【3】刀鍛冶の弟子
――――今日は昨日とはまた違う客が来た。
「……お邪魔します」
工房に入ってきたのは……藍色の短髪に緋色の瞳に中性的な顔立ちの少年であった。
『ひょっとしてお客さん?』
「うわぁっ!もしかして……スプリングハンマー?」
『え?俺のこと知ってるの?』
「その……カロクさんに聞いてる」
『何だ、俺もビックリしたよ。だけど君はどうしてここに?』
「ジェンだよ」
『ジェン!俺はハルだよ』
「ハル。ぼくは……」
「おーい、ジェン。もう来ていたか」
「カロクさん」
ロクさんはジェンの隣に並ぶと何だか畏まったように俺の前に立つ。
「その……ハル。実はその、彼女は姪っ子で……弟子に取ろうと思ってるんだ」
え……?ロクさんの弟子?しかも姪っ子って……。
『女の子ぉ――――っ!?』
「その……昔から女っぽくないのは自覚してる」
『そ、そう言う意味じゃなくて!その、ジェンはジェンらしくていいんじゃないかな?俺はジェンには好感を抱いてるよ』
「ハル……」
ジェンはホッとしたように肩の荷を下ろす。
「それなら俺もホッとしたよ」
『ロクさん?』
「鍛冶ってのは力仕事だから、なかなか女の子の弟子ってのは難しいところがある」
『でもジェンは……』
「ぼくはずっと……鍛冶屋になりたかったから。周りには反対されたけど」
『でもジェンの夢なら叶えたっていいじゃないか』
「ハル……」
ジェンが嬉しそうに笑む。
「ハルが賛成してくれて良かった。ハルも鍛冶屋の一員だからな。ハルの意見も聞きたかったんだ」
『俺の……?』
「東の国では鍛冶屋の火床には神が宿ると言われている。だからここの付喪神のハルにとな」
『いやいや、俺は付喪神ではないかも……』
『けれど神の使いではある』
君は……いつも見かける白髪の子?
『私は歓迎するよ。鍛冶屋の神と同じ緋色の瞳、面白そうな弟子だ』
ええと……その……君、もしかして神さま?
白髪の子はくすりと微笑むとふっと姿を消す。そしてその……君って俺の上司だったの?
それなら俺がスプリングハンマーに転生したことにも一枚絡んでいるのだろうか。しかしながら今は。
『ええっと……多分ジェンは工房に歓迎されているよ』
だって鍛冶屋の神が言うのだもん。
「ありがとう、ハル。ぼくは男性と比べたら筋力も体力も劣るかもしれないけど……」
『そのために俺がいるんだろ?任せとけって』
「うん、ハル」
「でもスプリングハンマーの衝撃も結構来ると言うか……」
そうなの!?ロクさん!
ううー……ジェンがやる時は出来るだけ優しくしないと!
※※※
工房エレステに弟子としてジェンがやって来た。ジェンはロクさんに教えられながらスプリングハンマーを操作することも増えた。
「う……っ」
『大丈夫?ジェン』
「構わない。これでも握力はある方だから」
『そう?無理しちゃダメだけど……俺も精一杯やるぞ!うおおぉーっ、ガッキイイィンッ』
「お、やってるやってる!頑張ってんなぁ。カロクの嫁さんに土産渡しておいたからジェンも食べろよ」
「ありがとう、リューイさん」
たまにやって来るリューイさんもジェンを歓迎してくれてるみたいだし、良かった良かった。
こうして忙しく過ごしているうちに俺のレベルもだいぶ上がった。
――――
ハル(♂)
刀鍛冶工房エレステのスプリングハンマー
レベル:29
スキル:会話
――――
そんなある日のことだった。
「……おはよう、ハル」
『おはようジェン!どうしたんだ?何だか元気がないけど』
「実はその……師匠がぎっくり腰で暫く工房に来れないって」
『ぎっくり腰!?ううー、それは安静にしなきゃだな』
「ぼくのせいだ」
『何言ってんだよ、ジェン』
「女のくせに鍛冶屋の弟子になんて入ったから鍛冶屋の神さまが怒ったんだって」
『男女なんて関係ないだろ?刀鍛冶はジェンの夢なんだから!』
それに神さまはジェンを気に入っていたじゃないか。
「でも……周りはそう言うんだ。師匠やおかみさんはそんなことないって言ってくれたけど」
『そんなのジェンの努力を見たことのないやつが勝手に言ってるだけだって』
「だけど……っ、やっぱりぼくは」
ジェンは踵を返し工房から出ていってしまう。
『ジェン!』
ジェンを追いかけたい。だけど俺はスプリングハンマー。追いかけるなんて不可能だ。くそう……何で俺には足がない。この身体は機械だから動けない。俺はどうしてスプリングハンマーなんだ……っ。
『君とリューイの前世の世界には』
『……神さま?』
いつの間にそこに……?
『いや、祖国には』
『日本ってこと?』
『そうだね。歴史上唯一の女性の刀鍛冶がいたそうだ』
『初めて知った……』
『そう。そしてこの世界にはエルフの凄腕の女弓師がいる。武具に魅了されイバラの道でも歩む伝説の女職人がいる。だから私はこの火床でジェンの成長を見守るのが楽しみなんだ』
この世界には俺が知らないだけでたくさんの女性の職人が活躍していたんだな。
『ほら、こんな小さなことでも経験値にはなりうる』
『え……』
――――
ハル(♂)
刀鍛冶工房エレステのスプリングハンマー
レベル:30
スキル:会話、変化
――――
次の瞬間、懐かしい前世の感覚が蘇る。
肌に小さな炭の破片が食い込むのも構わず、足は駆ける。
薄絹の着物は神さまからのサービスだろうか。
『さぁ、お行き』
「ありがとう、神さま!」
どうして神さまは俺をスプリングハンマーに転生させたのだろう。レベルが上がるごとにこんな便利な特典をつけてくれたのだろう。
だけどその答えを俺はもう、教えてもらっている気がするんだ。
「ジェン!」
だから早くジェンを追いかけないと。




