絶望閉鎖
おなか、すいた。
この家の人にひろわれて、もう二日がすぎていた。
ここに来るまでも、ろくに食べていなかったから、そろそろ限界だ。
でも、ご飯になにが入っているかわからない。
だけど、目の前の二人は普通に食べている。そもそもわたしをどうこうするなら、この二日でどうにだってできたはずだ。
目に前に並べられた料理の匂いが、つかれた頭を麻痺させる。おなかの虫がなりやまない。考えだって、まとまらなくなっていた。
気づいたころには、わたしは、イチゴのジャムがぬられたパンを、自分の手で、自分の口に運んでいた。
口のなかに広がる甘味と、ほんのすこしの酸味。
二人がなにかを言っているが、もうなにも聞こえない。あっと言う間に、わたしはコッペパンをみっつも食べきってしまっていた。
「…そんなにおいしかった?」
おんなの人が、わたしのほっぺたを手でぬぐう。
あわててたべたせいで、口の周りにイチゴジャムがべったりとついていたけど、わたしが一番おどろいたのは、わたし自身が泣いていたことだった。
「…まだまだあるぜ? 野菜好きか?」
そう言って、おとこの人はわたしにサラダを手渡す。
あぁ、こんな幸せいつぶりだろう。ご飯がおいしいし、ひとも優しい。
わたしはそのあとも、泣きながらご飯を食べた。おんなの人は、その間、ずっと背中をさすってくれた。
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「…ごめんね、話してる途中で泣いちゃって…」
モミジは、実は一回泣いていた。ハルマが撫でてやると、ちょっとして、落ち着いたが。
「しょうがねぇよ」
ハルマは水平線を眺めたまま言う。
「じゃあ、次は俺か…」
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「これはめずらしい」
ハルマの出産に立ち会った医師は言う。
ハルマは、臓器の位置がすべて逆だった。
普通左にある心臓が、右にあるといったように。すべての臓器が、左右反対だった。
これ自体には、とくに問題はない。
問題は、「めずらしい」ことだった。
ハルマはバケモノ呼ばわりされ、いじめの標的になった。
彼は、助けてくれなかった教師という存在が、未だに嫌いだ。
それだけでなく、思考面も周囲とずれていた。
満場一致となりそうな場面では、だいたいハルマだけひとりだった。
彼に、仲間なんていなかった。
次第に、彼は引きこもりがちになっていった。
高校は何とか行けており、大学にもなんとか受かったのだが、やはり、だめだった。
家から、出なくなった。
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「…俺も、出なくちゃいけないとは、思ってたんだけどな」
ハルマはそう言いながら、深い溜息を吐く。
ハルマの隣に置かれたバケツは未だ空っぽだ。
「無理して、出なくてもいいんじゃないの?」
「そう言ってくれるのはお前だけだよ…」
ハルマは、呆れとも喜びともとれるセリフを、どちらの感情も織り交ぜてモミジに投げかけた。




