【2】地産勇者と日本刀
――――今日は作業前。閑散としながらもそんな雰囲気も嫌いじゃない。外気の暖かさもあってうとうととしていれば。
カツカツと歩いてくる足音は……ロクさんのじゃない?
「おーい、カロク?いないのか?」
『えっと……どちらさま?お客さん?』
ついつい呟けばその青年は驚いたように辺りを見回す。ダークブラウンの髪に水色の瞳。年齢は20代そこそこだろうか。
「誰だ?まさかどろぼ……」
『失礼な!俺はこの工房エレステのスプリングハンマーだっての!ガッキイイィンッ』
「うわっ、びっくりした!」
青年は音で俺の方を振り向く。
『一応ハルって名前もついてるんだからな!』
「へぇ……スプリングハンマーがしゃべるなんて驚いたが……ハルって言うのか。俺はリューイ。一応勇者だが冒険者業の方が本業だな」
『へぇ、冒険者かぁ……って勇者!?滅茶苦茶すごいじゃん!』
「いやぁ、全然。俺はこの世界の出身。勇者ってことで優遇されるのはチート特典持った召喚勇者くらいだよ」
『ふーん。この世界では地産勇者は優遇されないってこと?』
「そうそう。聖剣も自分で注文して自分で金払うの。召喚されたら国が与えてくれるがな」
『ならリューイも自分で聖剣を?』
「いやいや、俺の武器はこれ。日本刀」
リューイが見せてきたのはまさに日本刀だったのだ。
『うっそ、すげー!本物のにほんと……ってお前、何で日本を知ってるんだ!?』
「ああ、つい……ってお前も!?」
衝撃的なことが判明した瞬間である。
※※※
「ふーん、お前も日本からの転生者ねえ」
『そうだけど。まさかリューイもだったなんて』
「だけどお前、何でスプリングハンマーなんだ?」
『俺が聞きてーわっ!』
うーん、心当たり……心当たり。脳裏の片隅に浮かぶのは俺にヒントを与えた白髪の子……?
2人でわちゃわちゃとしゃべっていれば、工房の主が顔を出す。
「リューイ、来てたのか」
「ああ。注文した刀のこともあるしな」
そっか、だからここに。
「もうハルとしゃべってたから説明は省くが、ハルも一生懸命打ってくれてるよ」
ふむ、俺はリューイの刀を打っていたんだな。
「ならハルにも感謝だな」
『おうっ!任せておけよ!詳しいことは知らないけど!』
「おいおい」
呆れ顔のリューイに反してロクさんはクスクスと苦笑している。
「まぁ任せておけ、ハル。俺も師匠に鍛えられたからな」
「そういやロクさんの師匠って……」
「ここから遠い東の国で刀鍛冶をしているんだ。俺は修行した後、この国に戻ってきた。ここで刀の素晴らしさを広めるつもりだ」
『うわぁっ、カッコいいじゃん、ロクさん!』
「そう言ってもらえると俺も鼻が高いよ」
『俺も頑張ってスプリングハンマーを振るうぞ』
「ありがとうな、ハル。でも今日は火造りだから」
『……へ?』
※※※
火床の炎が燃える中、ロクさんは熱々に熱した鉄を自らハンマーで叩く。あの工程はどうやら手作業のようだ。
『俺はまだまだ知らないことばかりなんだよなぁ』
「そんじゃ、この刀のことは分かるか?」
一緒に見学していたリューイが自らの刀を見せてくる。
『この刀のこと?』
「そう。この刀の種類だ」
『種類って……あ、大太刀なら知ってる!』
「確かにそれも刀だがさすがにそこまでの長さじゃないよ。これは脇差」
『わきざし……』
「他にも太刀、小太刀とか」
『あー、聞いたことある!』
「そ。そして今作ってもらってるのが打刀」
『うちがたな……うちがたな。よし、覚える!』
「その調子だな」
『おう!』
――――
ハル(♂)
刀鍛冶工房エレステのスプリングハンマー
レベル:12
スキル:会話
――――
あれ……?レベルって知識でも上がるのか?
『クスクス』
またあの白髪の子だ。そしてやはりロクさんにもリューイにも見えていないようだ。
『鍛冶に関する知識だからだよ』
だから刀の種類を覚えることによって経験値が上がったのか。
『それからその工程を学ぶことも』
白髪の子の視線の先ではハンマーを振るうロクさんの姿がある。
『レベルが上がればもっと出来ることが増えるよ』
君は誰なんだ?
『クスクス』
白髪の子は微笑みを返すとすうっと何処かへ姿を消してしまった。
しかし経験値か。経験値を貯めればもっともっと出来ることが増えるんだな。




