【10】スプリングハンマーの生
――――カンカンと今日も工房に独特の音が響く。
自分でも不思議なほどにきれいに四角く折り重ねられた赤い鉄を何度も何度も熱し直しスプリングハンマーで叩き形を整えていく。
「そのリズム、ロクさんと似てきたな」
スプリングハンマーを操る速度やリズムを感じポロリと漏らせば。
「近付けているかな、ハル」
「うん、絶対すごい短刀が出来るよ」
「ああ、作ってみせる」
最初は本当に弟子になって良かったのかと迷いがあったが、今ではジェンもいい顔になった。
※※※
「よし、今日はもうひとふんばりだぞ。ジェン」
「はい、師匠」
次は火造りの工程である。俺もスプリングハンマーからヒト型になり、その様子を見守る。
カンカンと響くハンマーの音。あれは採掘の時もジェンと一緒に活躍した姉さんだ。
「その調子だ」
ロクさんが角度など指示を出し、段々と短刀の形になっていく。
「すごい……」
その言葉しか出てこない。
「曲がってないだろうか」
「初心者にしては上手だ、自信を持つんだ。ジェン」
「はい、師匠」
この工程を見守る立場であることは不思議な感覚でもあり、鍛練に加わったスプリングハンマーとしても誇りである。
※※※
「お昼ごはんが出来たけど、ジェンちゃんは作業中かしら」
「おかみさん!今は土取り中で」
「なら集中させてあげた方がいいわね。作業が終わったらあっためなおすわ」
「はい」
作業が終わったらジェンも開口一番にお腹が空いたと言いそうだしなぁ。
「……ジェンちゃん、頑張ってるわね」
「おかみさん?」
「ジェンちゃんのお父さん……私のお兄さんね、研師なのよ」
「そう言えば……」
そんな話を聞いたような。
「兄さんとしては義姉さんのような拵え師とか私みたいな鞘師ならジェンちゃんの夢を応援しても良かったって言ってたんだけどね」
「……刀鍛冶は反対なんですか?」
「……そう思っていると感じるわね。今も義姉さんが何でも経験してからだって押しきって弟子入りを許可させたのよ」
「そうだったんですね……。でもどうして?女性の弓師もいるのに」
「力作業もそうだけど、火傷もある。兄さんとしては嫁入り先の心配もしてしまうのよ」
「それは……」
女の子だから。分からなくもないのだけど。
「ジェンの周りの武器やハンマーたちはジェンが刀鍛冶になることを反対する男なら絶対嫁入りは許さないと思います!」
しゃべれる俺がその代表になってやる!
「……あら、もしかして蒼鳶も?」
「アニキもです!みんなジェンのこと見守ってますから」
「ふふふっ。それなら安心ね。私も同じ意見なの」
「おかみさん?」
「私も嫁ぐために鞘師を辞めろと言われたら嫁になんて行かないわ。カロクさんは私が鞘を作ることを喜んでくれるからこそ嫁いだのよ」
「はい!おかみさんの鞘はみんなすごいです!」
リューイさんの打刀の鞘もおかみさん作である。アニキもこちらに来てから拵え用の槍鞘を作ってもらったそうだし。
「ありがとう。ハルに言ってもらえると嬉しいな」
おかみさんが俺の髪を撫でてくれる。
「あの子もたくさん学んで腕を上げて、兄さんに認めてもらいたいのよね。私も一緒だから」
だからこそジェンはいつも必死なのだ。
「あの子のこと、見守ってあげてね」
「もちろんです!」
※※※
作業が終わったジェンは案の定『お腹空いた~~』とやって来ておかみさんが苦笑しながら昼ご飯を暖めなおしてくれた。
乾いた後、作業は遂に焼き入れとなる。乾かすために火床に火が灯っていたため、ヨウさまが姿を現していた。
『まるで娘の嫁入りを見守っているようだ』
「いや、ヨウさま何言ってんの。ジェンはまだまだ嫁にやりませんよ」
『君こそ何言ってんの。短刀のことだよ』
「び……ビックリした!てかその、女性なのか?この短刀」
『まだ宿ってはいないが何だかそんな気がするんだよね』
「さすが鍛冶の神さま!」
「何の話をしてるんだ?」
ジェンが首を傾げる。
「ヨウさまとちょっとね」
「ヨウさまと……?ぼくの短刀はどう言ってるだろうか……」
「楽しみにしてるよ」
『もちろんだ』
「それならこの後も頑張らないと」
「焼き入れだからな」
ロクさんがやって来て火の温度の微調整を指示しつつ、遂に焼き入れが始まる。
「無事に出来るかな」
『失敗したとしても成功したとしても、頑張ったジェンの思いだけは変わらないよ』
「うん……言われてみればそうだ」
焼き入れが終われば、見事に短刀が出来上がっている。
「わぁ……すごい」
「うん、本当に作ったんだ」
ジェンも感無量と言った感じで短刀を見つめている。そんな時だった。
「……カロクはいるか」
突然入ってきた男性に誰だろうと首を傾げる。
「……父さん」
ジェンが驚きながら告げる。え……お父さんって研師のお父さん!?
「お義兄さん!?いきなりどうして……」
「ここの工房の研師をやっているのはうちだ。見に来て何が悪い」
「いえ、悪くはないですが」
ロクさんがたじたじである。職人同士ではあるものの、やはり義兄だと気を遣うのだろうか。
「ジェン……その短刀は」
「……その、ぼくが作りました」
「……」
お父さんはその短刀を注意深く観察しているようだ。
「その……ぼくは」
「……カロクのものと比べるとまだまだだ」
「……それは」
うう……っ、ジェンがせっかく頑張って作ったのに!ジェンがかわいそうだ!ついつい言い返そうとしたのだが。
「だが研けばお前なりの良さが出る」
「……えっ」
「後でうちに持って来なさい」
「研いでくれるの!?」
「ここの工房の研師はうちだと言っただろう。お前はカロクの弟子なんだから、うちが研ぐ」
むしろ他に回すなと言っているような言い方だ。
「うん……ありがとう、父さん」
ジェンが涙ぐむ。
ジェンの仕事を見たお父さんは、ジェンが刀鍛冶になることを応援してくれている。認めてくれたってことでいいのかな。
「火傷や怪我には注意しなさい」
「うん」
そう言って去っていく後ろ姿はどこか誇らしげに映ったのはきっと、俺だけじゃないはずだ。
※※※
――――約1ヶ月後。
工房にいつもの面子が集まっている。そして工房に戻ってきた短刀は美しい輝きを放っていた。
「父さんの仕事って……改めてこんなにすごいんだな」
「きっと兄さんも張り切って研いだはずよ」
おかみさんがクスクスと微笑む。
「義兄さんだけど、次も必ず持ってこいって」
ロクさんが苦笑する。
「あのおっさんも素直じゃねえなぁ」
リューイさんもそう言いつつもジェンの短刀には納得の表情をみせる。
「うん……!次はもっと喜んでもらえるように作るから」
ジェンが笑顔で頷く。
「ハル、次もよろしく頼むよ」
「もちろん!俺も頑張るからな!」
その様子にクスクスと微笑むのは短刀の声だろうか。やはりロクさんもジェンも愛されてるなぁ。
※※※
――――
ハル(♂)
刀鍛冶工房エレステのスプリングハンマー
レベル:50
スキル:会話、変化、憑依、自動魔力吸収
――――
父娘の絆を見届けたスプリングハンマーはまたパワーアップしたようだ。
火を落として閑散とした工房に、ほんのりと見える炎の瞳も喜んでいるように見える。
「俺……スプリングハンマーになれて良かったかも」
『後悔はしてないのかい?』
「しないよ。むしろ目一杯楽しむつもり。いや……もう楽しんでるよ。ありがとうな、俺の神さま」
自らエネルギーまで吸収出来るなんてさらにすごいスプリングハンマーになってしまった。
『その言葉を聞けて私も嬉しいよ』
人間にもなれず捨てられるはずだった魂を拾ってくれた神さまがくれた生。
この工房で歩むこれからも楽しみで仕方がない。
【完】




