珍しい組み合わせ
巻班の五人は明領島に再上陸した。班長の巻は役割分担をするため散らばっていたメンバーを呼んだ。
「二手に分かれたいと思います。まず島の住民の方々に復顔された頭蓋骨の写真を見せて何か心当たりがあるかどうか、それを丸中さんと厚田君に。そして島の洞窟にある立ち入り禁止エリアの捜索を轟木君と梶原君にお願いします。私は洞窟の方をこのドローンで撮影しながら人間では通れないようなところも重点的に捜索したいと思います」
巻は持ってきたドローンが入ったケースを持ち上げた。今回はドローンが大活躍だ。
「珍しい分け方ですね」
梶原が言うのは普段の組み合わせとは違う人員だからだろうか。普段は恵と轟木、梶原と厚田という組み合わせになることが多い。梶原の意見に同意するように他の三人も不思議そうな顔で頷いている。
「適材適所ってやつですよ。丸中さんは一度この島に来ており住民の中にも面識のある方がいらっしゃるでしょう。厚田君は他の二人に比べて若いですから初対面の人もそれほど警戒することなく話を聞き出すことが出来ると思いましてね。轟木君は持ち前の『勘』で洞窟の中に何かあるか探して欲しいんです。梶原君は……まぁ仮に私がこの島の住民だったとするとどこか胡散臭くて話をするのが嫌だなぁって思ったから轟木君の方へ」
「……不思議だ。一見すると超失礼な言葉に聞こえるんだけどなぜか自分自身が納得しちゃってる。なんか悔しい」
呆然と言葉を紡ぐ梶原に対して轟木は慰めるかのように肩を数回優しく叩いた。
「慰めんなバカ」
恵と厚田は島民に話を聞こうと人を探しているのだが中々人を見つけることが出来ていなかった。
「……こんなに人居ない事ある?」
「もしかして私たちの事を警戒しているんじゃないでしょうか?」
「警戒するも何も俺たちの他にも警察官は複数いる。それ全員を避けるのは無理だよ。何かあったのかな?」
恵は辺りを見渡していると少し離れたところにある漁船の傍らに人影を見つけた。
「あっ、先輩!あそこに人影が!」
「ん?あ、ほんとだ」
二人が近づいて行くと向こう側も気がついたのか怪訝そうな顔を向けられた。漁船の傍らにいたのは漁師と思われる男性三人だった。その中の一人に一番最初、恵たちをこの島まで連れてきてくれた竹田がいることに気がついた恵は小さく会釈をした。
「こんにちは、今少しよろしいですか?」
警察手帳を掲げながらやって来た刑事二人に漁師たちはさらに怪訝そうな顔を向けた。
「なんだいアンタら。また話を聞きに来たのか?俺たちはな昨日から散々事情聴取されて参ってんだ。さっさとこの島から出て行ってくれ」
その内の一人が迷惑そうに片手でシッシッと追い払うような動きをした。しかしそんな事では引くことは出来ない。
「すいませんね。無理なんですよ。貴方たちの仕事が魚を取ることのように僕たちにも僕たちの仕事があるんですよ。時間をそこまで取らないんでご協力……お願いできますか?」
有無を言わさぬような微笑みで悟るように問いかける厚田に対して漁師たちからは思わず拍子抜けしたかのような「お、おう……」という言葉が返ってきた。
――厚田先輩も中々だよなぁ。
先輩の背中を見て育って行くのは良いことだと恵は思っている。しかしそんな背中にも『見ても良い背中』と『見て育つには不向きな背中』など種類がある。見事に厚田は梶原と轟木の良くない背中の部分を見て育っている気がする。
「これで僕たちが仕事をしなかったら『税金ドロボー』って言われるんですよー。ほんと勘弁して欲しいっすよねぇ」
――本当にあの二人はとんでもない後輩を育てていると思う。
「すいません。少しだけでいいんで時間いただけますか?」
厚田の影からひょこっと顔を覗かせた恵に漁師の一人、竹田は目を見開いた。どうやら恵のことを思い出したようだ。
「あんたあの時の!」
「その節はお世話になりました!ほんの数分でいいんです、ちょっと聞きたいことがあって」
「まぁこんなことになって刑事さんの手間をかけさせるのには気が引けるからな。何でも聞いてよ」
「ありがとうございます!」
恵はお礼を言うと早速本題へと入った。
「質問があるんですけど……この島から過去に行方不明になった方などはいらっしゃいますか?」
「行方不明……?」
漁師たちはそれぞれが首を傾げている。どうやら心当たりはないようだ。
恵はチラリと厚田の方を向いた。それに対して厚田も小さく頷く。
「あの、質問を変えます。過去にこの島から姿を消した方などはいらっしゃいますか?」
「姿を消した……か」
この質問に対しても漁師たちの反応に変化は見られない。
「……この写真を見て頂いてもよろしいですかね?」
厚田は自分の携帯を取り出し表示されている画像を漁師たちに見せた。その画像というのは和泉が復顔した頭蓋骨が写し出されている画像である。その画像を見た漁師たちは再び首を傾げていたがその内の一人があっと声を上げた。
「この子……」
「ご存じなんですか!?」
勢いよく前のめりになる恵に驚いたのかその漁師は一歩後ろに下がりながら頷いた。
「ちょっとあんまり覚えてないから参考になるか分からないけど……多分その子、ウメさんの息子さんだと思うよ?」
その男の漁師は栗原と名乗った。垂れ下がった眉と目、微かな猫背も相まってどこか頼りなさそうな印象を受ける。彼は至る所に飛び跳ねている髪の毛を搔きながらこう言った。
「僕もあんまり記憶力に自信が無いから胸を張って言えないけど……昔ウメさんの息子さんが友達と遊んでる途中に姿を消したんだよ。と言ってももう三十年くらい前の話で当時僕は二十代だったからあんまり大きなこととは認識してなかったんだよね、なんなら明領様のもとへ連れて行かれたなんて大人たちは神聖化してたけど……今思い返してみるとすごい大変なことじゃない?僕たちだって明領様のこと大切に思ってるけど何が何でも明領様の行いにするには都合がよすぎるというか……」
栗原の言葉に他の漁師たちも頷いた。そして竹田とは別のもう一人の男性が口を開いた。
「三十年前かぁ。俺が生まれたか生まれてないかの時だな!因みに俺は何も覚えていないからな!」
長髪の男性は笑いながらそう言った。
鑑定結果に沿って考えてみると……頭蓋骨は男児のものだった。推定六歳から七歳。栗原の言う人物が姿を消したのが三十年ほど前となると生きていたら三十代後半になるだろう。
「……あれ、常世田さんって何歳でしたっけ」
「三十六になったって言ってたような気がするなぁ。あ、因みにその姿を消したって子は常世田君のお友達ね」
栗原は自らも確認するように頷きながら恵たちにそう教えた。
「そういえばあの時常世田君めっちゃ泣きよったなぁ。『海に連れてかれたー』ってな」
「海!?」
恵はまたもや勢いよく前のめりになった。二回目である。さすがに落ち着けと後ろから厚田がやんわりと引き寄せる。
「おちついて」
「あっ、すいません……」
気を取り直した恵は咳払いを一つすると再び栗原達に向かいあった。
「その海って……そこの海ですか?」
恵はすぐ近くにある海を指差し、視線を髪の長い男性に向けた。
「いや……俺知らないって」
「あっ、そうでした。すいません。栗原さん、そうなんですか?」
「あー……僕じゃなくて竹田さんの方が良く知ってるかも。覚えてます?」
四人に見つめられて思わず身じろぎした竹田だったが暫く何かを思い出すかのように視線を斜め上に向けた。
「どうだったけか……」
その時間はなぜか数秒にも数分にも感じられた。やがて竹田は何かを思い出したかのように片手を握りしめもう片方の手のひらを受け皿にポンッという動きをした。
――現代の鎖国と呼ばれる島でもその仕草は共通なんだ。
明らかに場違いな感想を抱いてしまった。
「水汲み場だ!」
「……井戸ですか?」
恵は初めて長谷川と出会った時のことを思い出した。そんな彼女に対して竹田は首を横に振る。
「違う違う。どうせアンタらはもうこの島のどこに畑があるとか知ってるんだろ?昨日常世田君と先輩刑事さんと一緒に歩いてるの見たからな。そう、洞窟だよ。で、そこから少し離れた場所に小さな池みたいな湖みたいな場所があるんだ。今はあまりキレイじゃなくて飲料水には出来ないから畑用の水になってるんだけど昔はもうちょっと澄んでたんだ。潜って水遊びが出来るくらいにはな」
「「潜って水遊び!?」」
竹田の言葉に今度は恵とそして厚田までもが驚いた。前のめりになった二人を見て竹田は苦笑いした。
「あんたら仲いいな……」




