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異世界転生したらスプリングハンマーだった  作者: 夕凪 瓊紗.com


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5/10

【5】自慢のスプリングハンマー



――――刀鍛冶工房エレステ


リューイさんに案内され今度は正面玄関口からロクさんの居住スペースにやって来た。


「いらっしゃいリューイさん。ジェンちゃんと……その子は?」

出迎えてくれたのは青髪に桜色の瞳の女性である。


「スプリングハンマーのハルだよ」

「え……っ、でも普通の男の子だわ」

「何の奇跡か、変化のスキルを身に付けたらしい。俺たちが証明するんだから間違いないよ」

「あらまぁ……リューイさんが言うのなら。でも旦那が見たらさらにビックリしてぎっくり腰、悪化したりしないかしら」

ええ……っ、旦那ってのはロクさんだよな?つまりこの女性はやはりおかみさん。しかしビックリしてロクさんのぎっくり腰が悪化したら……。


「ふふっ、ジョークよ、ジョーク。もうほとんど良くなっているから上がって」

「ええぇっ」

おかみさんって結構茶目ッ気があるのだろうか?


おかみさんに案内されて寝室に通されればロクさんが横になっている。ただ寝室なので槍のアニキはおかみさんに元の位置に戻してもらった。


「リューイじゃないか。ジェンも……それから……」

ロクさんが俺を見る。


「その……俺」

いざ名乗り出ようとすると、ついつい縮こまってしまう。

「その声……まさかハル?」

「……ロクさん、分かるの?」

「もちろんじゃないか。お前は俺の自慢の相棒……スプリングハンマーだぞ」

「ロクさん!」

ロクさんがゆっくりと身を起こせば思わずがばっと抱き付く。


「はは……嬉しいな。会話できるだけじゃなくて会いにまで来てくれるなんてな」

「ロクさん……っ」

スプリングハンマーとして生まれた俺にとっては目覚めた時に頭を撫でてくれたロクさんが親代わりのような存在だ。


「ハルのお陰でさらに良くなった気が……あいたた……」

「師匠っ!まだ無理は……」

ジェンがロクさんに寄り添う。


「あはは……そうだなぁ。もう少しだけ、工房はジェンに任せていいかな」

「ぼくは……」

ジェンは少し戸惑いがちにロクさんを見る。


「ジェンは大切な弟子だからな」

「師匠は女のぼくを弟子に取って後悔してない?」

「後悔……?後悔なんてするもんか。ジェンが刀鍛冶が本当に好きなのは見ていて分かるからな」

「はい……師匠」

涙ぐむジェンにロクさんは少し驚きながらも優しくジェンの頭を撫でていた。


ジェンは改めて工房で一人前の刀鍛冶になる決意を決めたらしい。


※※※


火床の炎がパチパチと揺れる中、刀工の師弟がカンカンと独特の音を響かせる。


『カロクの打った武器はみな、よい魂を宿すね』

スプリングハンマーの横に降り立った上司が優しく微笑む。

その後ろには俺の話し相手にと槍のアニキももたれかかっており、俺たちを見守ってくれている。


『神さまはだからこの工房に住むことにしたのか?』

何となくそんな気がした。そして俺と言う神使が生まれたのも。


『一度あの男の仕事を見たら気に入ってしまうからね』

『うん、俺も見ていて楽しい。ジェンも生き生きしてるよな』

『俺もだぜ』

槍のアニキが頷く。

『だろう?』


『うん。そう言えば神さま』

『ん?』

『神さまは名前はないの?』

『鍛冶神だ』

『それだと他の工房の神さまと区別がつかないじゃん』

『うーん、それなら好きに呼んでいい』

好きにって……そうだなぁ。しかも女神か男神かいまだに分からないし。


『ヨウって言うのは?』

ギリ中性的な響きだろう。


『太陽みたいな瞳だから。太陽のヨウ』

『ほう……なかなかいい案だ。ヨウさまと呼ぶように』

『はーい、ヨウさま』

無事に上司の名前が決まったようで何よりだ。


「お邪魔するぞー」

リューイさんが工房を訪れると師弟も作業をひと休憩したらしくスプリングハンマーの側に集まってくる。


「これを見てくれ」

リューイさんが見せてくれたのは。


『打刀』

「そ。拵えが完成したんでな」

刀は刃を作っただけでは終わらない。その後研いだり拵えを作ったりと時間がかかるそうだ。


『研ぎはジェンの父ちゃん、拵えはおかみさんやジェンの母ちゃんだっけ』

「そうそう。さすがは職人技。俺の脇差やカロクが持ち帰った刀を参考に作ってくれた」

(まあ俺も前世にやってたから情報提供したんだけど)

最後にリューイさんがこそっと教えてくる。このひと、刀に詳しいし扱いも一流で拵えもって何者だったんだろうな……?さすがに刀鍛冶ではなかったそうだが。


『どうであろう?この姿は』

ツンデレな脇差に比べ、打刀はだいぶ大人びている。

『上品なのに力強そう。似合ってるよ』

『うむ、そうだろう』

見事な拵えを纏った打刀も心なしか嬉しそうである。


「何だか刀工集団みたいでかっこいいな」

「鍛冶屋を家族でやってたらそうなるな。みんな大切な工房の家族だよ」

リューイさんの言葉にロクさんが笑う。ロクさんの実家も鍛冶屋だが主に盾や槍を得意としているそうだ。東国で槍のアニキを作ったのもそれゆえだろうか。

そして鍛冶職人を支えるおかみさんたち職人も鍛冶屋にとっては大切な存在である。


『学ぶことがたくさんだな』

『そうしてどんどん賢くなっていっておくれ、ハル』

『それじゃぁ……』

スプリングハンマーはヒト型を取る。


「みんなに紹介したい工房の家族がいるんだ」

「ハル?」

ロクさんが驚いたように俺を見る。


「この工房の鍛冶神ヨウさま。俺の上司でいつもみんなを見守ってくれている守り神だよ」

俺の視線の先には、小さな守り神がいるがみなの視界には映らない。だけどふわりと俺の袂を揺らしてみるのは『ここにいるよ』と言う合図だろう。


「それなら神棚にその名を刻まないとな」

ロクさんがそう告げれば、ヨウさまが嬉しそうに微笑んだ。



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