
「ん、おいしーい!」
ヒト型でシュークリームを頬張る。
「うん、ご褒美としては最高」
ジェンも喜んでいるようで俺も安心したのだった。また明日も、ジェンの鍛練を見守れるのが楽しみで仕方がない。
※※※
その日、夢を見た。
白い何もない空間に立っているのは白い入院服を着た俺だ。
『この子は転生したとしても対して適したジョブやスキルを手に入れられない』
どこか神聖な女性の声である。
『前世で不遇な生涯を終えたものの魂からこの異世界適性のある魂がここに運ばれてくる』
じゃぁ俺の魂は。
『君は間違って運ばれてきてしまったんだよ』
目尻から涙がこぼれるのが分かった。
『君は元の世界で転生するべきだった。普通の人間として新たな生を得るべきだった。だからこの異世界でも君の世界の普通の人間になるしかない。この異世界での普通の人間が何だか分かるか』
――――分からない。
『ジョブもスキルも持たない。レベルも上がらない、魔力も持たない……まともな人間にすらなれないんだ』
普通の人間が異世界に転生すると言うことはそう言うことだ。
『この世界に召喚される勇者や聖女のようにチートを授けることも出来ない。本来こちらの異世界に転生する魂のように特典を授けることも出来ない。だからと言ってこちらに来てしまった以上、元の世界に戻ることも出来ない。せめて……覚悟を決める時間くらいは与えよう』
涙がこぼれた。どうあっても選ばれなかった魂は人間にすらなれない事実に。
俺は何のために生きて、死んで、異世界に運ばれたんだ。
『人間ではないとしたら』
「……だれ?」
目の前には12歳くらいの白髪の子どもがいた。その緋色の瞳は燃え盛る炎のように美しいと思った。魂の奥底で覚えている美しい炎の色。
『君の世界では……国ではものに魂が宿ると言う。ホドの神を崇めるものたちは丹精を込めて鍛練した武器や道具には魂が宿ると教える』
ホドの神とは何だろうか……?
『私の目に、足になってみないか』
君の……あなたの、目や足に?
『鍛練を積めばいずれそう出来るようになる。人間にしてやることは出来ないが、君を神器とすることはできる。私はそれを担ってきた神だから』
差し伸べられた手は、ひどく小さな手。
何も役割を与えられない世界で、人間にすらなれない世界で役目を与えてくれる。そんな神さまの手を取りたいと思ったんだ。




