クラスメイト
「俺が元いた世界のシステムじゃあ、引きこもりなんて忌み嫌われる部類だ。働かない、勉強もしない、訓練もしない、だかなんだか忘れたが、『ニート』とかっていう言葉も生まれたくらいだ」
「綺麗好き?」
「そっちじゃねぇ!! …なんで月が綺麗は伝わるのにニートが伝わらねぇんだよ」
ハルマは深くため息をつく。
「…でも、それはよくわかんないや。私が田舎者って言うのもあるかもしれないけど、世間を知らないだけかもしれないけど、なにか嫌なことがあったら、逃げるのが当たり前だよ」
「そうも言ってられねぇのが俺達の世界だよ。逃げることも抵抗することもさ…世間に少しでも反すれば、排除されるだけだ」
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放課のチャイムが鳴り響く。ついでに、聞きたくない邪魔な"声"も。
「やーい、バケモノー!」
うるさい。
「お前体俺たちと違うんだよなー?」
うるさいうるさいうるさい。
「そうなのかー? 体おかしいのかー? 寝てなくて大丈夫なんですかー?」
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
少しは黙る努力をしたらどうなのか。
俺は、俺を取り囲むクラスメイトに呆れ返る。
こういう所が、俺がよく言われる「子供らしくない」というやつなのだろう。
世間一般から見れば、こういう子供が『普通』らしい。俺には分からない。
これがいじめと言うやつなのだろうか?
教師に相談しておいた方がいいだろうか? …いや、それはないな。アイツらが助けてくれた事なんて1度もない。
むしろ、アイツらのせいでこうなっているのだろう。
子供ながらに考えた事だから、教師の動機は分からない。
だけど、『俺の体のことが広まっている』と考えると、やはりアイツらの差し金としか思えない。
だって、俺は人の前ではこの体のことを喋ったことがないのだから。
親の可能性もあるが、俺の両親は毎日家で騒いでいるように見えて意外と口が堅く、子供思いだ。俺にとって不利な情報を漏らしたことはこれまで1度もないから、そこは一応信頼している。
それらを交えて考えれば、本当に教師以外に犯人はありえない。
両親も、学校という施設の性質上、教師には話してしまうはずだ。
はぁ…と深々とため息をつくと、それを俺を取り囲む1人が見咎める。
「なんだ? 俺達は心配してやってるんですよ? なのにその態度?」
ニヤニヤしながら言われても説得力はない。
おっと危ない。火に油を注ぐところだ。無駄な関わりはできれば避けたい。
だからコイツらに対しては、俺は基本的に言葉を発さない。
「お前さ、なんでいっつも無視するの? 俺達はさっきも言った通り体を心配してるんだぞ?」
ほう、じゃあお前らのせいで体についた青アザに関しても説明してもらおうか。頭と腹についてるのはお前らが殴ってきたからで、腕についてるのは逃げようとした俺を無理やり掴んで引き戻そうとしたからじゃないのか?
「やーっぱり話聞かないな、お前。そういう失礼な奴にはお説教だな!」
その日も、俺はいつもの様に殴られ、蹴られた。
金を盗られてないだけ、まだマシか。
その日の帰り道。
「なんでハルマくん、助けを求めないの? …そりゃあ、見てただけの私も悪いけどさ…」
「見てたのかよ…」
クラスメイトのユウキはいっつも俺に構ってくる。
そんなところが少し気持ち悪く感じもした。
「ごめんね…私も助けたいけど…さすがに力じゃ男子に敵わないから…」
ユウキはそんなことをいいながらしょんぼりとする。
だから、そんな気遣いが気持ち悪い。
クラス中にいじめられる俺にとっては、ここまで構ってくるやつもまた、気持ち悪く感じてしまう。
「…あはは、こんなんじゃ、私もいじめてるやつと変わんないよね…」
ユウキは勝手にどんどん落ち込んでいく。
それもそれで気分が悪い。
「…別に。こうやって話聞いてくれるだけでもまだいいよ」
俺は適当に話を合わせる。別に、ユウキを慰めたかったとか、そんなもんじゃない。断じてだ。
「…そっか。ありがとう」
「お前が礼を言うことじゃねぇだろうけどな」
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「今思えば、アイツにかなり救われてたんだよなぁ。だから、やっぱりああいう対応になっちまうのは照れ隠しなのかもなぁ」
「そんな他人事みたいに…自分のことじゃん」
「まぁな。あぁ、それと、照れ隠しかもってことはアイツに言わないでくれよ」
「分かってるって。さすがに私もそこまで酷じゃないよ。…ところで、さっきユウキちゃんがクラスメイトって言ってたけど…先輩後輩じゃないの?」
「…いや、アイツは同級生だよ。アイツ一浪してるからな。俺と1つ分学年ズレてんだよ。それをアイツがふざけて先輩って言ってるだけだ」
「ふーん…」
モミジは興味なさげに頷く。聞いたくせに、といわれそうな反応だが、一浪などと言われても、モミジには、これまでの生活もあり分からないのだろう。それを分かっているハルマは、特に何も言わなかった。
「アイツのことを嫌いだーなんて言ったりもするけど、俺的にはアイツが居なきゃたぶんとっくに折れてるよ」
「言ってあげたら? ユウキちゃん、喜ぶんじゃない?」
「…今更言うのは恥ずかしいし、アイツ、喜ばないと思うぜ?」
「なんで?」
「…いや、アイツならさ….」
そこでハルマは少し言葉をきる。
「アイツなら…『別に私は何もしてないよ。だからお礼なんて言わないで』とかって、また勝手に落ち込みはじめそうだからさ…」
「そっか。…ハルマくんってさいしょは怖い人かなぁとも思っちゃったけど、やっぱり優しい人なんだね」
「最初はまぁ…な。…優しい人、か。初めて言われたよ」
ハルマは、嬉しそうな、それでいて、少し照れくさそうな、そんな表情をしていた。




