慣れ、業…?
恵のカバンって…便利だなぁ
「マキさん!」
竹田達三人から事情聴取を終えた厚田と恵は情報共有のために洞窟を調査中の巻達と合流した。とはいえ梶原と轟木は洞窟の中へと入ってしまったのだが。
走って戻ってきた二人の姿を認め巻は手元のモニターから目を離した。
「どうでしたか」
「とんでもないことが分かりました。和泉さんが復顔した頭蓋骨の写真を漁師の方たちにお見せしたたんです。彼らは生まれも育ちもこの島である程度の人物に関しては知ってるようでしたので。それでその写真を見せた結果、三十年ほど前に姿を消した子供の可能性が出てきました」
「三十年前ですか……確か鑑定結果では長い間水の中にいたとかどうとか?」
「はい、その子は三十年前水遊びをしていて姿を消した……らしいです」
「らしい?」
巻は厚田からの報告に首を傾げた。その横から恵は補足をするような形で説明を続けた。
「この洞窟のちょっと先にある小さな池、今は畑用の水汲み場となってますが昔は今より水質が綺麗で潜ったり出来たらしいです」
「水汲み場……ああ、さっきドローンでもそれをに認識しました。今轟木君と梶原君がその周辺を探索していると思います」
恵たちは傍らにあったモニターを覗き込んだ。どうやら巻の操縦していたドローンは少し先を進んでいるらしい。
「その小さな池の先には何かあったんですか?」
「今のところ何もないですね。教わった地図で行くと出口に出るでしょう」
「なるほど……」
「それで……その子について他には?」
「ああ、その子の母親が今もこの島に住んでるらしいんですけど……」
厚田は遠慮がちに恵の方を向いた。その意図を察して恵が引き継ぐ。
「長谷川ウメさんっていうおばあちゃんです。この島に初上陸した際、色々と教えて下さった方です。実は漁師さんたちに話を聞いた後彼女にも確認のため話を聞こうとしたんですけど……どうやらウメさん体調が優れないらしくてお会いすることが出来ませんでした」
「末期のガンだそうです」
この島の医療は充実……しているとは言えないが最低限の設備は整っていると聞いた。そしてこの島の設備ではどうにも出来ない場合は島の外にある大きな病院で治療することになるという。もちろんそれは長谷川にも通ずることだった。しかし彼女はそれを拒否した。島から出ることなくこの島で出来る限りの治療をする。延命治療は望まない。そう本人が言っていたと先ほど立ち寄った役場で職員の幾田が教えてくれた。
「そうですか……となると確信はその子が長谷川さんの息子さんだと言う確信は持てない」
「一番分かっている人に聞けたら良いんですけどね……ちなみに島にいる他のご高齢の方にもお話を聞きましたが全員がウメさんの息子さんに似ていると答えて下さいました」
「なるほど……」
神妙な表情で頷いていた巻だったが突然動きを止め耳元のインカムに手を添えた。その眉間には少しずつ皺が浮かび上がっている。
「……どうかしましたか?」
恵が怪訝そうな顔をしながら巻の顔を覗き込んだ。しばらくすると黙り込んでいた巻がその重たい口を開いた。
「……轟木君が池に水から飛び込んだそうです」
「へ?」
三人が慌てて現場へ駆け寄るとそこには呆然とした表情で池の前で膝をついて項垂れている梶原の姿があった。
「カジさん!」
厚田の呼びかけによろよろと顔を上げた梶原は力なく笑ってこう言った。
「……アイツ飛び込みやがった。アイツが何を考えているのか分かんないよ、俺は」
「あ、ショックで落ち込んでるわけじゃないんすね。ただビックリしてただけだ。なんだ、安心した。ロキさん死んだのかと思った」
厚田は若干的外れな事を言いながら目の前に広がる池を見た。恵はよく分からなかった。なぜこんなにも落ち着いているのかが。思わず隣で黙っている巻へと視線を向ける。するとやがてその視線に気がついたのか巻は恵の方をチラリと見ると小さく笑った。
「大丈夫ですよ。彼は上がってきます」
そう言われたが恵はにわかに信じ難かった。なぜかというと轟木は以前、事件の捜査中に川のほとりを歩いていたら不意に川へ何者かに引きずり込まれたことがあるからだ。……しかし思い返してみればその時も自力で川から上がってきたような気もする。
「そうですか……じゃあちょっと待っときます?」
恵の問いかけにしっかりと頷いた三人は黙って池の方へと視線を向けた。やがて「どれくらいで上がって来るかなぁ」「意外とすぐに上がってくるかもしれませんよ」「まだ少し暖かいとは言えもうすぐ冬ですからね。水温低いんじゃないかな……風邪ひいたら自業自得ですよね」などと雑談を始めた。相変わらず緊張感など皆無だがもう慣れてしまった。
恵も三人に習って水面を眺めているとやがてブクブクと小さな泡が浮かんできてそこから人影が姿を現した。
「ぷはぁっ!やべ、自分がコンタクトつけてると忘れてたわ。……あれ、何で全員集合してるの?」
心配ご無用。轟木が姿を現した。水面から顔だけを出し怪訝そうな顔をしている。
「お前が池に飛び込んだって報告したら皆来たんだよ」
「へぇー俺愛されてるね」
「寝言は寝て言えバカ」
顔に小さく笑みを浮かべていた梶原だったがやがてうって変わって真面目な表情で轟木に問いかけた。
「何か見つかったか?」
「あー。それなんだがな」
轟木は気まずそうに視線を逸らしながら小さく呟いた。
「行けるところまで行けたと思うんだが生憎俺自分がコンタクトつけてるの忘れててな。目を開けることが出来なかった」
てへぺろ、と効果音が付きそうな表情をして見せた轟木に対して厚田はそれはそれは大きなため息をついた。
「流石猪突猛進の擬人化……」
その呟きにムッとした表情を向けた轟木だったが厚田の横で巻が笑いを堪えているのを見標的をそちらへと変更した。
「何笑ってるんですか」
「いや、笑ってないですよ」
「はいはい」
と、言ったところで轟木は自身がまだ池の中にいたことに気がついたらしい。思い出したかのような表情を恵に向けた。
「そういえば今ゴーグル持ってるか?」
「はい?」
思わず恵は首を傾げる。他の三人も意味が分からず顔を見合わせている。
「ゴーグルってあのプールの?」
恵が問いかけると轟木は黙って頷いた。
「いやいや、流石の丸ちゃんもゴーグルを常に持ち歩いてるわけないでしょ」
「ありますよ」
「あるんかい」
恵は肩から掛けていたカバンの中身をゴソゴソと探りやがて黒色のゴーグルを取り出した。
「はいどうぞ」
「サンキュ」
ゴーグルを受け取りお礼を言った轟木は再び池の中へと潜って行った。
「なに、あれ」
「あれも長年のバディだからこそ成せる業ですかねぇ」
「あのカバンの中どうなってるんだよ」
背後から聞こえてくる呟き(?)には気づかないふりをして恵は水の中へ消えて行くバディを見送った。
そしてその池の底から頭部の無い子供の白骨化した遺体が見つかった。




