【4】ハンマーと槍
――――ジェンを追いかけると言っても何処へ行けばいい?
ロクさんの居住スペースを結ぶ勝手口には……ジェンの靴はない。
『おい、お前』
「誰?」
あちこちを見回しても誰もいない。
『俺だ俺!ここに立派な十文字槍……クロススピアがあんだろうが』
「わぁ……立派な槍!ロクさんの作?」
刃の肌を覗いてみれば鉄色の髪に銀色の瞳、16~18才だろうか。これが俺のヒト型。
それと共に槍に沸き立つ見事な肌に魅了される。
『もちろんさ。カロクが東国で修行の際に俺を作ったんだ』
「それが何でしゃべれるんだ?」
『職人は作品に魂を込めるって言うだろ?なら、俺にも魂が宿るってもんだ』
それならリューイさんの脇差とも話せることがあるだろうか?しかし今はだ。
『俺を連れてきな』
「いいのか?」
『背丈が高いからなぁ。あの小せえ嬢ちゃん捜すのにも役立つぜ』
「それなら。でも成長期なんだから、小さいはダメだよ。これから大物になるんだ」
『そうかそうか。それもそうだな!すまんすまん』
「それじゃ、行こう!槍のアニキ」
『兄……まぁ俺の方がアニキだな!』
「うん。俺はハルでいいよ」
槍のアニキを持ちながら、初めての外の世界に繰り出す。
辺りはまさに西洋ファンタジーの世界で、その中に和風の刀鍛冶工房があるのが不思議なほどだ。
『おい、ハル!あそこに見えた!』
「路地裏……!」
少し不気味だがジェンを捜すためだ!
「女のくせに」
何だ……?路地に集まるのは2、3人の青年の後ろ姿。みな剣を持っている。
「女のくせに鍛冶工房に出入りしてるんだって?」
「鍛冶神の怒りを買うってみんな言ってたんだよ!うちの工房にも影響が出たらどうしてくれる!」
「生意気な女!男みたいな格好しやがって!」
どうやら別の鍛冶屋の息子とその仲間らしい。そしてボーイッシュな女の子と言えばジェンで間違いない。
「おい、やめろ!」
声を張り上げれば剣を持つ青年たちが武器を構えて振り返る。
うう……どうしよう。槍で戦えるだろうか。戦い方なんて何も知らないのに!
『俺にその身を委ねればいい』
アニキ?
『かわいい弟分のために、アニキの俺が戦ってやんよ!』
とは言えどうすれば……。
――――
ハル(♂)
刀鍛冶工房エレステのスプリングハンマー
レベル:30
スキル:会話、変化、憑依
――――
『これはプレゼントだよ』
俺の神さまの声がした。
『君たちは私の大切な、大切な……』
最後の言葉は聞き取れない。でも……。
「分かったよ。ありがとう神さま。スキル……憑依」
『よっしゃぁまっかせなぁっ!』
アニキの意思が俺の身体を動かす。瞬時に間合いを取れば槍を構え一気に剣を弾き飛ばす。
「『終わりだァッ!ガキども!』」
「ひ……っ」
「何だコイツ!」
「逃げろおおぉっ」
青年たちは自分たちの剣を放り出したまま逃げていく。その後にはきょとんとするジェンだけが残っていた。
※※※
「その、信じられないかもしれないけど、俺はハル。レベルが上がってこの姿になれたんだ」
「とても信じがたいけれど、声もしゃべり方もハルだよ」
「うん、ジェン」
「だけどさっきの槍は?クロススピアだよね。すごい槍さばきだった」
「ああ、それは……俺、武器の声が聞こえるんだ。それでスキル憑依の力で槍のアニキが槍さばきを操ってくれたんだ」
「そんなことまで出来るんだ。と言うかその槍、師匠の槍だよね」
「さすがに知ってた?」
飾ってあったもんな。
「見てもいい?」
『もちろんだぜ!』
「アニキももちろんだって」
「ありがとう」
ロクさんの槍をじっくりと見ているあたり、やはりジェンは本当に鍛冶が好きなのだ。
しかしながら気になるのは……。
「お前たちは置いていかれてしまったんだな」
3本の剣を集め、語りかける。
「……お前たちはしゃべらないのか?」
「剣がしゃべる?面白い話だな」
聞き覚えのある声に振り向けばリューイさんが立っていた。
「リューイさん!」
「その声……やっぱりハルか?ジェンも一緒にいるみたいだしな」
「分かったの?」
「東国には職人は作品に魂を込めると言う。そしてそれゆえに持ち主の思いによって進化すると」
進化って……俺が変化で人間の姿になれたように……?
俺は変化のスキルを得たこと、憑依のスキルで槍のアニキと戦ったことを説明した。
「すごいもんだな」
「うん、アニキがね。だけどこの子たちはしゃべれないみたい」
「ふーん……この剣なら工房に覚えがあるな。これらも鍛冶職人が精魂込めて作ったんだろうが……持ち主の教養の差かねぇ。ま、工房に返してやるか」
「分かったよ。ところでリューイさんの脇差は……」
しゃべるのかな?
『何だよ、じろじろ見んな』
「ツンデレだ!」
「ぶ……っ」
リューイさんが吹き出す。
「お前らしいよ」
『屈辱だ!覚えとけハンマー!』
クスクスと笑うリューイさんに反して脇差はツンを大放出してくる。
「ま、そんなわけで工房に行こうかな。そしてジェン!そろそろ行くぞ」
「え、リューイさん?いつの間に!」
どうやら槍のアニキに夢中で気が付かなかったらしい。
例の工房に剣を届ければ工房主が頭を下げてきた。
「本当に申し訳ないことをした。息子たちはきっちり叱っておく。それから……女性の刀鍛冶だったか」
工房主がジェンを見る。ジェンはビクリと肩を振るわせるが、工房主は優しく微笑んだ。
「鍛冶家業はまだまだ男社会で大変だろうが、頑張れよ。エルフの弓師みたいにな」
女性の弓師の存在は鍛冶職人たちの間でも有名なのか。
「私は……女なのにいいんですか?」
「ダメな理由はない。何せ鍛冶屋で祀られてんのは大体女神さまだぞ?女だからダメだなんて言ったら女神さまに怒られてしまう」
そうだったのか。あれ……?なら俺の上司って女神?それとも男神?
『さぁて、どっちかな』
どこかでおかしそうに微笑む上司の声がした。




